マーケティングのトップであるCMO(Chief Marketing Officer)と広報の間には、理解し難い溝やギャップがあります。記事という「仕上がりの読めない成果物」に対し、広告のような予測が求められることも。データ分析が進むマーケ部門からすると、広報は気難しい職人のように見えます。

私が求めているのはこんなものじゃない!! ※画像はイメージ(画像提供:Teerapong Teerapong/Shutterstock.com)
私が求めているのはこんなものじゃない!! ※画像はイメージ(画像提供:Teerapong Teerapong/Shutterstock.com)

CMOからの相談、広報がプランを出してこない

 長髪に作務衣姿の陶芸家が、気難しそうに焼き上がったばかりのつぼを眺めている。やおらそのつぼを持ち上げると、「ちがーう!」と叫んで地面にたたきつける――。どこかで見たようなシーンで、陶芸家というとこんなイメージがあるのは私だけでしょうか。

 この続きとして、恐る恐るテレビのリポーターがマイクを向けると、なにやら難しいことを語り始めます。

 「陶芸は窯に入れて焼き上がるまで、結果は毎回違うんです。窯の温度、釉薬(ゆうやく)の状態、土のわずかな性質の違い……確実にこうなると分からないのが陶芸なんです」

 実は広報の仕事の難しさは、この陶芸の窯入れとちょっと似たところがあります。それ故、時に周囲の理解を得られないことがあります。その話の前にちょっとだけ広報とマーケティングの仕事の違いについてお話しします。

 このコラムを書いているせいか、私のところには広報にまつわるいろいろな相談がきます。1つは同じ広報担当者から、もう一つは広報部門を傘下に持つマーケティングのトップ、CMOからです。前者で多いのは「上司がマーケティングの人なんで、広報のことを理解してもらえない」というもの。そして後者で多いのが「部下の広報がなかなか仕事をコミットしようとしない」という相談です。

 賢明なる読者の皆さんはもうお気づきと思いますが、これは1つの事象を違う立場から語っているのです。

 できるCMOは常に戦略を練っています。例えば「小学生の孫にパソコンをプレゼントする」というトレンドをつくることにより、パソコン需要を拡大し、利益拡大を図る、というマーケティング戦略だったとします。次の段階は、これを実行するための戦術の話になります。メッセージはこれ、クリエイティブはこう、露出媒体はこう、デジタルはこれこれ……優秀なマーケティング組織は各担当が戦略を理解し、テキパキとプランをつくっていきます。

 そしてふと横を見ると広報がいるわけです。CMOから広報にこんな言葉が投げかけられます。

 「ではこの戦略に沿って、広報はどこに、いつ露出が出せるか、プランをつくってください」

 まあ、そう聞きますよね。それに対して、広報はこう答えるのです。

 「そんなの分かるわけないじゃありませんか」

 CMOはもちろん、周囲の人間からすれば驚愕(きょうがく)の一言です。アレ? どうして広報だけこんな返事を返してくるのかしら。

 マーケティングのトップが気にしているのは、まずは仮説に基づいてコミュニケーションを実行してみること。その結果、想定した通りに消費者が反応してくれたか(上記の例の場合だとおじいちゃん、おばあちゃんが孫のために実際パソコンを買おうと思ったか)について、効果測定をしたいのです。ところがこの広報は、その前段の実行プランの段階で、できるできないと1人プンスカしている。これでは話が進みません。

実行プランに不確実性が伴う広報と陶芸

 こうした状況における広報の立場を代弁すると、マーケティング部門では予算、制作、出稿とほぼすべてのプロセスが自分の手元で、それこそ句読点の位置一つまでコントロールできます。対して広報の場合、プレスリリースのような成果物まではコントロールできても、それが自分の手元を離れてメディアという隔離されたプロセスに移行してしまうと、出来上がりは記事という基本的に修正のきかないものに変わっています。これを広告の出稿計画と同じ精度でコミットせよ、と言われてもなあ……というわけです。

 このギャップって何かに似てないかな、と考えて思い出したのが、冒頭に書いた陶芸家の姿(あくまでイメージ)です。広報の仕事はまずマスコミにプレスリリースを配信することです(窯入れ)。しかしその後の結果は、マスコミがどう解釈したか、あるいはそのとき、他のニュースとの兼ね合いでどこまで大きく扱えるかによります(温度、釉薬、土)。こうした不確実性の中で結果を問われるのが、広報という仕事の難しさ(醍醐味)です。

 データで何でも分析できるようになってきた最近のマーケティング視点で見ると、こうした広報の対応にギャップを感じてしまうようです。イメージとは異なる焼き上がり(記事)を見て、クワっと目をかっぴらいてつぼをたたきつけたくなるのは、案外CMOのほうかもしれません。

 では、CMOは気難しい陶芸家を1人チーム内に招き入れていると思って広報と付き合ったほうがいいのでしょうか。さすがにそれは違います。

CMOが広報と議論すべき点とは

 ここでCMOとしてすべきは、焼き上がり(記事露出)の出来具合を勝手にトップダウンで決め、「なぜウチは日経新聞に載らないんだ」と広報を責めるのではなく、そもそもどういう意思を持って「窯入れをすべきか(プレスストーリーをつくる)」を議論することだと思います。また広報担当としては「素人には説明してもどうせ分からん!」と、あまり職人気質になりすぎないことでしょう。

 我々広報は錬金術師ではないので、できることには限界があります。そのことをCMOに理解してもらう上で大切なのが「今回はせいぜいこんな露出だと思います」という、いわば「焼き上がりを予測する」能力だと思います。これは大きな露出を獲得することよりも難しい広報のスキルです。

 恐らく優れた陶芸家は行き当たりばったりで作品をつくっているのではなく、コントロールできない窯の中の状態を把握し、かなり高い精度で仕上がりを予測できているはずです。同じように私の知る優秀な広報は皆、今回はここまでいけるね、あの媒体なら書いてくれると思うよ、ちょっとこのネタは時間がかかるね、というようにマスコミの反応を予測します。広報担当の予想がピタリと当たったとき、どうしてそう予測したのかを解説していくと、やがてCMOとの間にいい信頼関係ができるのではないでしょうか。

3
この記事をいいね!する

『マスコミ対策の舞台裏 役員からの電話で起こされた朝』

『マスコミ対策の舞台裏 役員からの電話で起こされた朝』
2021年12月28日発行
 連載「風雲! 広報の日常と非日常」が本になりました。これまで3年半以上に及ぶ、約150本のコラムの中から、「マスコミ対策」に焦点を絞って再編集。企業や個人までも手軽に情報発信できるSNSがもてはやされる今日ですが、“バズった”記事の出どころをたどると、マスコミの記事や番組であることが少なくありません。だからこそ、企業は「情報の源流」でもあるメディアへの対策を十分に練り、正しい情報を伝え、記事や番組として発信してもらう重要性がこれまで以上に高まっていると言えます。本書は連載でおなじみの現役広報パーソンである二人の著者(鈴木正義氏、遠藤眞代氏)が、20年以上にわたる記者や編集者との生々しい駆け引き、社内でのあつれき、成功談・失敗談から導き出された「記事や番組に採用されるためのテクニック」「メディアとの関係構築法」「危機感管理術」などを、当時の現場の様子や本音を交えながらリアルに書きつづっています。読み物としても楽しめる中身の濃い1冊に仕上がっています。

第1章 広報しか知らないマスコミの素顔
第2章 取材対応こそ危機管理の要
第3章 経営者が知っておくべきマスコミ対応の落とし穴
第4章 掲載を勝ち取るマスコミへのアプローチ
第5章 天国と地獄が交錯するプレス発表会
第6章 今だから言える企業広報の裏話
全83エピソード(350ページ)
Amazonで購入する