新交通「ゆりかもめ」の公式アカウントからの投稿で、NECの“ある製品”がバズりました。広報としてはうれしい半面、不安もあります。いったい、投稿してくれた先方といかに絡めばいいのか。下手をすればネット上で炎上しかねません。筆者の鈴木正義氏が取った行動とは……。
きっかけは「ゆりかもめ」の投稿
ある日、突然、同僚からこんなメールが送られてきました。
「鈴木さん、大変です。何かSNSでウチの製品がめちゃくちゃバズってますよ!」
広報に職業病というものがあるとすれば、いつも最悪の事態を想定してしまうことです。
(ウチの製品がバズってる? 誰か何かやらかしたのかな……)
ドキドキしながら同僚の送ってきたリンクを開くと、東京臨海新交通臨海線・ゆりかもめ(東京・江東)の公式アカウントからの投稿で、以下のような内容でした。
「設備メンテナンスで使用していたパソコン(写真)が引退しました。25年前のパソコン『PC-9801』で、開業から使用していました。持ち運びには苦労しましたが、安全・安定運行を陰から支える頼れる一台でした。おつかれさまでした」 @yurikamome_info
PC-9800シリーズといえば、1980~90年代において日本のパソコン市場で圧倒的なシェアを占めていた当時のNECの看板商品で、オフィス用途以外でも広く使われていました。実績のあるプログラムが安定して動くため、産業機器の制御などで今でも根強く使われているのです。
それにしても25年間働き続けたというのはさすがに珍しい。確かにこれはバズりますね。ちなみに、通常パソコンは生産終了から5~6年程度で修理用部品の提供も打ち切ります。ですから25年も使い続けるのは、メーカーとして決してお勧めできるものではありません。念のため。
最近のマーケティングといえば、とにかく「バズらせろ」の大号令。このコラムを読んでいただいているマーケティング担当の方も、日々その要求にどう応えたものかと頭を抱えているのではないかと思います。しかしですね、いざ本当にバズってみると、意外と不安なものです。気がつくと、ゆりかもめの公式アカウントで5万以上の「いいね」が付いて、完全にバズった状態になっているのはいいとして、ここから先はどうしたら正解なのか全く分からず、ただうろたえていました。
・案その1:放置。でもなんかもったいないんじゃないか?
・案その2:さらっと「いいね」でもして終了
・案その3:積極的に絡みにいく
間違いなく「3」をやりたいのですが、果たしてどう絡めばいいの? 下手なことをしたら炎上するんじゃないの? そもそも25年間使っていたことをメーカーが追認する形になると、何らかのクレームを入れてくる人が出てこない? 先方に迷惑にならない?――。
とかく心配性な広報、完全に思考停止していたところに、1つのチャットが飛んできました。
「鈴木さんこれ、工場で引き取って玄関に飾ろうよ」
このPC-98を設計生産していた山形県の米沢工場の担当者からです。工場にはその製品を設計したエンジニアも健在で、ぜひ生まれ故郷の工場で余生を送ってもらいたい、という提案です。この連絡で、うろたえていただけの状態から何とか道筋が見えてきました。
早速わが社のSNS担当に頼んで「引き取らせてほしい」という形で絡んでもらいました。その後は先方ととんとん拍子で話が進み、しかるべき手続きを経た後、無事くだんのPC-98は米沢工場に里帰りし、その様子もSNSで投稿されました。こちらも初回ほどではありませんが、たくさんの「いいね」を付けていただきました。
この一連のSNS上での出来事は多くのメディアで報道され、恐らくNECおよびゆりかもめ様の好感度はかなり上がったのではないかと思います。SNS上での企業のコミュニケーションとしては理想的な展開だったのではないでしょうか。