日本企業と外資系企業では、広報の仕事も変わってきます。そこで使用される「広報用語」についてもまたしかりです。今回はそんな外資系企業広報における“あるある”を示しながら、日本の広報とのギャップについてご紹介します。

準備はいいか、日本人のメディアが殺到してくるぞ! ※画像はイメージ(画像提供:releon8211/Shutterstock.com)
準備はいいか、日本人のメディアが殺到してくるぞ! ※画像はイメージ(画像提供:releon8211/Shutterstock.com)

 私はNECパーソナルコンピュータとともにレノボ・ジャパン、モトローラ・モビリティ・ジャパンの広報も担当しています。つまり外資系広報ということになります。外資系のご多分に漏れず、海外のレノボやモトローラの広報チームといろいろとコミュニケーションするのですが、所変われば何とやらで、日本と海外では広報という仕事はこうも違うのか、と驚かされることがしばしばあります。

 読者の皆さんの中にも外資系に転職したいとお考えの方もいるでしょうし、あるいはある日突然、勤務先が外資系との合弁に……ということもあり得ない話ではありません。そこで今回は「外資系の広報用語」を紹介しつつ、日本の広報の常識とのギャップについて紹介したいと思います。

【Bロール】これを渡せばさっさと退散してくれるはずが……

 「Bロール」の語源ははっきり分からないのですが、恐らく「Broadcast Roll」からきていると思われる、要するに「動画素材」といわれるものです。日本で製品発表会を行うと、テレビ局のカメラが延々と物撮りをして、紙やWeb媒体の記者がヤキモキしながら待っている、というのはどこでも見られる光景です。しかし海外の発表会では、広報がさっとこのBロール(昔は文字通り「ベータカム」などのテープでしたが)を渡すと、「OK、サンキュー」と言ってとっとと退散してくれます。

 しかし日本のカメラは、現場の雰囲気を含めて映像にしたい傾向にあり、独自撮影にこだわります。会見場のポジション取りも、どの国よりも熱心です。それを海外本社の広報に理解しておいてもらえると、発表会の進行が何かとスムーズです。レノボの場合、会見直前の注意事項を確認するスタッフミーティングがあるのですが、そのときに本社広報のリーダーから、

「いいかみんな、間もなくこのドアを開ける。いつものように日本のプレスが先頭を切って殺到してくるから、よろしくな!」

 という注意(?)があるくらい、日本の事情を理解してくれています。

【ボイラープレート】企業について、さくっとまとめています

 これは例えば「レノボについて」のようにその会社の概要を書いた5~6行のパラグラフのことです。プレスリリースの最後のように、お決まりの場所にあるお決まりの表現ということで、「ボイラープレート」という呼び名が付いています。

 日本では企業名について、プレスリリースの初出の段階で「NECパーソナルコンピュータ(本社:東京都千代田区、代表取締役社長デビット・ベネット、以下NECPC)」というように書くのが習わしとなっていますが、あまりボイラープレートを付ける習慣はありません。

 「すべての人の優れた力を呼び起こし、誰もが発展するよりスマートな未来を創ることを目指しています。」――これはレノボのボイラープレートに書かれた会社としての存在意義を述べた非常に重要な一文です。このコラムを愛読いただいている読者の方ならもうお分かりだと思いますが、残念ながらこのような主観的かつ情緒的な情報は、日本の記者からはそれほど価値を認めてもらえません。

 とはいえ、「ここは不要だから削ってもいいか?」と本社の広報に言おうものなら結構面倒臭いこと請け合いなので、手を付けずにそっとしておくというのがスタンダードになっています。もし皆さんが外資系企業のリリースにボイラープレートを見つけたら、ああ、本社とはうまく折り合いをつけてやっているんだな、と思ってあげてください。

【クオート】本人が言っているとは限らない?

 「クオート」とは、クオーテーション記号(“ ”)で囲ってある経営幹部のコメントのことです。これも日本のプレスリリースではめったに見られませんが、海外のリリースでは常識です。クオートがないプレスリリースのドラフトを見せようものなら、まるで広報のど素人を見るような目で見つめられます。

 クオートは新製品のキーとなる機能や、それを投入する経営的な狙いなど、重要なメッセージのパートで使われます。無論(これ言っちゃっていいのかしら……)クオートする本人の生の声ではなく、本人の承認を得て広報が手直ししたものを使っています。

 日本でも英語から翻訳されたプレスリリースでは、このクオートが多く使われますが、実際記事になるときはクオート部分の情報を「地の文」として使うことが多いようです。

 ここで「おや?」と思われるかもしれません。せっかくその会社の幹部の発言として用意されているのに「 」(カギかっこ)付きの引用ではなく、どうして地の文なのでしょうか。日本のメディアは「一次ソース」つまり対面して直接コメントを取ることに非常にこだわります。広報が作った文をまるで会って聞き出したかのように引用することへの抵抗感があるので、クオートを地の文にするのではないかと思います。

 もう一つ日本の記事でクオートの引用が敬遠される理由は、その内容があまりにも完璧すぎるからだと思います。

 「大幅な機能強化によって、ユーザーにこれまでにない体験をもたらします。すべてのユーザーに愛されるものになると確信しています」

 これは企業としては言い切っておくべきメッセージなのですが、取材する側からすると人となりも見えてこないコメントで、ちょっと使いどころが見つけられません。

 一方で「向こう5年で市場は10倍になるでしょう」というような数字を伴った発言などは、経営者としてのコミットであり、その人なりの決意や展望を示したということでちょっと人物も見えますので、日本のメディアでも記事に引用される確率は結構高くなります。


 新型コロナの影響でオンライン会見もすっかり定着したかのように思われますが、我々広報も決してオンラインでやりたくてそうしているわけではありません。ここに書いたような撮影やコメント取りで記者の方とのやり取りができるリアル会見は、やはり楽しいものです。ドアを開けて殺到してくる日本人記者団の皆さんと海外でお会いできる日が1日も早く訪れることを願います。

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『マスコミ対策の舞台裏 役員からの電話で起こされた朝』

『マスコミ対策の舞台裏 役員からの電話で起こされた朝』
2021年12月28日発行
 連載「風雲! 広報の日常と非日常」が本になりました。これまで3年半以上に及ぶ、約150本のコラムの中から、「マスコミ対策」に焦点を絞って再編集。企業や個人までも手軽に情報発信できるSNSがもてはやされる今日ですが、“バズった”記事の出どころをたどると、マスコミの記事や番組であることが少なくありません。だからこそ、企業は「情報の源流」でもあるメディアへの対策を十分に練り、正しい情報を伝え、記事や番組として発信してもらう重要性がこれまで以上に高まっていると言えます。本書は連載でおなじみの現役広報パーソンである二人の著者(鈴木正義氏、遠藤眞代氏)が、20年以上にわたる記者や編集者との生々しい駆け引き、社内でのあつれき、成功談・失敗談から導き出された「記事や番組に採用されるためのテクニック」「メディアとの関係構築法」「危機感管理術」などを、当時の現場の様子や本音を交えながらリアルに書きつづっています。読み物としても楽しめる中身の濃い1冊に仕上がっています。

第1章 広報しか知らないマスコミの素顔
第2章 取材対応こそ危機管理の要
第3章 経営者が知っておくべきマスコミ対応の落とし穴
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