ただ、「広報写真=スタジオで撮った完璧な写真」ではありますが、「現場感のある写真=クオリティーの低い写真」であってはなりません。最低限の撮影環境を整えることは、発表会を主催する広報の責任です。発表会をパーティーか何かとはきちがえ、赤や青の照明でもう元の製品の色すらも分からない会場をつくり、揚げ句「製品写真なら広報カットをどうぞ、それよりバーカウンターで飲み物でもいかがですか?」というのでは、「あの広報分かってないな」となってしまうわけです(関連記事:派手な記者会見はマスコミからどう見えているのか)。

発表会のルールとそれを乱す「破壊的道具」の登場

 そんなわけで、「分かっている広報の仕切る記者会見」というものは、参加した記者、カメラマンが良い写真が撮れるよう、一定のルールに基づいて運営されます。

 まず、記者席と登壇者の間にスペースがある場合、ここは「スチル」写真のカメラならあぐらをかいて座ってよい、というルールがあります。三脚を立てる場合は会場後方の「カメラ席」に位置取りしてもらう、記者席から撮影する場合三脚はNG、手持ちならOK、ただ立ち上がるのはNG、といったものです。

 おおよそ20世紀から21世紀初頭までは、このルールで記者会見はうまく回っていました。

 ところが、2010年1月、米サンフランシスコで開催されたイベントで、アップルの故スティーブ・ジョブズ氏が発表した「破壊的イノベーション」が状況を一変させます。タブレットですね。タブレットは軽くてバッテリーが長持ち、キーボードを接続すれば長文入力も問題なし、ペン入力もできてカメラの性能も良いということで、以降取材記者の愛用品となっていきます。

 先のルールに従うと、タブレットを持った記者が席から頭上にタブレットを掲げて写真を撮ることは「OK」の範囲なのですが、問題はこれが邪魔なことです。海外の記者などの中にはこれで堂々と動画を撮り続ける猛者もおり、タブレット記者の後ろの席の方のイライラは想像に難くありません。

 スティーブ・ジョブズ氏が残したこの「タブレットは便利だけど会見で邪魔」という試練に対し、20年9月現在、人類はまだ答えを出せていません。