広報にとっては社員自体もまた情報発信の重要コンテンツです。とはいえ、ただ取材対応してもらえればOKというわけではありません。一歩踏み込んで、その社員自身の「ブランディング」に加担してみてはどうでしょう。ソニー時代の同僚の振る舞いが、パーソナルブランディングの大切さを教えてくれました。

取材相手に自分を印象づける「ブランド」はありますか? ※画像はイメージ(画像提供:Constantin Stanciu/Shutterstock.com)
取材相手に自分を印象づける「ブランド」はありますか? ※画像はイメージ(画像提供:Constantin Stanciu/Shutterstock.com)

ソニーの5代目「耳型職人」のある言葉

 「僕は太らないように体形を維持するのも仕事のうちだと思っています」――。五反田の駅前交差点だったと思います。何気なく「松尾さんは、昔から全然変わらないよね~」と言ったときに返ってきた言葉です。

 ソニーにはヘッドホンの開発目的で、人の耳型を採取する「耳型職人」という役割があり、設計者の間で代々受け継がれています。冒頭の返しをした松尾伴大さんは、その5代目でした。ちょうどその期間、私もヘッドホンの広報担当で、数え切れないほどの取材をご一緒した仲間です。

 松尾さんは現在、オーダーメードのヘッドホン担当で、取材対応のときは「白衣」を着ています。相手に自分のキャラクターを印象づける工夫や努力に、正直「やられた……」と思いました。ちなみに私が広報担当をしていた当時も、取材時はいつもフランスのセントジェームズ社のボーダーシャツを着て対応されていました。ですから、どの記事を見ても松尾さんだとすぐに分かる。徹底したパーソナルブランディングを実践されていました。取材を通じ、広報として演出することの重要性を学べたことに感謝です。

 今もヘッドホンの展示会などに顔を出せば、オーダーメードヘッドホンのコーナーで白衣姿の松尾さんを拝むことができます。今や白衣は松尾さんの専売特許のような感じになっています。ここまで貫くことは、なかなかできることではありません。

コンテンツとなる社員をブランディング

 広報的な視点で見たとき、企業がブランディングを行う際には、商品やサービスに加え、社員も1つの“手札”として捉えられます。一人ひとりの社員はその企業のブランド価値を決定するコンテンツであり、大切な構成要素。特に魅力的なコンテンツとなり得る社員を見いだしてパーソナルブランディングを施すのは、広報の仕事という見方もできます。

 人間のブランディングはその人自身の意思があるだけに商品やサービスよりハードルが高いのですが、特別なスキルがなくてもできることもあります。記者や編集者など取材する側に少しでも良い第一印象を持っていただけるよう、取材を受ける社員の外見をメンテナンスすることです。広報担当としてそれくらいのことはできます(関連記事:withコロナ時代の撮影術 製品や人物を魅力的に撮るための注意点)。

 実はこの連載を始めた頃から、外見に関する記事を書こうか書くまいかずっと迷っていました。容姿端麗でないと取材を受けるべきではないのか、という意見が想定されるからです。『美しすぎる○○』とか『イケメン○○』という切り口の記事が存在するのも事実ですが、これはあくまで外見そのものを切り口にした記事です。一般に企業広報が担当する取材の場合、社員の外見が露出の仕方や記事の内容に影響することはまずありません。

 では、何をメンテナンスするのか。基本は清潔感の演出です。さらに欲を出すとすれば、何をやっている人なのかイメージできるようなヒントを外見に盛り込み、印象に残るような個性を演出できれば言うことなしです。

せめて洋服にはアイロンを

 取材を受ける対象者は芸能人ではありませんから、自分自身がコンテンツの1つだと広報が考えているとは思っていないでしょう。ただ自分の担当する商品やサービスの魅力を伝えたい一心で、取材に対応する方が大多数です。

 広報としては会社の代表として取材を受けてもらうのだから、外見についても最低限のラインは担保したいところです。私が昔から必ずお願いしているのは、洋服へのアイロン掛けです。当たり前すぎますが、一般人だからといってしわだらけのシャツで撮影に挑むなんてあり得ません。どう考えても、すてきな写真に仕上がるわけがない。

 スマホアプリなど、手に持って見せる必要のある商品やサービスであれば、爪を整えることも伝えます。ちなみにネイルの柄が派手すぎると、商品やサービスより爪のほうが目立ってしまうので、ほどほどにとどめてもらいましょう。広報担当者も手タレになる可能性がありますからメンテナンスは怠りなく。

 ちなみに「清潔感=無難」ではないと覚えておいてください。明るく若々しい印象を与えるのが基本。ただの白いシャツや喪服のような面白みのない服では記事化されたときに読者の目に留まらず、印象にも残りません。色やデザインで少し遊んでもいいと思います。情報番組の出演者が着ている衣装を参考にしてもいいでしょう。いずれにしても、取材を受ける方は、とにかく洋服にアイロンを掛けるのだけは忘れないでください。

 松尾さんの例ではありませんが、ある特定の衣装を決めて取材を受ける方も多くいらっしゃいます。黒いタートルネックにデニムのジーンズというスティーブ・ジョブズ氏のスタイルはあまりにも有名ですが、IT業界において革ジャンといえば、米NVIDIA(エヌビディア)の最高経営責任者(CEO)ジェンスン・フアン氏です。名前は覚えていない人でも、業界の人であれば展示会の記事の中に革ジャンの写真を見つけると「あー、NVIDIAのCEOが登壇していたのね」と脳内変換されるのではないでしょうか。

 つい先日ですが、ある献立アプリの説明会で、担当者の方には胸当ての部分にアプリのロゴをプリントしたエプロンを付けて取材対応していただきました。テレビ取材でもオンライン配信でも、音声がなくても、アプリ名とエプロンからキッチン関係だとイメージできる演出で、良かったのではないかと思います。

 もちろんケース・バイ・ケースですが、広報担当者が取材対応者を演出できるようになると、広報の仕事がより楽しくなります。人間が相手なので思い通りにいかないこともあると思いますが、できる部分からで構いません。アイデアを絞って、取材対応者のパーソナルブランディングについて考えてみてはいかがでしょうか。

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