メディアに対して「筋」を通すことや、「貸し借り」といった考え方が広報にはあります。これがメディアとの信頼関係を築くには大切なのです。

広報とメディアの間にある「貸し借り」とは…… ※画像はイメージ(画像提供:faithie/Shutterstock.com)
広報とメディアの間にある「貸し借り」とは…… ※画像はイメージ(画像提供:faithie/Shutterstock.com)

たとえ法律的に非はなくても……

 メディアの方から言われたことはないのですが、「」を通すとか「貸し借り」する考え方が企業とメディアとの間には存在している(と私は思っています)。まるで任侠(にんきょう)映画のような表現ですが、筋を通すというのは「倫理的かつ客観的な視点を持って行動すること」ですし、貸し借りは「ギブ&テーク」と言い換えることもできます。今回はメディアと広報との間に存在する“目には見えない部分”について紹介しようと思います。

 昔、私がソニーの広報だったときのことです。何かしらの不具合の告知に関する打ち合わせだったと思います。事業部の担当者やお客様ご相談センター、法務や広報など20人近くが出席し、お客様やメディアに対する回答について話し合う場があり、その際、法務と広報で意見が割れたことがありました。

 なぜだと思いますか?

 そのケースでは、法務としては法律的に会社としての非がないので、事実だけを対外的に伝えればいいのではないか、との意見でした。それを聞いて「ああ、法務の視点は広報と全く違うのだ」と初めて気づきました。「そうは言ってもねぇ……」と心の中でつぶやきながら、ネガティブな情報を開示した際のメディアからの問い合わせについて頭の中でシミュレーションしていました。

 当時、自分が「法律的にこちらに責任はありません」と伝えて、記者が「はい、そうですか」で会話が終わるとは、1ミリも想像できませんでした。むしろ火に油を注ぐ状況しかイメージできない。無理やり納得してもらったとしても、それに対する記事は、企業側にとって残念な内容しか思い浮かびませんでした。法律的にセーフな表現だとしても、倫理的に会社の姿勢がアウトに見えては、広報的には良い結果を生みづらい。

 もちろんそうとしか答えられないときもあるでしょう。だとしても、影響力の大きい企業の場合、市場に迷惑を掛けたのであれば、社会的責任のある企業として言及し、必要であれば謝罪もいとわない。そうした選択も検討したほうがいいでしょう。これが広報から見たときの、企業としての筋の通し方です。

 このときはどちらの視点も会社にとって大変重要なので、広報と法務の折衷案を作って発信し、大ごとにならずに済みました。法律的にも倫理的にも配慮した素晴らしい議論ができたので、今も印象に残っています。

“借りっぱなし”で返済が追いつかなくても……

 たまに企業広報の方から「メディアと仲良くなるための方法」を聞かれることがあります。私の場合、これは永遠のテーマです。今も最大限努力はしていますが、子供がいて物理的にも時間的にも、メディアの方々全員と仲良くなるのは諦めて仕事を続けています。 しかしその代替案として、広報パーソンとして「信頼できる」印象を持っていただくことに注力しています。

 メディアは上司でも友達でもない。仕事相手ですが、お金のやり取りもない関係ですから距離感が難しい。ある方に「メディアの皆さんって、なんであんなにやる気にあふれているのでしょう。普通の会社員とは温度が違いすぎる」と言われました。確かに仕事に熱い方が多い。志を持って仕事をしている方が大多数です。ですから起業家の方々が共感を抱かれるのだろうと思います。

 そんな仕事に熱い方々は、忙しいはずなのに時折こんなことをささやいてくださるものです。

 「いつでも相談に乗りますよ」
 「お役に立てることがあれば、気軽に声をかけてくださいね」

 懐への入り込み方が半端ない方々(意外とたくさん周りにいます)です。「それって癒着じゃないの」と突っ込まれる方もいらっしゃるでしょうが、ちょっとそれとは違います。

 仕事に熱いメディアの方々は、相談に行くといつも多くのヒントを下さります。広報がその媒体に売り込むためのヒントだけでなく、こちらが気づかなかったメディアならではの視点、そして他社動向などなど。これは広報の中で話し合っても出てこない、まさにお金では買えない情報です(もちろんお金の授受はありませんよ)。

 私も何百回もこのヒントに助けられていますが、正直受け取った情報量と同等の価値をお返しすることはなかなかできないものです。ソニー時代はニュースバリューの高い情報が多く、“お返し”がしやすかったのは事実です。正直言うと今は借りっぱなしの方も多く、“返済”が追い付かないのですが、機会があるごとに興味を持ってもらえそうな情報や人物を紹介するなどして、少しずつお返しするようにしています。

 お返しがきちんとできていない私が言うのも何ですが、広報はそうした情報を頂くことが当然だと思わずに、「借りている」というくらいの心づもりのほうがメディアとの関係を良好に保てるでしょう。仲良くなる時間はなくても、相手が欲する情報を可能な限り提供する姿勢は悪くないものだと思います。

 筋を通すことや貸し借りを意識すること。この2つはメディアとの信頼関係を築くために意識しておきたいものです。まあ、色々な事情でそうもできないこともありますが。

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