世の中には「AI(人工知能)が人間の仕事を奪う」といった論調が絶えません。かつて産業革命やインターネット革命が引き起こしたように、一部で衰退する仕事が出るのは否めません。では、広報の仕事はどうでしょうか。本記事の著者・鈴木正義さんは、“AIとの対決”を通してある結論に達しました。

まだAIに広報の仕事を奪われるわけにはいかない…… ※画像はイメージ(画像提供:MJgraphics/Shutterstock.com)
まだAIに広報の仕事を奪われるわけにはいかない…… ※画像はイメージ(画像提供:MJgraphics/Shutterstock.com)

注目キーワードをAIに抽出させてみた

 AIはデータ分析などによって、それまで豊富な経験値やノウハウが必要とされた仕事を自動化します。時折その負の側面として、将来は人の仕事を奪うのでは……ということも指摘されてきました。

 では、我々広報の仕事はどうなのでしょう。そこで今回、「Candy」というAIサービスを開発している広告ベンチャーのスリーアイズ(山形県米沢市)に協力してもらい、この数カ月にマスコミが発信した記事のトレンドを、AIがどう分析しているか調べてもらいました。

 これに対し、一応広報歴15年以上の私鈴木が、実際にとったアクションはどうだったか、というものを併せて検証してみました。

 まずCandyが何をしているかについて簡単に説明しますと、日本語で記載されているネットニュースを自動で読みます、ひたすら読みます。これは我々広報が日々やっている「記事チェック」に相当しますね。

 そしてここからがAIの本領ですが、それぞれの記事が「何について書かれているのか」という意図を理解し、文意と関連を持つ単語を抽出します。単純なキーワード検索、頻出単語と違い、AIの場合は記事の意図を理解しているため、抽出した単語は人が記事を読んだときの印象に残る単語に近いのです。国語のテストをやらせたら、さぞかし優秀なことでしょう。

 つまり広報の仕事に置き換えると、「今、何についての記事が多いのか=記者の関心はどこに向いているのか」を可視化してくれるというわけです。ちなみにCandyの本来の用途は、ここから記事内容と関連性の高いオンライン広告を表示させることです。ただその振る舞いは、非常に広報担当の日常に似ていると言えます。

 さて、そんなCandy君の実力を試すうえで、2020年の2月から5月までのニュースの中から、月単位で「パソコン」または「PC」に関する記事について、その論旨に関連する単語を抽出しました。トップ5は以下の通りです。

・2月:ITUNES、メモリ、厚労、検査機関、ICLOUD
・3月:コロナ対策、BLUETOOTH、MACBOOK、IPAD、ロックダウン
・4月:コロナウイルス、テレワーク、感染拡大、検査キット、モバイルPC
・5月:コロナ対応、オンライン、社員PC監視ツール、MOBILE、社員PC

 見てお分かりいただける通り、既に世間のニュースが新型コロナウイルス一色となっていた2月の段階で、まだその話題はパソコンのニュースとの関連は低かったようです。これが3月になり、新型コロナウイルス対策、ロックダウンがパソコン関連のニュースの中心になってきます。そして4月になると緊急事態宣言が発令され、新型コロナウイルス、テレワークがパソコン関連ニュースの中心になります。またトップ5には入りませんでしたが、「Zoom」という単語もこの時期から出てきています。

 興味深いのは、5月になると「社員PC監視ツール」というワードの重要度が上がってきている点です。他にも「音質」「ネットワーク」といったワードもあり、テレワークをやってみて分かった課題に関する記事が増えてきたことがうかがえます。

広報の仕事はAIが取って代わるのか

 これに対し私が兼務しているレノボの広報では、以下のようなアクションをとりました。

・2月28日:全社一斉テレワークのノウハウをまとめた「テレワークスタートガイド」を公開
・4月13日:中小規模企業向けテレワーク用ノートPC無料レンタルを開始
・5月26日:テレワーク対応を強化したThinkPadシリーズを発表

 ということで、AIの判定した記事が多く掲載される時期に前後して、まあまあタイミングよく関連する情報の発表ができていたのではないかと思います。実際我々が社内で「そもそもテレワークのやり方が分からない企業は多いのでは」「テレワーク向きのパソコンを推してみては」「新製品はテレワークで大事な音質とネットワーク速度を中心に説明しよう」といった判断をしてきたのですが、これとAIの抽出結果は酷似しています。自己判定で恐縮ですがAIとベテラン広報の対決は「引き分け」といったところでしょうか。

 しかし、もしAIをしっかり活用して広報プランを立てる仕組みが出来上がれば、新人の広報、あるいは広報の門外漢でも「今このねたを投入すべきでは?」という知見を簡単に得ることは可能でしょう。あるいはベテランでも見落としていた面白いネタを、AIが見つけてくれるかもしれません。

 では将来、広報の仕事はAIに取って代わられるのか。答えは「ノー」だと考えます。

 マスコミの関心がここにある、といういわば相手の動きを見てねたを投入する後出しタイプのアプローチであれば、AIの利用は一定の成果が期待できるでしょう。しかし広報の重要なミッションには、まだどこにも書かれていない新しい論調を、マスコミを通じて作り出すことがあります。これから○○がはやるだろう、××をすることはこれからの企業の社会的責任だ、という類いの報道ですね。これらはおそらくAIに置き換わることはないと思います。なぜなら、このときマスコミが求めているものは企業としての「時代をつくっていく意志」であり、それを体現する「製品・サービス」だからです。

 どこの誰もそんなことを言っていない時代にあって、そのときは理解されなかった新製品、相手にされなかった経営者のビジョンが、後日世の中を変えてきた例を我々は多く目にしてきました。無人の野を切り開く役目を担うことが、広報の本懐ではないかと思います。“AIとの勝負”で、そのことを再認識できました。

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『マスコミ対策の舞台裏 役員からの電話で起こされた朝』

『マスコミ対策の舞台裏 役員からの電話で起こされた朝』
2021年12月28日発行
 連載「風雲! 広報の日常と非日常」が本になりました。これまで3年半以上に及ぶ、約150本のコラムの中から、「マスコミ対策」に焦点を絞って再編集。企業や個人までも手軽に情報発信できるSNSがもてはやされる今日ですが、“バズった”記事の出どころをたどると、マスコミの記事や番組であることが少なくありません。だからこそ、企業は「情報の源流」でもあるメディアへの対策を十分に練り、正しい情報を伝え、記事や番組として発信してもらう重要性がこれまで以上に高まっていると言えます。本書は連載でおなじみの現役広報パーソンである二人の著者(鈴木正義氏、遠藤眞代氏)が、20年以上にわたる記者や編集者との生々しい駆け引き、社内でのあつれき、成功談・失敗談から導き出された「記事や番組に採用されるためのテクニック」「メディアとの関係構築法」「危機感管理術」などを、当時の現場の様子や本音を交えながらリアルに書きつづっています。読み物としても楽しめる中身の濃い1冊に仕上がっています。

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第2章 取材対応こそ危機管理の要
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