広報発表から実際の製品発売まで間が空くことがあります。早めに情報を出して消費者に意識してもらうほか、雑誌のボーナス特集などの編集タイミングに合わせるという意図があります。ただ、時には調子の上がらない製品のてこ入れのため広報に声が掛かることも。その仕事、想像以上に広報は苦手です。

またやっかいな仕事を頼まれてしまった…… ※画像はイメージです(画像提供:New_World/Shutterstock.com)
またやっかいな仕事を頼まれてしまった…… ※画像はイメージです(画像提供:New_World/Shutterstock.com)
[画像のクリックで拡大表示]

同じネタの投入はあり得ない

 「もう1回広報やってくれ」と言われても……。「初出し」「深掘り」「独自情報」はそこにあるか。

 このコラムを読んでくださっている方の多くはマーケティング担当者、広報担当者、あるいは企業の経営幹部の方もいらっしゃるでしょうか。そのような方から広報は会社の機能としてとても重要である、と認知いただけることは一広報担当として大変ありがたいことで、実際私自身もそう信じています。

 しかしその広報にも苦手とする“仕事”があります。今回はそんな点に焦点を当ててみました。

 クリスマス商戦を例に出しましょう。実はパソコンを含む家電製品の場合、クリスマス商戦に向けた新製品は10月から11月にかけて発表されます。これには理由があり、消費者に「ボーナスで買いたい物」として早くから頭に入れてもらうためです。また家電量販店に対しては、販売員の「売り慣れ」という期間が必要なので1カ月以上間が空きます。さらに月刊誌の編集スケジュールから逆算して、クリスマス買い物特集が載る11月末発売の雑誌には、遅くとも10月中には情報を提供しておく必要がある、こうした事情によります。

 そんなわけで広報は10月に新製品を発表し、その時点で記事にしてもらいます。最近はSNSの分析ツールなども普及しているので、自分たちの新製品がどれくらい話題になっているのかは簡単に計測できます。

 そうしたツールでデータをチェックすると、製品発表をリリースした最初の週はパーンと数字が跳ね上がっています。俗に「スパイクが立つ」と言ったりするようですが、大体2週間もするとほぼ元の状態に戻ってしまいます。ネット時代は情報の新陳代謝が早くなっています。クリスマス商戦までまだ数週間以上あるので、このままでは商戦の頃には勢いがなくなってしまいます。だいぶ前の話ですが、突然広報にこんな連絡をもらったことがありました。

 「販売支援になるので、もう1回広報をやってくれ」

 ん、どういうことでしょう。どうやら商戦が始まっても計画通りの数字が上がっておらず、宣伝費の増額も認められずにっちもさっちもいかないので、以前このコラムで書いた「タダでできる宣伝」という認識で広報に依頼をしてきたようです(関連記事「お偉いさんから『広報はタダだから……』と言われて」)。広告の場合は同じクリエイティブを繰り返し投入しても効果はあります。しかし広報の場合、同じネタの投入はあり得ません。案外マーケティングの経験がある人でもこの点にピンときていない人がいることに驚きます。

 あるいはこういうケースもあります。

 「うちのWebに面白いコンテンツが公開されているんだけど、全然アクセスが伸びないんだよ、広報してくれない?」

 新製品の発表は、その段階で誰も知らない新しい情報だったからメディアも情報価値があると判断し、ニュースにしたのです。既に誰もが知り得る状態にある情報、1度ニュースになっている情報を編集部に提案してもこう打ち返されます。

 「せめて初出しのタイミングでいってくれたらねー」

 このコラムは「スキルアップ」というタグが付いているので、たまにはノウハウ的なことを開陳しますと、記事で取り上げてもらうために、広報のチェック項目として私が意識しているのは、まずその情報は「初出し」かという点です。そうでない場合、相手に対して発表段階よりも「深掘り」した情報が盛り込まれているのか、さらには1媒体にだけ差別化した記事を書いてもらえるような「独自情報」はあるのか、という点です。

 この視点でもう1回年末商戦のやり取りを振り返りますと、広報としても多少知恵の出しどころがあります。例えば発表のニュースが一段落したタイミングに製品のテストをしてもらったり(深掘り)、開発者のインタビュー(独自情報)をしてもらったりと、第2、第3の広報ネタを投入して、商戦までの間の話題性を持続させる工夫をします。

扱いが難しいニッチな製品の広報

 と、まあここまでの話は広報の実務をやっている方からすると、当たり前ではないかと思います。ところが、さらに困った依頼が広報に来ることがあるのです。

 IT産業、特にB2B市場の場合、「採用事例」というリリースがあります。要は私たちの製品は〇〇社のような立派な企業でも採用していただいています、という内容です。

 今でこそ私はコンシューマ―製品の広報をしていますが、その昔は半導体設計者が使う設計用のソフトウエアの広報をやる立場にありました。つまりこれに関心を持つ人は、日本の総人口に対し非常に少ないということです。

 さらに「採用事例」とは、つまるところ「買ってもらいました」ということにすぎません。もしそれだけのことでいちいちニュースになるなら、毎分毎秒、数えきれないニュースが世の中を飛び交うことになるので、このままでは広報として勝算はありません。

 「そこは広報の力で何とか」

 そう言って担当者から小動物のような目でじーっとこちらを見つめられると、何とかしてあげたいと思うのですが、やはり編集者と相談してもなかなか色よい返事をいただけません。特定分野を「深掘り」する専門メディアなら、ある程度取り上げてもらえるかもしれません。しかし最近のWeb媒体は、1記事がどれだけ広告を稼げるかということが編集としてもKPI(重要業績評価指標)になってる場合が多く、そうなるとターゲットが狭いニッチな製品の記事は、広く読まれる媒体には取り上げてもらいにくいのです。

 ただ忘れてならないのは、ターゲットとなるその数少ない人たちには「どのような会社で製品が使われているのか知りたい」というニーズがあることです。つまり情報を出す側と受ける側のニーズは一致しているのですが、それを受け渡す媒体としてのニーズがないという状態です。

 こうしたニッチな製品を扱う広報にも優秀な方は多くいらっしゃると思います。この場合、ターゲットがある程度分かっているのであればオウンドメディアを展開したり、タイアップ記事を書いてもらったり、報道対応でない手法による情報発信も併せて考えているようです。やはり市場を知り、自社の製品を知っている人の声は大切だと思います。