今や世界を代表するポップスターとなった韓国の男性ヒップホップグループBTS(防弾少年団)。そのインパクトは『ハーバード・ビジネス・レビュー』すら動かしました。彼らがトップへと駆け上がったプロセスと戦略は、広報にとっても参考になる部分がたくさんあります。

世界を席巻したBTS。ファンとのコミュニケーション戦略は秀逸(画像提供:Silvia Elizabeth Pangaro/Shutterstock.com)
世界を席巻したBTS。ファンとのコミュニケーション戦略は秀逸(画像提供:Silvia Elizabeth Pangaro/Shutterstock.com)

ハーバードも認めたBTSの大ヒット

 私はコロナ禍でまず任天堂のゲーム「あつまれ どうぶつの森」にはまり、ネットワークのインフラが整うとNetflix(ネットフリックス)で『鬼滅の刃』を見始め、そのまま韓国のドラマや音楽といった韓流エンタメに“沼落ち”したクチです。先日読んだ『ファンベースなひとたち』(日経BP)という本に、「ファンベースとは自社のサービスやブランドを愛してくれるファンを大切にし、そのファンをベースにして中長期的に売り上げや価値を上げていくこと」と書かれていました。まさにこれは広報的ミッションでもあります。今回は趣味と実益も兼ね、広報視点で“ファン”について書いてみました。

 韓流エンタメに沼落ちした私は、広報らしく(?)情報収集できそうなメディアのチェックに加え、韓国の有名アーティストの事務所や本人のSNS、そしてインフルエンサー的なファンの方々のコミュニティーなどをフォローし始めました。たまにはコメントもしています。

 沼落ちして半年ほどたったころ、『ハーバード・ビジネス・レビュー』で「Big Hit Entertainment and Blockbuster Band BTS:K-Pop Goes Global」(2020年6月8日)というリポートが出たというニュースが飛び込んできました。BTSは韓国の7人組のヒップホップグループで、20年にリリースした「Dynamite」が米国のヒットチャートで1位を獲得し、日本でも一躍世間の注目を浴びる存在となりました。ハーバード・ビジネス・レビューが取り上げるくらいですから、そのインパクトがうかがえると思います。リポートを読むと、K-POPの産業構造や韓国におけるスーパースターの育成法の他、BTSが所属するBig Hit Entertainmentの取り組みや数字関連の情報などがまとめられていました。このリポートも参考にしながら、私なりの考えを加えてBTSとファンとの優れた関係について見ていくことにします。

 以前の私は、BTSに対してお化粧をして歌ってダンスの上手な、ただキレイな男の子たちという認識しかありませんでした。しかし、知れば知るほど応援したくなる。ただキレイなだけでもダンスが上手なだけでもないと気づいて、ファンになっていく人が少なくないと気づかされました。特に広報として注目したのは、「コミュニケーションの質の高さ」です。

 BTSのファンは、ARMY(Adorable Representative M.C for Youth=若者を代表する魅力的なMC)と呼ばれています。もともと14年に発足したファンクラブの名称としてファン投票で決まったそうです(BTSのデビューは13年)。私が見た大抵の動画でBTSのメンバー自身がARMYという言葉をかなりの頻度で使っていました。クローズドなファン向けのメッセージングの場だけでなく、音楽祭、番宣どこでも。一般的な「ファンの皆さん」ではなく、あえて「ARMY」と語りかける。私でさえ、あたかも自分に話しかけられているかのような気分にさせられました。

 コミュニケーションの基本ですが、固有名詞で話しかけられると距離が近く感じます。「広報さん」と言われるより、「遠藤さん」と呼ばれたほうが近しく感じるのと同じ。簡単でありながら、壁を取り払い、心をつかむために大変有効な手段です。

 コンテンツをアウトプットする頻度の高さと量の多さも見逃せません。BTS初心者の私は、最初はCDも何も持っていなかったので、ネットでBTSを検索しまくりました。するとYouTubeにたどり着き、そこでオフィシャルコンテンツの多さと更新頻度の高さに驚きました。前述のDynamiteの動画だけでも数え切れないほどありますし、BTS自身が話すコンテンツ動画も含め、少なくとも数日おきに新しいオフィシャルコンテンツが更新されています。ハーバード・ビジネス・レビューでも「YouTube has been the most important part of our digital promotion.」と語られていましたが、そのクオリティーの高さを考えると、ちょっと考えられないほどの情報発信の量です。

一貫したメッセージとコラボレーション

 次は言語の壁をあまり感じさせないこと。BTSのコンテンツは、ハングルが分からなくてもどうにかなります。メンバー自身が普通に英語や日本語で話している動画がありますし、ハングルだとしても必ず英語の字幕が用意されている。親の視点でいえば、「英語の勉強になるかも……」という淡い期待すら抱いてしまいそうです。ハーバード・ビジネス・レビューによるとK-POP全体のYouTube視聴数の国別シェア(19年)は、韓国はわずか1割。インドネシア、タイ、ベトナム、米国、日本、フィリピン、ブラジル、メキシコ、マレーシアときて、その他の国が残りの3割を占めています。BTSは、しっかり海外市場を見据えていることが分かります。

 BTSには「Love Yourself」をテーマにしたアルバムが3つあります。『LOVE YOURSELF 承‘Her’』(17年)、『LOVE YOURSELF 轉(てん) ‘Tear’』(18年)、『LOVE YOURSELF 結 ‘Answer' 』(18年)。さらにLOVE YOURSELFをメインテーマとしたビデオ、『Euphoria : Theme of LOVE YOURSELF 起 Wonder』(18年)を加えると「起承轉結」となります。音楽ライターではないので内容については触れませんが、1つのテーマに沿ってプロモーションを行うことは珍しくないでしょう。

 ここで広報として興味深かったのは、17年11月からユニセフと「LOVE MYSELF (私自身をまず愛そう)」というキャンペーンを並行して実施したこと。「LOVE YOURSELF」じゃないのもうまいですね。さらに18年9月には「LOVE MYSELF」をテーマに、ユニセフのグローバルサポーターとして世界中の若者たちに向けて、国連総会で流ちょうな英語を披露しながらスピーチをしました。BTSのリーダーであるRM自身が考え抜いたであろう言葉でつづられた、24歳の若者とは思えないほど堂々とした格好いいスピーチで、大ファンになってしまいました。

 ただ、広報的にちょっとうがった見方をすると、アルバムの発売と併せて「LOVE MYSELF」をテーマにスピーチをするのはリスキーな気もします。しかし、そんなことはなかった。そもそも「防弾少年団」というグループ名は、10代・20代に向けられる抑圧や偏見をやめ、自身たちの音楽を守り抜くという意味を込めてつけられたそうです。つまり、彼らが発してきたメッセージはデビューしてから終始一貫しており、このスピーチはその延長線上にある。だから納得感もあり、ごく自然に受け入れられたのでしょう。

 BTSの人気の原因は他にもたくさんあるかと思いますが、広報的に興味深かったことをいくつか取り上げてみました。単なる人気アイドルの話と思うなかれ。沼落ちしてみたら、企業広報にとって大切なヒントが隠れていました。

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