盛り上がった米大統領選挙。民主党のバイデン氏の勝利で幕を閉じた……と、すんなりコトは運ばないようです。騒動の中心は言うまでもなく共和党のトランプ氏。破天荒な発言やバイデン氏との対立構造は世界中の関心を集めました。このビッグイベントを広報視点でながめると、学べることは多そうです。
マスコミが求める「対立構造」
ここ最近の大きなニュースといえば、何といっても米国の大統領選挙でしょう。2020年11月18日現在、バイデン氏は勝利宣言を行ったものの、トランプ氏は裁判も辞さぬ構えでまだ敗北を認めていません。これは政治コラムではないので、選挙結果やそれぞれの候補者とその政治方針を論じるつもりはありません。しかし、大統領選挙を世界で最も注目される広報活動として捉えると、いろいろと学べる面もあるのではないかと思い、ちょっと広報視点で振り返ってみることにします。
そもそもなぜ米大統領選挙はこうもマスコミから注目されるのでしょうか。当然、米国は超大国であり、そのトップが誰になるかは世界の全市民の重要な関心事です。それでも今回の大統領選挙、もしかすると菅義偉首相の自民党総裁選よりもマスコミの取り上げ方は大きかったのではないでしょうか。結果の見えている総裁選に比べ、今回の大統領選挙は報道すべき話題が山盛りでした。
まず、何といってもトランプ氏のキャラクターの強さです。そのトランプ氏苦戦の論調で序盤は始まり、そうかと思えば終盤のトランプ陣営の巻き返し、拮抗する開票速報で「もしかしてトランプ氏ワンチャンあるかもよ!」となり、要するにその「対立構造が面白かった」のです。
マスコミに大好物というものがあるとすれば、それは対立構造です。巨人対阪神、ホンダ対ヤマハ、ソニーウォークマン対アップルiPod、VHS対ベータ、きのこの山対たけのこの里……などなどです。それぞれのキャラクターの違いが鮮明で、実力も拮抗している者同士が競い合うのは、報道として面白くないはずがありません。
誤解のないように書いておきますが、報道の本分は国民の知る権利に応えることです。しかし、その報道の本分を押さえたうえで、なおかつ面白い=読まれる、見たくなるニュースを目指すのは、表現者として当然の行動だと思います。実際、我々大衆は面白いニュースを求めています。
「ウチの会社、全然マスコミから取り上げてもらえないんですよねー」と悩んでいる広報も多いかと思いますが、ライバルとの「面白い対立ストーリー」を作り出してみるのも手です。最後に例に出した「きのこたけのこ戦争」なんか、そのいい例ですね(まああれは宣伝ですが話題になりましたよね)。ただ、少しの差で自分たちに有利な結論が出てくる勝算がないと、逆効果になってしまいます。
スポークスパーソンとしてのトランプ氏
もう一つ、先に書いた通りこの選挙は少なくとも日本のメディアでの主役はトランプ氏でした。破天荒な言動で、とかく世間の耳目を集めたトランプ氏。政治家としての手腕は後世の評価に委ねたいですが、スポークスパーソンとしては注目せざるを得ないものがあります。
「Make America Great Again」
日本の中学生でも考えつきそうな単純なフレーズですが、こんなにもシンプルでありながら、方向性を端的に言い表した政治スローガンはかつて聞いたことがなかったように思います。分かりやすいといえば他にも、前回の選挙戦での「メキシコとの国境に壁をつくる」という映像が頭に浮かんでくるような発言。この分かりやすい言葉選びとトランプ氏の予想以上の躍進とは、無関係ではなかったと私は思います。
一方、たびたびの問題発言、記者団との必要以上の対立など、いただけない側面も多々ありました。特にSNSを通した数々の発言は、どこまで広報担当と合意していたのか分かりませんが、独断専行のSNS発信をやられてしまうと、広報はもうお手上げです。自分は良いスポークスパーソンであるという自信がある人ほど、このリスクは大きいと思います。
街の声は最大の武器
もう一つ、これは今回に限らずですが、選挙戦になると双方の主張を追うだけではなく、マスコミは「街の声」や「識者の意見」を実に多く拾います。特に両陣営の支持者といわれる人がどんな人なのかを通じて、我々はそれぞれの候補者の立ち位置や目指す国家像を理解できたと思います。
我々企業の広報も、自らが情報発信するだけでなく、製品を使うユーザーの声や、専門家の批評、こうしたものをうまく活用することがあります。確かに自社の主張をストレートに伝えてもらうニュースはありがたいのですが、一方でマスコミは客観性のある意見を組み込む必要があり、一般のユーザーの声を拾うことがあります。そうしたときに、どういうタイプの人がその製品を支持しているかで、その製品のポジショニングが明確になります。
例えば、「ライフスタイルにこだわった消費者の心に響く洗練されたデザイン」とリリースで書くよりも、販売の現場を取材してもらい、どんな人が買っているのかを見てもらうほうが、はるかに説得力があるということです。特に直営店のような店舗を持っている企業であれば、オシャレな若者でごった返す店内(時節柄ごったがえすのはよくないですが)を取材してもらえば、もうあとは放っておいてもこの会社の製品はどんなユーザーに支持されているかが伝わるわけです。
海の向こうの大統領を決める選挙とその報道ですが、こうしてみてみると広報としてはいろいろ勉強になります。他にも広報視点でまだまだ発見があるのではないかと思います。