プレゼンテーションでは企業のメッセージを分かりやすく正確に伝えることが重要。しかし日本では下手なプレゼンでも、聞き手が頑張って相手の意図をくみ取ろうとします。これではすべての人に正しい情報が伝わるとは限りません。大切なのはプレゼンのメッセージが「贈り物」であるということです。

あなたのプレゼンは正しく相手に伝わっていますか? ※画像はイメージ(画像提供:Gorodenkoff/Shutterstock.com)
あなたのプレゼンは正しく相手に伝わっていますか? ※画像はイメージ(画像提供:Gorodenkoff/Shutterstock.com)

心に刻まれた孫正義氏の講演

 ニュース番組では、発表会で企業トップの行ったプレゼンテーションのシーンが、ほんの数秒だけ放送されるのをよく目にします。そのプレゼンをじっくり見ている人は、いったいどれくらいいるのでしょうか。よほど興味のある企業でもない限り、そこまで真剣に見ないのが普通だと思います。

 恥ずかしながら、私は数年前まで競合企業が行う発表会のプレゼンに、さほど興味はありませんでした。自分の仕事を回すことに精いっぱいで、そもそも見る必要すら感じていなかったのです。プレゼンは話す人や担当者がつくればいいと考えていました。しかし、フリーランスになって色々な会社の広報活動を研究しているうちに、「広報もプレゼンについて学んでおくべきだ」と思うようになりました。

 そこでメディアの方にプレゼンが上手な経営者について質問をするようになりました。やはりさまざまな分野の企業トップのプレゼンを、たくさん見聞きしているメディアの方ですから。

 私の担当領域はデジタル系なのでよく名前が挙がるのは、予想通り米アップルの故スティーブ・ジョブズ氏。日本人ではソフトバンクグループの孫正義会長兼社長です。幸運なことに、私ははるか昔、孫さんの話を直接伺える機会に恵まれました。東京商工会議所のイベントで孫さんが自身の新刊について話されたのですが、「誰もが実現不可能と思えるような新しい事業を手掛け、それを成功させる方法」についての講演は、20年たった今でもしっかり心に刻まれています。パワポの資料などはなく、身ぶり手ぶりと熱のこもった話し方に引き込まれ、思わずウルっときました。

 一方のジョブズ氏から直接話を伺える機会はありませんでしたが、メディアの方が集まったときに「スティーブは、何年にこんな話をしていたよね」という話を耳にすることがあります。そうした場に居合わせると、インパクトのあるジョブズ氏のメッセージが報道されただけでなく、そのプレゼンは何年たっても色あせることなく語り継がれ、やがて今日のような強固なブランドへとつながったのだろうなあ……と広報パーソンとしては思うわけです。

 実は数年前から、私の友人でもあり企業にプレゼンを指導されている齋藤礼子さんに、効果的なプレゼンの方法について教わっています。彼女によると、「プレゼンテーション」とは話を受け取った方に何かを「プレゼント」して、「行動を起こさせる」ものだそうです。孫さんやジョブズ氏のプレゼンはメディアの人間や大衆の心を動かし、商品やサービスの購入へとつなげ、さらにそのメッセージが与えた印象が長い間記憶に残るのですから、素晴らしい贈り物を届ける最高のプレゼンターと言えるでしょう。

英語と日本語の違いがプレゼンの構成に与える影響

 さて、日本人の私たちにとっても、英語圏のプレゼンは結構理解しやすいと感じたことはありませんか。齋藤さんによると、英語圏では聞き手が多様性に富んでいることもあり、彼らが迷子になって間違ったメッセージを受け取らないよう気を付けているとのこと。そのためメッセージをシンプルに、プレゼン中に寄り道せずにメッセージを受け取れるように誘導する、それらを意識した構成になっていることが多いそうです。

 これに対して日本語の場合、相手も日本人が大半です。スピーカーが言いたいと思っていることを、聞き手側も(頑張って)想像できる。だから最後に辻つまを合わせれば、何となく体裁が整います。日本語の場合は聞き手が頑張るのに対して、英語ではプレゼンターが頑張る傾向にあると聞いて、納得がいきました。

 すごい経営者みたいなプレゼンがまだできるわけではありませんが、齋藤さんにアドバイスを頂きながら、私がある企業向けに作成したプレゼンを例に挙げたいと思います。

 英語圏でも通用する、言い換えるとメッセージに的を絞ったプレゼンをつくるのは、実際にやってみるととても大変でした。関連しそうな情報や図、写真を入れたプレゼン資料をつくり、後はそれに沿って話せばいいやと思っていましたが、それは大間違い。最初は「言いたいことに使えそうな資料集め→プレゼンにはめ込み→プレゼンに合わせて話す内容を考える」という流れで考えました。これではうまくいかないので、「コアメッセージづくり→メッセージを伝えるために必要な要素出し→メッセージの邪魔になるものをそぎ落とす→シナリオづくり→プレゼンテーションに落とし込む……」という工程になりました(実はもっと作業はありますが)。

 私のプレゼンの構成を例に挙げるとこんな具合です。とてもシンプルなつくりだということが分かると思います。

【コアメッセージ】記事にしてもらいたい企業とマスコミとの間には乖離(かいり)がある

・次の2点を広報が埋めることで記事化につながる
 【1】コンテンツ(プレスリリースなど)に対する認識や知識の乖離
 【2】(メディア関係者や記者などとの)物理的な乖離

【1】コンテンツ(プレスリリースなど)に対する認識や知識の乖離
<課題>
 ・ニュース性がない
   →(事例、それによって生じるリスク、解決策)
 ・タイミングが悪い
   →(事例、それによって生じるリスク、解決策)……

【2】(メディア関係者や記者などとの)物理的な乖離
<課題>
 ・面識がない
   →(事例、それによって生じるリスク、解決策)
 ・関係が続かない
  →(事例、それによって生じるリスク、解決策)……

 このような構成になると、すべてのプレゼンシートがコアメッセージを補完する役割を担い、迷子の心配もなくなります。ビジネスのプレゼンは余計な情報をそぎ落とし、誰が聞いても同じメッセージを受け取ってもらえるよう構成を研ぎ澄まさなくてはなりません。特に広報は企業や製品のメッセージを、発表会や取材を通してメディアに正確に発信する窓口です。こうしたプレゼン思考は常に心がけておく必要があるでしょう。