新型コロナウイルスの感染拡大が止まりません。会社への出勤に不安を覚える人も多いでしょう。従業員それぞれが対策をとっても、感染者が出てしまう恐れがあります。もし感染者が発生した場合、広報はどうすればいいのでしょうか。
もし、従業員が新型コロナに感染したら
おうち時間が長くなって、韓流ドラマにはまった方も多いのではないでしょうか。私もその1人で、韓国の財閥の娘と北朝鮮将校との禁断の恋を描いた『愛の不時着』に、それはもうどっぷりと……。山あり谷ありの16話もある長いストーリーを、はらはらどきどきしながら、次から次へと全部見てしまうのは、どうにかして最悪の事態は回避してくれるだろうという期待があるからなのかもしれません。
広報業務において、最悪の事態を想定するのは大切な仕事の1つです。ドラマで危機一髪を回避するときは、人知れず主人公が最悪の事態を想定し、事前に綿密な準備を仕込んでいたりします。その答え合わせもドラマを見る醍醐味といえます。
ただ広報業務の場合、ドラマのように事前の仕込みが必ずしも役に立つわけではありませんし、うまくいくことばかりでもありません。そしてドラマと決定的に違うのは、その仕込みが「取り越し苦労だった」というのがハッピーエンドとなることでしょう。
今、新型コロナウイルスは、まだ自分自身の周りにない対岸の火事ではなく、「今そこにある危機」です。マスクや手指の消毒などの感染予防対策は、ほぼすべての企業が行っているのではないでしょうか。それでも、何かしらの原因で従業員が新型コロナウイルスに感染してしまった(もしくは濃厚接触者となった)場合の対応はどうでしょうか。準備が万全な企業もあるでしょうが、そこまで手が回らない企業も多いのではないかと思います。
私もそうですが、多くの人は最悪の事態は自分に降りかからないと思い込む節があります。実際に起きてほしくないことは起きないと、自分自身に思い込ませようとしてしまうのです。そこで今回は、“withコロナ時代の広報”として最悪の事態に備えるために、知っておきたい情報を紹介します。
日経クロストレンドの記事「従業員が新型コロナウイルスに感染したとき、企業がなすべきこと」で書かれていましたが、記事にあるように法的には公表する義務はないようです。ですから、発表をしないのも選択肢の1つです。実際PRTIMESなどのプレスリリース配信サイトで「コロナ」を検索すると、コロナ禍で役に立つ商品やサービスばかりで、社員が感染したといった発表は見つけられません。従業員の新型コロナウイルスへの感染については、必要以上に情報を拡散させない選択をしている会社が多いことが分かります。
しかし、何事もなかったかのように息を潜めていれば大丈夫なのかというと、そうでもなさそうです。先日、ある媒体が某企業に対して「新型コロナウイルス感染者を隠していた」とたたいている記事を読み、胸が痛くなりました。
従業員に新型コロナウイルスの罹患(りかん)者が出た場合、必要に応じて店舗やオフィスの消毒が行われることが多いでしょう。その従業員と同居する家族は濃厚接触者ですから、学校など家族に関わるコミュニティーにも連絡する必要があります。そうすると、どんどん関わる人数が増えていき、息を潜めていたくてもそうは問屋が卸してくれません。もしかしたら関わった人がSNSでつぶやくかもしれません。
社外に向けて大々的に発表するかどうかは別としても、広報担当者は何らかのきっかけで情報が拡散する可能性を予見して、対外的な想定問答集は準備しておく必要があるでしょう。対マスコミだけでなく、対顧客、対クライアント、対株主を想定した問答集です。
厚生労働省のサイトが参考になる
そこで何かしら準備の指標になるものを探してみたところ、厚生労働省のサイト内にある「新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)」(令和2年7月10日時点版)というページにたどり着きました。
この「8 軽症者等の宿泊療養を実施する宿泊施設等の運営者の方向け」の中に、「問4 施設運営に携わる労働者がPCR検査陽性となった場合に備えて、準備しておくことはありますか」という質問があり、それに対する回答は以下の通りでした。一般企業も基本的に同じかと思いますので、必要な部分を抜粋して紹介させていただきます。
万が一、新型コロナウイルスの陽性者や濃厚接触者(以下「陽性者等」という。)が発生した場合に備え、以下の項目を盛り込んだ対応ルールを作成し、労働者(全体統括責任者にあっては「労働者及び請負業者」)に周知してください。
・ 労働者が陽性者等であると判明した場合の事業者や全体統括責任者への報告に関すること(報告先の部署・担当者、報告のあった情報を取り扱う担当者の範囲等)。
(※以下省略、詳細は厚生労働省のサイトでご確認ください)
感染者が社内にいない場合、事前に準備できることは、従業員が報告するための社内窓口や担当者を決めて、感染したりその疑いがあったりする場合は、窓口に報告するよう社内で周知徹底しておく、ということです。また、広報とは直接関係ありませんが、感染の疑いがある場合は休めるなど、従業員が報告しやすい態勢を構築しておくことも必要でしょう。
さらに広報担当者は罹患した従業員について、少なくとも以下のような情報を入手しておく必要があります。「年齢」「性別」「所属」「発症タイミング」「検査タイミング」「陽性の確定時期」「発症以前14日間~現在までの症状と勤務履歴」「症状」「発表時点での処遇(自宅待機、入院など)」「会社の対応(感染予防策、消毒など今後の対応)」などです。濃厚接触者の範囲が多いなど、社会的に説明責任があると判断するケースを想定し、これらの情報を(1)広報発表文に書くべき情報、(2)質問された場合のみ回答する情報、(3)持っていても開示しない情報の3つに分類し、広報発表文や想定問答集(Q&A)のたたき台を作成しておくとよいでしょう。
会食を禁止している企業も多いと聞きます。職業柄、人と会わなければならない仕事の場合は、行動記録を業務外でもメモしておく事を事前に促しておくといいでしょう。体調を崩してから、改めて過去の行動記録を遡ってまとめるなどという事態にならないように。

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