メディア向けに用意されたQ&Aと言えば、謝罪会見などで発表者が手元に置き、言い訳がたくさん書かれている秘密の資料というイメージを持っている人も多いでしょう。今回はメディア向けのQ&Aについて解説します。
Q&Aはプレスリリースの補足
メディア向けQ&Aの主な役割は、プレスリリースなどを補足するための資料です。もしプレスリリース自体に補足の必要がなければ、Q&Aの用意はまず必要ありません。私の場合、スタートアップ企業のプレスリリースで記者用のQ&Aをつくらないこともあります。言うまでもなく、それはプレスリリースに記者が必要と思われる情報を網羅できているからです。
そこでどうやって情報を網羅するかですが、「よくある質問」を最初からプレスリリースの中に組み込んでしまえばいいのです。ケース・バイ・ケースですが、小規模な企業の場合、よく聞かれることはほとんど決まっています。プレスリリース自体もシンプルですから、質問されそうな事柄をどんどん入れ込んでも、それほど煩雑な感じにはならないでしょう。
しかし事業の規模が大きくなり、知名度も高くなってくると、記者の関心度も上がります。よくある単純な質問だけでなく、踏み込んだ質問をされるようになるので、メディア向けのQ&Aの準備が必要になってきます。また、事業規模が小さくても発表会などを開く場合は、企業側から発信する情報量が多くなります。その際、プレスリリースに情報を入れ込み過ぎると煩雑になってしまうので、Q&Aの出番となります。
メディアからの想定質問を洗い出す「Q出し」
私は「Q出し」と呼んでいるのですが、メディアから聞かれそうな質問を考えるのも広報の大切な仕事の1つです。Q出しの際には、いくつか大分類を決めておくと考えやすいでしょう。発表内容によりますが、商品発表などの際のQ&Aは以下のようなイメージで考えています。
1:コーポレート関連(経営状況、人事関連など)
2:事業関連(業界内での位置付け、実績、将来展望、収益関連、座組み、生産、ブランディングなど)
3:マーケティング関連(売り上げ、販路、ターゲットユーザー、出荷台数、競合、プロモーションプランなど)
4:商品関連(商品の特長、差別化ポイント、操作方法など)
Q出しの際、広報はプレゼン資料やプレスリリースを見て、重箱の隅をつつくような質問を考えます。実はQ出しをするたびに、客観的かつ冷めた視点で企業や担当者があまり触れられたくない部分まで掘り起こしていくので、自分はいつも多重人格なのかと疑いたくなります。私の経験では、答えづらいという理由で「そんな質問はされないから」と事業の担当者から諭され、削除した質問は、大抵記者から突っ込まれました。結局、会社にとっても発表した事業にとっても、そこがウイークポイントになることが多かった。ですから、可能な限り最悪な質問を考えることは、会社を守るために必要なことだと思っています。
ネガティブな事柄にはまず「スタンス」を明確に
一方、ネガティブな事柄の発表に関するQ出しの場合は、Q&Aにひと手間加えるとよいでしょう。「原因」「現時点での対応」「今後の対応」「課題」を時系列に落とし込んだ資料をつくっておきます。メディアから問い合わせを受けた際、まずはこの情報を伝えてから、質問に回答することを徹底します。つまり、原因や今後の対応を事前にまとめた情報が、ネガティブな事柄に対する企業としての「スタンス」というわけです。
このスタンスはプレスリリースに近い内容となりますが、質問された際に念押しして伝えることで、こちらの伝えたいことに対するメディアの理解度を高められます。
ネガティブな事柄を伝える記事の場合、メディア側では既に記事の流れができていて、答え合わせをする、もしくは穴埋めをするために問い合わせをしてきている可能性があります。広報が素直にメディアからの質問に一つ一つ回答していては、メディア側にとって必要な(書きたい)情報だけを引き出されてしまいます。結果的に、記事となった際に「そんなつもりじゃなかった……」と泣きを見ることになってしまうのです。スタンスを明確にし、そのための資料をまとめておくことは、そんなことが起きないための自衛策と言えるでしょう。
今回は、メディア向けのQ&Aに関する考え方について紹介しました。Q&Aづくりは発表する内容や状況に応じて大きく変わるので悩むことも多いかと思います。たくさんのメディアの方と接し、より多くの記事を読んでQ出しの力を鍛えていただければと思います。