記者の前で、言ってはいけないことを思わず「ポロリ」ともらしてしまったことはありませんか。記者だって何でも書くわけではありませんし、広報との間に不文律や「大人の関係」が存在します。それでも記事化が止められない場合も起こり得ます。さて、広報としてどう対応すべきでしょうか。

記者の前で思わず「ポロリ」には気をつけましょう ※画像はイメージ(画像提供:studiostoks/Shutterstock.com)
記者の前で思わず「ポロリ」には気をつけましょう ※画像はイメージ(画像提供:studiostoks/Shutterstock.com)

「取材案内」で記事を書かないのはなぜ?

 世の中には不思議なことがたくさんあります。例えばどうして絶海の孤島のハワイに人が移住できたのか、どうして水族館のサメは小魚を襲わないのか、かき氷専門店は冬どうしているのか、などですね。その中の1つに「広報がマスコミに取材案内を出したとき、どうしてその段階で記事にならないのか」というものがあるのではないでしょうか。

 実は広報とマスコミの間に1つの不文律があります。それは「記者会見の案内では記事を書かない」というものです。これはなれ合いというわけではなく、どうせ発表内容は当日まで説明はしてくれないので、中途半端な内容で記事にするよりも、ちゃんと説明を聞いてから記事にしよう、という判断があるため記事にはしない(ならない)のです。

 とは言え、本当に必要な際は「報道の自由」という伝家の宝刀がマスコミ側にあるわけで、「書かなきゃいけないときは書くよ」という緊張感は、やはりあります。事実、企業買収などのスクープ性の高い会見の場合、間違いなく会見の案内で記事を書きます。そうなると会見前に大混乱になるので、それを回避するため会見の数時間前に案内を出すこともあります。

 企業買収のケースは特殊で、通常は会見の1週間以上前に案内を出すものです。ここで重要なのは、会見に来てもらうために興味を引くことを書いておきながらも、会見の案内だけで先行スクープを書かれないよう、肝心なことは曖昧にしておくという「情報の粒度」のバランスを取ることです。例えば「春の新生活に向けた新製品のラインアップの発表です」という程度ですね。

 しかし難しいもので、時にこちら側が大したことはないと思っていたことが、メディアからするとビッグニュースで、どうしても書かなければならない場合があります。

 事件が起きたのは2011年秋、NECパーソナルコンピュータがコールセンターを仙台に開設し、その開所式の取材をセットしたときのことです。こちらの想定としては開所式の様子を地元メディアが取材してくれればいい、程度に考えていたのですが、この想定が甘過ぎました。開所式の取材案内を送付してすぐに地元紙から連絡が入りました。

 「これはビッグニュースです。今すぐ記事を書いてもいいでしょうか」

 11年秋の東北地方と言えば、東日本大震災からの復興のさなかにありました。そこに一応は大企業であるNECパーソナルコンピュータがコールセンターを開設した。これは雇用拡大だ、復興支援だ、というニュースになるわけです。

 結局この時は「案内の内容で記事を書いてくださって結構です」ということで、開所式の前に各紙が第1報を書いて、開所式は第2報というなんだかまとまりのない発表になってしまいました。

 この時地元紙の方から言われた一言を今でもよく覚えています。

 「ここでウチが書かないでいることはできる。しかし、他紙が書かないということをあなたは保証できるのか?」

 確かに保証などできません。以来、案内のレベルで書いた内容は最悪記事に出ても仕方ないと思って出すようにしています。「メディアをコントロールする」などと言う方が時々いますが、私はそんなことを言う人をあまり信用していません。少なくとも他のメディアが既に入手している情報について1紙だけに「書くな」とは言えないわけで、それは当のメディアが仮にそうしてあげたいと思ってもライバル紙に後れを取るわけにいかず、いわばメディア自身でもニュースはコントロールできないのです。

記者懇談会で思わず「ポロリ」

 これについてはもう1つ似たような経験がありました。当社のスポークスパーソンをしていた某氏が、新聞各社を呼んでラウンドテーブル形式で懇談会を行った際の話です。

 「記者懇談会」というのは主に2つの種類がありまして、1つは何らかの発表ネタを用意しておき、その場の「お土産」として記者にレクチャーするもの。もう1つは会社やスポークスパーソンのバックグラウンドを深く理解してもらい、今後の記事のヒントにしてもらう、というものです。この時は明らかに後者の目的で開催され、集まった記者もそのつもりでゆったり構えていたのです。

 ところが某氏がポロリと「ジョイントベンチャーのレノボと国内の配送網を統一する」と言ってしまったのです。たかが配送網と思われるかもしれませんが、ロジスティクスというのは一大産業です。パソコンというそれなりの規模の産業のトップメーカーがその方針を大きく見直したわけですから、これはニュースとしては「アリ」なわけです。

 一番困ったのは実はその場に呼ばれた記者たちです。ちょっと顔を見合わせて、

「これ、書きます?」

「書き……ますよねぇ」

というやりとりになり、その日の夕刊に微妙な感じのニュースが載ってしまいました(新聞露出の場合、閲読率の低い夕刊には「載らない」工夫を広報はします)。

 ネタとしては「アリ」とは言いましたが、実際は「ギリギリアリ」という情報なので、できれば記者としては温めてもう少し膨らませて書きたいネタです。しかしここでも「他紙が書かないという保証はない」と全紙が思っていますから、記者はもう記事を入れるしかないわけです。

 実を言うとこのネタは近く単独取材をどこかの媒体に打診し、大きめの記事を1本書いてもらおうという皮算用だったので、誰も望まないタイミングでの記事になってしまったわけです。

 勢いで話をしない、どのタイミングでどこまでの情報を、誰に出すのか。ここの設計をあらかじめ精密に行うことが、結果として露出(マスコミでなく)をコントロールできる広報、スポークスパーソンということだと思います。

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