企業広報にとって「訂正リリース」は出したくないもの。影響は間違った情報を基に書かれた記事やその読者に至るまで、広範囲に及びます。それでも誤った情報は正さなくてはなりません。紙切れ1枚のリリースですが、今回はその“重み”を知っていただきます。

大間違いをやらかしてしまった! これは訂正を出さねば……(涙) ※画像はイメージ(画像提供:gpointstudio/Shutterstock.com)
大間違いをやらかしてしまった! これは訂正を出さねば……(涙) ※画像はイメージ(画像提供:gpointstudio/Shutterstock.com)

フィンランドの読者からのメール

 私が書いた前回のコラムで、外資系企業広報の“あるある”として動画素材を表す「Bロール」について紹介したところ、なんと遠くフィンランドに住む読者の方から以下のご指摘をいただきました(関連記事:「ドアを開けると日本人が殺到してくるぞ」 海外発表会での常識)。

 「語源は映画撮影での本撮りのAロールに対して、補足的撮影・舞台裏の撮影を指します。Bは順番を指すアルファベットのBで、何かの略ではないということです」

 確かに「A roll」「B roll」でネットを検索するとそのような意味が出てきます。私はこれまで「Broadcast Roll」だろうと考えていました。ありゃ、こりゃ勘違いしてたなーと思い、記事に訂正を入れるかどうか担当編集のS井さんに相談したところ、「鈴木さんは『語源ははっきり分からない』と逃げていましたが、明らかになったのですから、そのエピソードを基にリリースの訂正について書いてみてはどうでしょう。ご指摘いただいた方を含め、読者の役に立ちますよ」というアドバイスをもらいました。ということで、今回は「訂正リリース」についてです。

 訂正リリース――。広報担当者なら、もう聞いただけで胃の奥から変な音がしてきそうな邪悪な響きです。皆さんが会社の書類で間違いがあった際、普通はどうされますか。修正した新しい版と差し替えますね。しかしプレスリリースではそう簡単にはいかないのです。

 まずリリースはあくまで中間成果物であることを忘れてはいけません。その先の記事にまで間違いが影響を及ぼしている可能性があり、「記事の訂正」という厄介な問題に発展します。そのため訂正リリースは速やかに出さなければなりません。

 もう一つ問題なのが、リリースは会社としての公式声明なので、発信したからにはその発言の責任が後々までついて回る点。都合が悪くなったからといって「なかったこと」にはできないのです。訂正は訂正したと分かるようにしておく必要があります。

 ただし「それ以前のレベル」の間違いもあります。例えば「わが社のの新製品は」のような誰が読んでも入力ミス、校正漏れの場合です。この程度では訂正リリースは出しません。出さなくとも物書きのプロであるマスコミ側で補正をかけてくれるからです。「この会社の広報はアホがおるのー」という印象は残りますが、そう思われることを受け入れる覚悟さえ決めれば、ここは解決です。私の前回のコラムについての指摘も「アホがおるのー」と思われることを選択し、ご指摘内容をこちらの回に記載しておくことにします。

 こうした「わが社のの新製品は」レベルの間違いなら会社の公式Webページについては断りなく修正してしまっていいでしょう。しかし、例えば予定していた新製品の発売が遅れたからといってリリースに書かれていた発売日をしれっと書き換えることはお勧めできません。それは「発売が遅れた」という事実を「隠蔽した」と見なされる恐れがあるからです。

 過去において企業としてコミットしたことは、記録として残しておく必要があります。その後、別な文章で更新(訂正)された情報との混乱を回避するため、リリースの脚注に「本リリースの内容は○月○日時点の内容です」「仕様は予告なく変更になることがあります」と入れている企業も多くあります。

常識を超えた「超極薄」パソコン登場か?

 たかが数字や日付ですが、そこが違うとニュースが変わってしまうことがあります。実は以前、私が担当するレノボの海外発表でパソコンの厚みを「1.5センチ」と表現するか、「15ミリ」と表現するかでもめたことがありました。

 もめにもめた結果、「厚さ1.5ミリのパソコン」というあり得ない数字がリリースに出てしまいました。プレスリリースには多くのチェックが入ります。開発、法務、幹部、それらのフィードバックが同時に来ると、「先祖返り」とわれわれが呼んでいる古いバージョンの原稿を間違って生かしてしまう事故が発生するのです。それにしても「1.5ミリ」という“ミックス型”の事故は初めてでした。

 というわけで訂正リリースを出すのですが、現代のオンラインニュースは1つのニュースが複数のサイトに転載されます。例えば日経BPのニュースを日経電子版や提携先のポータルサイトが転載しているという具合なので、直接のニュース提供先にだけ訂正を入れても手遅れになるケースが多々あります。

 くだんの1.5ミリ事件の際も間違いが発覚し、訂正した時点で、既にSNSを通じて拡散しまくり、間違いであることを分かったうえで「これは画期的」などとネットで散々いじられまくり、恥ずかしい思いをしました。このようにWebだからといって簡単に修正できるわけではなく、むしろWebだからこそ間違った情報が短時間で拡散する危険性があるのです。

 さらに何より怖いのが、マスコミの間で「あの会社のリリースで痛い目に遭った」「あそこの広報はいい加減だ」という評判になってしまうことです。

 突然ですが、良いニュースとは「信じられないけれども本当のこと」を書いた記事だと思います。「信じられないと思ったらやっぱり間違いだった」では、媒体の信頼度はがた落ちになってしまいます。新聞記者などは、「訂正を出す」のは記者人生の終わりを意味するくらい厳しく言われるそうです。それだからでしょうか、記事の入稿前の午後6時くらいになると、何回も何回も広報に電話をかけてきます。そうした人をも巻き込んでしまう訂正リリースは、本当に罪深いものです。

 たかが紙切れ1枚のリリースですが、それを見た記者に「この会社のリリースは間違いない」と思ってもらうことは、その会社のブランドへの信用につながっていくと思います。

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『マスコミ対策の舞台裏 役員からの電話で起こされた朝』

『マスコミ対策の舞台裏 役員からの電話で起こされた朝』
2021年12月28日発行
 連載「風雲! 広報の日常と非日常」が本になりました。これまで3年半以上に及ぶ、約150本のコラムの中から、「マスコミ対策」に焦点を絞って再編集。企業や個人までも手軽に情報発信できるSNSがもてはやされる今日ですが、“バズった”記事の出どころをたどると、マスコミの記事や番組であることが少なくありません。だからこそ、企業は「情報の源流」でもあるメディアへの対策を十分に練り、正しい情報を伝え、記事や番組として発信してもらう重要性がこれまで以上に高まっていると言えます。本書は連載でおなじみの現役広報パーソンである二人の著者(鈴木正義氏、遠藤眞代氏)が、20年以上にわたる記者や編集者との生々しい駆け引き、社内でのあつれき、成功談・失敗談から導き出された「記事や番組に採用されるためのテクニック」「メディアとの関係構築法」「危機感管理術」などを、当時の現場の様子や本音を交えながらリアルに書きつづっています。読み物としても楽しめる中身の濃い1冊に仕上がっています。

第1章 広報しか知らないマスコミの素顔
第2章 取材対応こそ危機管理の要
第3章 経営者が知っておくべきマスコミ対応の落とし穴
第4章 掲載を勝ち取るマスコミへのアプローチ
第5章 天国と地獄が交錯するプレス発表会
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全83エピソード(350ページ)
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