広報にとって発表会などのスケジューリングは重要な業務。発表会の日から逆算して予定を組むか、はたまたこれからやるべきことを順番に積み上げて計画するか。いずれにしても、もたもたしてはいられません。計画の策定にはスピードも重要です。ただ、そこに目を奪われると危険が待ち受けています。

大企業とスタートアップの違い? そうね……スピードかしら ※画像はイメージ(画像提供: fizkes/Shutterstock.com)
大企業とスタートアップの違い? そうね……スピードかしら ※画像はイメージ(画像提供: fizkes/Shutterstock.com)

反射的に「スピード」と答えてしまった理由

 「スピードでしょうか」――。ある大手企業の広報の方から、大企業の広報とスタートアップ企業の広報の違いについて質問され、反射的に口を突いて出た答えです。我ながら浅い……。慣れというのは人の思考にも影響を与えるものです。最近は「来週、プレスリリースを出すのでよろしくです」と言われても驚きません。「了解です!」と即答してしまいます。私が「スピード」と回答した理由はこれです。

 フリーランスで広報の仕事を始めた頃は、軽く威嚇の雰囲気を漂わせ「もう、次回からは早く情報を出してくださいよっ」と伝えていました。しかし、現在は慣れもあり「そうかそうか」と受け入れる。実際、テニスのボレーで打ち合っているかのように、スピーディーに情報をやり取りしながら物事が決まっていき、短時間で対応できるケースがよくあります。終わった瞬間はある種の爽快感があるので、嫌いではありません。

 これが大企業の場合、特別な案件でない限り、数週間前、あるいはもっと前から発表日が決まっているのではないでしょうか。発表日の決定から実際に発表するまでの期間を比較すれば、スタートアップより大企業のほうが長いことが多いでしょう。この時間の差は、経験値によるスケジュールの組み方に違いがあるように思います。

 大企業が発表日を決めてから発表するまでの期間が相対的に長いのは、製品やサービスの発売日からの“逆算”を意識してスケジュールを組んでいるからでしょう。過去の経験から導き出したToDoを使って発表日や発売日から逆算し、スケジュールを組むイメージです。

 大企業に限ったことではありませんが、関わる人間や企業の数が多くなればなるほど、スケジュールを組む際に逆算を意識しないと破綻するリスクが高まります。例えば「新入学や新生活シーズンで市場が動く春商戦に合わせて商品を仕込み、売り上げを高める」ことを目標にした場合、ざっと以下のような逆算をします。

(1)発売日の仮置き
(2)発売日当日に店頭に並んでいる状態にするための、店舗への納品・陳列
(3)納品に向けた商談
(4)商談用の商品説明資料の作成
(5)商品説明資料のための情報収集(この段階で商品の概要は決まっている)

 実際は生産との兼ね合いなど多くの制約がありますが、おおよそこのようなイメージです。単純に(1)~(5)それぞれにかかる日数から逆算すると(5)の時期が決まります。広報も(5)の段階で準備を始めてプランを策定します。同時に特定のメディアと秘密保持契約(NDA)を結び、正式発表前に新商品に対する理解を深めてもらうこともあるでしょう。

スピード重視で大失敗

 次に製品の市場投入という切り口で考えてみましょう。現在は事業者がAmazonなどのオンラインストアだけで簡単に販売できるようになりました。企業が直接消費者とつながるD2C(ダイレクト・トゥ・コンシューマー)の流れも加速しています。

 例えばある企業がリアル店舗で販売しない選択をしたとすると、(2)~(4)にかける時間が圧縮できます。こうなると、その企業の都合だけでスケジュールを決定できるため、発売日から逆算して予定を立てる必要性が薄れます。目の前にあるToDoを“順算”して積み上げれば、スケジュールを立てられます。投入時期の目標はあっても、「準備ができ次第、ASAP(as soon as possible)で発表と発売を行う」ようにすれば、発表日の決定から発表までの時間は極めて短くなり、スピード感があると思えるでしょう。最近は発表と発売を同時に行うケースも珍しくなく、広報発表のタイミングで盛り上がった消費者を、すぐに購入へと結び付けられるようになりました。

 ただ広報業務に限っていえば、発表日の決定から発表までの期間の短縮や、発表即発売といったスピードばかりに目を奪われると、思わぬ落とし穴へ落ちることがあります。

 私はある発表を担当した際、数日でリリースを書き上げました。その文中で協力企業に関して言及していたのですが、窓口となる担当者の確認の甘さに気づかないまま、リリースを発信してしまいました。発表後、先方から指摘を受けて修正リリースを出す羽目に……。目の前にあるToDoを慌てて積み上げ、スケジューリングした結果です。

 過去の実績から導き出したToDoを使った“逆算”によるスケジューリングと、目の前にあるToDoを“順算”する積み上げ式のスケジューリング。同じ結果になるように思えますが、広報業務的には式を構成するToDoが異なるので結果も違ってきます。私が犯したようなミスをしないことが前提ですが、逆算、順算のどちらにもメリットはあります。

 広報担当者がスケジュールを策定する際は、余裕のあるなしにかかわらず「スピード」と「情報の正確性」を両立させなくてはなりません。それには案件ごとに逆算と順算、両方の式を構成するToDoを比較し、改めて本当に必要な項目だけを抜き出して組み立てるハイブリッド型のスケジューリングを意識するといいでしょう。

 鼻の穴を広げて得意げに「スピードでしょうか」なんて言ってしまった自分が、ああ、恥ずかしい。

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『マスコミ対策の舞台裏 役員からの電話で起こされた朝』

『マスコミ対策の舞台裏 役員からの電話で起こされた朝』
2022年12月19日発行
 連載「風雲! 広報の日常と非日常」が本になりました。これまで3年半以上に及ぶ、約150本のコラムの中から、「マスコミ対策」に焦点を絞って再編集。企業や個人までも手軽に情報発信できるSNSがもてはやされる今日ですが、“バズった”記事の出どころをたどると、マスコミの記事や番組であることが少なくありません。だからこそ、企業は「情報の源流」でもあるメディアへの対策を十分に練り、正しい情報を伝え、記事や番組として発信してもらう重要性がこれまで以上に高まっていると言えます。本書は連載でおなじみの現役広報パーソンである二人の著者(鈴木正義氏、遠藤眞代氏)が、20年以上にわたる記者や編集者との生々しい駆け引き、社内でのあつれき、成功談・失敗談から導き出された「記事や番組に採用されるためのテクニック」「メディアとの関係構築法」「危機感管理術」などを、当時の現場の様子や本音を交えながらリアルに書きつづっています。読み物としても楽しめる中身の濃い1冊に仕上がっています。

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