日々、記事化を目指してメディアへの売り込みに懸命な企業広報。新型コロナウイルスの感染拡大で発表会の開催もままならない今、その手腕が問われています。そこで今回は、記事化しやすいように“お膳立て”された「提案型広報」にスポットを当てます。メディア側も大歓迎と思いきや……。

「ここも、あそこも丸ごと取材できますよ。特集どうですか」「おお、これはありがたい。特集でやらせてもらいます」――とはなりません ※画像はイメージです(写真提供:Yuttana Jaowattana/Shutterstock.com)
「ここも、あそこも丸ごと取材できますよ。特集どうですか」「おお、これはありがたい。特集でやらせてもらいます」――とはなりません ※画像はイメージです(写真提供:Yuttana Jaowattana/Shutterstock.com)

 企業の広報やPR会社が、記事を書いてもらうためメディアに売り込む「提案型広報」は大変結構なことなのですが、時に相手が困ってしまう“ご提案”もあるようです。先日、懇意にしているある編集者の方が「この売り込みには参った」とぼやいていたので、一体どれほどご無体な相談を持ちかけられたのか聞いてみました。こうした場合、大抵は「提案」と言っておきながら鮮度も低ければアングルも利いていない、自社の宣伝に終始した情報を記事にせよという話なのですが、その件はちょっと様子が違いました。

 具体的な提案内容は控えますが、例えば「冬のボーナスで買いたい〇〇10選」といった企画で、売り込んできたメーカーの情報以外に、主要メーカーの新製品リストや、それぞれの特徴や価格などが整理された情報だと思ってください。これにメーカーから広報写真を取り寄せれば、後はもう原稿をまとめるだけで特集記事が一丁上がりです。要するに1社の企画ではなく、編集部やライターがやるべき領域の仕事まで丸々パッケージにした売り込みというわけです。

 提案する側は、おそらく「編集部の取材の手間が省けて大助かり」と考えているでしょう。一方のクライアント企業に対しては、「その企業の製品評価が高くなるよう、さりげなく情報をプッシュしているので、単独の製品紹介より効果的な露出になる」といった思惑を抱いているかもしれません。これなら八方めでたく収まる、ということだと思います。

 これの何がいけないのか。一言でいうと「やり過ぎ」です。

 世の中これだけ情報が氾濫していると、消費者は簡単にその情報の海で溺れてしまいます。子猫の動画のかわいさに溺れるのならそれはそれで悪くありませんが、何らかの目的があって情報を探しているのであれば、最短距離でその情報にたどり着きたいものです。そこで編集者や記者が独自の“視点”で情報に対して意味付けした、あるいは面白さの味付けをした記事が価値を持つのです。そうした記事こそが、消費者にとってまさにたどり着きたい情報への最短コースとなるのです。

 この視点というのがとても大切で、堅い経済ニュースとエンタメニュースとでは、同じ情報であっても読者へのインプットは全く異なります。それがメディアごとの編集方針で、これこそ「なぜ編集が必要なのか」という根幹を成す考え方です。

 例えば「プロ野球開幕」というテーマで記事を書けば、まさに十人十色。編集部ごとの視点の違いが、読み手としても楽しみな点になります。もし「やり過ぎ広報提案」がこの編集方針をコントロールし、広告のような意のままに記事を出すことをもくろんでいたなら、編集記事の持つ意味をはき違えていると言わざるを得ません。