自社の情報をニュースで大きく取り上げてもらいたい。しかしメディアの期待をあおりすぎて失敗することもあります。この期待値をうまくコントロールできれば、理想の広報パーソンに近づけます。それには事前にどういう取材ができそうか相手にそれとなく伝えるという“お約束”が必要です。

バナナの皮ですってんころりん。それでこそ君は立派な広報パーソンだ ※画像はイメージ(画像提供:Jiw Ingka/Shutterstock.com)
バナナの皮ですってんころりん。それでこそ君は立派な広報パーソンだ ※画像はイメージ(画像提供:Jiw Ingka/Shutterstock.com)

期待させ過ぎて怒られる

 「あんたの会社にとっては大事かもしれないけどな、こんなのはうちがやるニュースじゃないんだよ!」

 こう言い残して会見場からテレビカメラが出て行ってしまう。広報経験者が聞いたら身の毛がよだつようなこの事件を経験したのは、若かりし頃の私です。原因はどこがどう変わったかはっきりしない微妙な新製品だったにもかかわらず、記者会見を強行したことにあります。その上、「記者会見なら今回は大きな発表ですか?」という問い合わせに対し、テレビに取材してもらいたい一心から「はいそうです!」と答えてしまいました。いわば期待させ過ぎたというわけです。

 とはいえ、広報担当ならがらがらの記者会見場に社長が立っているという悪夢にうなされた経験は、一度ならずあるのではないでしょうか。はったりをかまし、トラブルに巻き込まれることなく、うまくマスコミに乗ってもらうには何が必要か――。今回はこれについて考えてみたいと思います。

 「来てその場で楽しんでもらうことが最終ゴール」といえるコンサートや映画は、予告編をつくるなど来場者がわくわくするように期待をあおればいいでしょう。しかしマスコミ向けの場合、期待をあおるにしても、紙面の確保や取材プランの策定に必要な「どういうニュースをつくれるか」の見通しを立ててもらわなくてはなりません。そこにずれが生じてしまうような売り込みは、あまりお勧めできません。当然ながら発表内容を事前に明かせません。

 1つうまくいった例を紹介します。某月某日、携帯ショップの前には歩道からあふれんばかりのマスコミ、その前には延々と続く新型スマートフォンの発売を待つ人の列。開店と同時に店員とハイタッチで入店する行列客、ラッキーにも一番乗りを果たした購入者を囲むテレビカメラ――。

 事前予約が主流となった最近はあまり見かけなくなりましたが、一時期マスコミでは恒例となっていたiPhone発売日の風景です。同じようにドラクエの新作発売日、あるいはWindows新バージョンの発売日もかつてそうでしたが、マスコミに「今年もまたあの風景が撮れる」という期待を持ってもらえると、もうこっち(広報)のものです。取材案内を送った直後から「今回も店頭でリポートをしたいので取材許可をお願いしたい」という連絡が、ばんばん入ってくるパターンがつくれます。

 パターンということで思い出すのが、アニメ制作会社・タツノコプロの「タイムボカンシリーズ」を生み出した名プロデューサー、笹川ひろしさんに話をお聞きしたときのことです。

 タイムボカンシリーズといえば、お決まりの三悪人がお決まりのドジを踏んで自滅するというワンパターンの笑いで知られますが、笹川さんは期待を高めるため、計算ずくでワンパターンをつくり込んだそうです。一応、毎回違うストーリーで話の筋は誰も分からないのですが、見ている誰もが期待しているお約束のパターンをつくることで、ファンの心をがっちりつかんだわけです。

世の中を動かすアングルを見つけよう

 もう1つ、話変わってここはお笑いライブ会場、ステージの上には寿司の折り詰めを片手に酔っ払いのサラリーマンの格好をしたコメディアンが登場。千鳥足の先にはバナナの皮が……。もう気の早い客席からはこれだけで笑いが起こります。コメディアンという職業は、実に巧みに観客の期待をコントロールします。このコメディアンのように期待度をコントロールすることは、もしかすると広報の最重要スキルと言えるかもしれません。

 これを先の事例に置き換えると、どんな新機能が盛り込まれるか分からないスマートフォンであったとしても、徹夜で行列ができるパターンが読めていれば、メディアは取材を検討し始めます。バナナの皮だけで笑いがとれるコメディアンと同じというわけです。

 では、広報におけるコントの「バナナの皮」に相当するパターンは何でしょう。当然ながら「笑い」ではありません。それはニュースを大きくするための「公共性のある話題」あるいは「世の中の動き」だと思います。

 以前、某テレビ局のスタッフルームに撮影用の新製品を届けに行ったとき、偶然ついたての向こうから聞こえてしまった会話を今でも覚えています。

 「でも、この内容だとこの会社の単なる宣伝になっちゃうだろ」

 その新製品は大きなニュースにするだけの公共性はあるのか、という点をチェックしていたのです。記者の立場として、扱うからにはニュースを大きくしたい願望があります。しかし大きなニュースにするには、公共性のあるアングルが必要だ、それを探せ、という会話でした。

 ここから学んだのは、自社のニュースを大きくするためには、何か公共性をプラスできるような要素を探し出すということです。そこにパターンを見つけられれば、それはあなたの会社にとって「バナナの皮」になるでしょう。時にそれは行列をつくって熱狂する人であったり、バレンタイン、海の日というような風物詩的要素であったり、あるいはテレワークや教育のIT化といった行政の取り組みだったり、ライバル企業との性能競争であったりと、「バナナの皮」はアイデア次第でいくらでも見つけられると思います(関連記事「広報同士の知恵が激突、ネタかぶりの『レッドオーシャンデー』」)。

 公共性のあるネタとは「世の中が動いているニュース」とも言えます。私は広報の重要な使命は「世の論調をセットする」ことだと思っています。自分の会社の商品がきっかけで世の中に何らかの現象が起こり、それをマスコミがニュースとして取り上げる。まさに世の論調がセットされつつある瞬間です。コメディアンがバナナの皮でずっこけて客席を一斉に笑わせるように、自分の仕掛けたアングルで世の中を動かせれば、それこそ広報パーソンの本懐ではないかと思います。