画面が折り畳めるパソコンとして注目のレノボ「ThinkPad X1 Fold」。会社肝煎りの製品だけに、広報としては影響力のあるテレビや全国紙に取り上げてもらいたいのが本音でしょう。しかし筆者の鈴木正義氏は、小さな媒体の1本の記事が大きなメディアを動かすことを知っていました。

筆者の鈴木正義氏ご自慢の、レノボ「ThinkPad X1 Fold」(画像提供/レノボ・ジャパン)
筆者の鈴木正義氏ご自慢の、レノボ「ThinkPad X1 Fold」(画像提供/レノボ・ジャパン)

「あり得ない動き」にテレビが反応した

 前回書いた通り、レノボの「ThinkPad X1 Fold」という新製品を2020年9月に発表しました。この製品は13.3インチの画面を持つパソコンですが、その画面が2つに折り畳めてコンパクトに持ち運べる、なかなか画期的な製品です。

 いろいろ悩んで発表にこぎ着けたところ、おかげで様々なメディアに取り上げていただきました。まず反応したのは、やはりテクノロジー製品なのでオンラインメディア、特にIT系の専門媒体はガッツリと熱い記事を書いてくださいました。

 次に食いついてくれたのは意外にもテレビでした。本来テレビニュースの枠は競争が激しいうえ、パソコンのようなコモディティー化した商品をテレビで取り上げるのは「きつい」のです。それでもテレビが食いついてくれた1つの要因は、製品に「動きがある」からだと分析しています。

 毎回好きなことばかり書いているこのコラムですが、「スキルアップ」のタグも付けていただいているので、たまにはまともなことを書きますと、テレビでニュースになるにはどれだけすごいかに加え、「面白い映像」があるかないかが重要です。面白い形、動き、あるいはリポーターがいじってカメラの前でどういうリアクションがとれるか。こうした「テレビ的である」ことが、その製品をテレビで取り上げてもらえるかどうかのかなり重要なポイントです。

 その点ThinkPad X1 Foldは、本来曲がってはいけないパソコンの画面が折れ曲がるという、あり得ないような動きをするので、いかにもテレビ向きです。加えて「世界初」「日本人が開発」といった話題性もそろっていたので、内心「これはテレビいける」と思っていました。

 案の定、2つのキー局から連絡があり、発表当日の夜のニュースで取り上げていただきました。さらに予定外にも、両局の朝の番組でもそれぞれ放送されました。テレビ局というのは放送された番組を見て、「これ面白いからウチもやろう」という判断をすることがあります。朝の2つの番組も、恐らく前日の放送を見て「ウチもやろう」という判断をしてもらったのだと思います。いわば「ニュースがニュースを生んだ」わけです。

 このニュースがニュースを生むという現象、何もテレビ番組同士だけで発生するものではありません。私自身、視聴者数ではテレビには及ばないものの、影響力を持つ媒体の記事が、やがて全国版のメディアへの露出につながったことを何度となく目撃したことがあります。

 2000年代、「デジタルARENA」というWebメディアの中に、「iPod情報局」というブログメディアがありました。規模は小さいながらも、恐らくiPodに関する情報では一番詳しい媒体だったと思います。そこで取り上げられた情報が、たくさんの新聞、テレビニュースの発信源になっていました(ちなみにそのブログメディアを出していたのは、他ならぬ日経BPだったりします)。

 このニュースが次々と連鎖していくのが、斜面を転がる雪玉がどんどん大きくなる現象に似ていることから、私は「スノーボール現象」と呼び、それを意図して行うことを「スノーボール作戦」などと勝手に命名していました。

 そして、ThinkPad X1 Foldにもまさに、この現象が起きました。

専門媒体が発信する記事の影響力

 「鈴木さん、テレビ朝日から取材の依頼がきてますけど」

 発表の翌週、いきなりテレワーク中の私のパソコンにそんなチャットが飛び込んできました。こうなった経緯を追うため、時間を1週間巻き戻します。

 「PC Watch」というオンラインメディアがあります。その名の通りパソコンの専門ニュースサイトで、かなり熱量のある記事を毎回書いています。どれくらい専門的かといいますと、実は同サイトの記事を読んだ米メジャーリーグ、シカゴ・カブスのダルビッシュ有投手がツイッターで、

「この数年で一番敗北感を感じた。(略)最後まで読みきった結果、何に対しての商品かすら理解できんかった」

と白旗を上げるくらい、時にかなり専門的な記事を書くメディアなのです。

 その媒体が、まずX1 Foldについて記事を書きました。次にその記事が、記事提携している「フジサンケイビジネスアイ」紙に転載されていました。フジサンケイビジネスアイは「日経産業新聞」などと同じ産業関連の専門紙で、発行部数は全国紙には劣りますが、丁寧に産業界のニュースを報道しています。そしてその記事を、今度はテレビ朝日の番組スタッフが見つけて「これやろうよ」ということになったのです。まさに雪玉がゴロンゴロンと転がって、テレビという大きな視聴数を持つ雪だるまになったわけです。

 世の中には人のやっていることに、言い掛かりをつけたがる人がいるもので、広報はよくその標的にされます。よくあるのが「ウチの広報は、テレビや全国紙に大きく情報を出す力がないから、専門媒体ばっかりと付き合ってる」というものです。そういう人には、今回のテレビ露出は「この会社の広報は相当テレビ局にコネがあるんだなー。それに比べてウチの広報は……」というふうに見えていることでしょう。しかし、我々もしょっちゅう「テレビ的な」ニュースがあるわけではないので、それほど親しい関係を持っているわけではありません。ただ、雪玉がゴロゴロと大きくなっただけです。

 今回の発表は世界同時発表だったのですが、日本の露出は質、量ともに非常に良い結果だったと評価されています。これについては骨太な記事を書いてくれた専門媒体各社のおかげと思っています。専門性が高すぎて難解だとか、発行部数が少ないからといって軽んじるのではなく、そういった記事が他のマスコミに及ぼす影響力ということも広報の戦術として計算に入れておくべきです。

 もう少し戦略っぽく表現すると、どのメディアが誰に対し影響力を及ぼし合っているのか、そこまで計算して広報のプランを立てたほうがよいということです。今回はそんなことを再認識した製品発表でした。