新型コロナウイルスの感染拡大で、記者発表会をオンラインで実施する企業が増えてきました。リアルな場での発表会がいいのは当然ですが、実はオンライン会見だからこその良さもあるようです。そして、次第に広報がオンライン会見を成功させるための「お作法」も見えてきました。

新型コロナウイルスの感染拡大で、記者発表会のライブ配信が増加中。記者の取材もオンラインで、というケースも増えてきた ※画像はイメージです(画像提供:TarikVision/Shutterstock.com)
新型コロナウイルスの感染拡大で、記者発表会のライブ配信が増加中。記者の取材もオンラインで、というケースも増えてきた ※画像はイメージです(画像提供:TarikVision/Shutterstock.com)
この原稿は2020年3月19日までの状況を前提に書かれています。新型コロナウイルスの影響は日々変わってきています。今後、状況に応じた臨機応変な広報対応が必要となります。

オンライン会見のオプションが常識に

 「3月に入って半減、いやそれ以下ですよ」

 先日、IT関連のベテランジャーナリスト大河原克行氏と話をする機会があり、時節柄、新型コロナウイルスの取材への影響が話題になりました。会話の中から企業の広報が各社どのような対応を取っているのか見えてきたので、このコラムを読んでくださっている広報関係者の役に立ちそうな情報をまとめてみます。

 冒頭のコメントは2020年3月に入ってからの記者会見の数です。このことから分かるように、企業広報の新型コロナリスク対策の1番目は記者会見の「中止」です。要はプレスリリースの投げ込みと個別取材で終わりにしてしまうやり方です。やむを得ないこととはいえ、もともと会見を予定していたような大きな発表ですから、企業としてはさぞや残念でしょう。また、会見は取材する側にとっても「仕事の場」です。会見中止で仕事が減ってしまう(特にフリーランスのような)方もいるので、なんとか解決したいものです。

 そこで注目を浴びているのがオンラインでの記者会見、またはリアルイベントとのハイブリッド開催です。これは各社目的に応じて使い分けているようです。

 (1)オンラインのみ:業績発表などプレゼンテーションが主体の会見。実は海外では業績発表はオンライン会見が既に常識となっています。

 (2)ハイブリッド開催:会場を用意する必要があるのは、例えば製品自体を見てもらわないとそのニュースが書けないようなケースです。あるいはオンラインでは質問が出にくいこともあり、主に活発な質疑応答のために会場を設けるケースもあります。この場合、数回にセッションを分け、少人数での質疑とする場合もあるようです。

 例えば橋の開通式のように、どうしても現場で開催しないと成立しないものを除くと、オンライン会見でオプションを用意しておくのはもはや常識となってきています。リアル会場を用意する場合は、出席者に検温などの体調確認や、受付時に手の消毒とマスク着用をお願いする、といった取り組みを行っているようです。

 ではオンライン会見を開催するには、どのようにセットすればいいのでしょうか。実際、私が広報を担当するレノボ・ジャパンでは、20年3月4日にオンラインとのハイブリッド会見を行いました。このときは、共同発表のもう一方の会社がNTTコミュニケーションズだったので、万事先方がやってくださいました。間違いのないオンライン会見を実施したければ、こうしたプロに相談するのがよいでしょう。

 気になるコスト面ですが、別な会見のため外部のイベント会社に見積もりをお願いしたところ、システム利用料、機材、オペレーター人件費などで数十万~100万円以上の見積もりが上がってきました。こうなると開催に二の足を踏むケースもあると思います。そこで費用を抑えた方法を紹介します。

 これまた当社のケースですが、20年3月11日に自社の会議室からオンライン会見を実施しました。その際、マイクロソフトの「Teams」というコラボレーションソフトのオンライン会議機能を使いました。TeamsはOffice 365を使っている企業なら使用ライセンスがあります。これなら追加費用なしで開催可能です。

 自前でやる場合も会社のIT部門の支援を受け、入念なリハーサルを忘れないでください。私は3月11日の会見をほぼぶっつけ本番で挑んだ結果、オンライン参加の皆さんに資料の画面が共有されていなかったという失敗をしでかしてしまいました。参加された皆さん、ごめんなさい。

2つ同時参加も、オンライン会見の利点

 新型コロナウイルス禍という状況で広まったオンライン会見ですが、実はメリットもあるようです。前出の大河原氏によると、ある会見会場から別の会場まで移動時間がかかる場合、例えば午前11時からの会見に出ると正午からの会見は諦めなければならない。それがオンラインなら連続して参加できるようになるそうです。さらにPC2台を使った「2会見同時参加」の離れ業も考えられます。

 とはいえ、オンラインシステムは各社ログイン方法などがばらばらなので、接続までに少し時間を取られてしまいます。そこで大河原氏が提案するのは、「開始“00分”、終了は“50分”をスタンダードに」というものです。それだと混乱がなくなり、参加できる会見の数も増えますから、広報とマスコミの双方にとってよいことなのでは、ということでした。私も賛同したいと思いますが、もしこれが標準になれば、大河原氏は後世「日本のオンライン会見の父」と呼ばれるかもしれませんね。

 オンライン会議機能を使った場合、多くは録画可能なので、会見に参加できなかった方に録画を見ていただくことも可能です。これも大きなメリットでしょう。

オンライン会見の「お作法」

 広報が気を付けるべき、オンライン会見ならではの「お作法」も少しずつ見えてきました。

 まず会見終了後、配布資料を参加者にメールで送ること。オンライン参加者が無記名または匿名の場合、なんらかの方法で資料希望者のメールアドレスなどを取得する必要があります。

 一方、オープンなURLで公開する場合は誰でも見られます。そもそも記者会見というものはオープンなコミュニケーションなので問題ないはずですが、言い間違いや、ましてや不適切発言などがないよう、より慎重にならなくてはなりません。

 質問の受け付け方法もシステムによってまちまちです。多くはチャット機能で質問できますが、やはりリアルタイム性は劣ります。そこで「質問の多い内容をまとめて回答」「すべての質問に追ってメールで回答」など、各社工夫を凝らしているようです。

 PCのブラウザーがWeb会議に対応していなかったり、マイクをオフにしないと聞き手の声が会場に聞こえたりしてしまうケースもあり、「参加する記者にも注意が必要」(大河原氏)なようです。

 しかし考えてみると「会見が重なって行けません」「後から資料だけでももらえませんか」といった記者さんからの声はこれまでもありました。もしかすると、新型コロナウイルスの感染収束後も、オンラインハイブリッド会見はスタンダードなものになっていくかもしれません。広報の世界も少しずつ変わってきているようです。

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