新型コロナウイルス感染拡大で国や企業の「広報力」が問われています。情報発信の方法を誤れば、国民や消費者の不満が爆発しかねません。今回は筆者の遠藤眞代氏が、娘の通う学童保育が遭遇するかもしれないリスクを回避すべく、持ち前の広報スキルを活用した(?)出来事の顛末(てんまつ)です。

先生、このデータを見てください。万全の対策をとらないと、こんな恐ろしいことに…… ※画像はイメージです(写真提供:Fast&Slow/PIXTA)
先生、このデータを見てください。万全の対策をとらないと、こんな恐ろしいことに…… ※画像はイメージです(写真提供:Fast&Slow/PIXTA)

広報スキルで、学童保育のリスクを抑えたい

 「広報」という職業病を患う母親は、実はさらにに重い疾患を抱えていた(関連記事「広報という職業病を患う母親とその娘が遭遇した『白いもの』騒動」)。

 病名:「おせっかい」

 この疾患は年を重ねれば重ねるほど病状が悪化するうえ、つける薬もない。ところがその母親は“病”を隠そうともせず、むしろ「広報の業務には、おせっかいは必要。私は素のままでいく」と開き直っている。そんな態度が災いしたのか、新型コロナウイルス騒動の中、母親は娘の放課後児童クラブ(学童保育)に行った際に、職業病だけでなく重度の疾患を発症してしまったのだ。

 娘がお世話になっている学童保育は、公立ではなくある企業が経営している。その母親は学校の宿題を丸投げしたくてそこに決めたようだ。娘は既に高学年だが、第二の家として、長年そこに通っている。

 おしゃべり好きな母親は、娘のお迎えに行くたびに先生と話し込む。ひとたび広報パーソンが患う職業病が発症すると、娘などそっちのけで学童保育の仕事について内容を事細かにリサーチする。時には人生相談に乗ったつもりで、先生の背景情報についても根掘り葉掘り……。

 突然、新型コロナ感染拡大で小学校の休校が決まった。学童保育は原則開所とのことだったが、その母親は娘の施設は民間経営のため、感染リスクを考えれば開所の継続は難しいと見ていた。しかし先生の「こんなときだからこそ、学童保育を続けるべきだ」という話を聞き、母親はその高い志に涙腺が緩んだ。「いくら仕事だとしても、高給だったとしても、自分には絶対にできない」と思った。

 広報スキルが奏功し、日ごろから先生とのコミュニケーションが密だったこともあり、母親はその学童保育における新型コロナ対策をある程度把握していた。正直これ以上の対応は求められないと感じるほど、よく考えられた内容だった。

 先生方は通常業務に加え、手洗い、除菌、空気の入れ替えなど、いつも以上に忙しく働いている。それでも広報という職業病を患っている母親からすると、「小学生」「感染」「クラスター」などパワーワードのオンパレードで、寒気を覚えるほどの企業リスクが頭をよぎった。母親は万一の場合、少なくとも娘が通う学童保育の先生方が最小限の被害で済むよう、現場でできる考えられる限りの広報的な「守り」と「保険」の術を伝えたくなった。

 母親の「おせっかい」が発症した。

母親、学童保育に上から目線でアドバイス

 繰り返しだが、おしゃべり好きの母親は先生から幅広く情報を収集していた。しかし、娘によれば「他のお母さんは長話をしない」らしい。そこで母親は考えた。

 「他の親御さんは自分ほどの情報は持っていないことになる。だとすると、まず抑えるべきは親だ。ほころびが出るのは大抵内部からだ。内部に対する情報開示が不十分で不安が残れば、不満が漏れる。そのタイミングは万が一が起きた瞬間かもしれないし、それより前かもしれない。ひとたび火が付けば、学童保育への風評や悪評が広がる恐れは避けられない。今はSNSを使えば、誰でも不満をぶちまけられる……」

 まさに誰にも頼まれていない、いらぬ「おせっかい」を発症し、1人で勝手に心配をし始めた。そして母親は口を開いた。

母親:「ところで、コロナ対策でどんなことをなさっているんでしたっけ?」

先生:「お子さんがいらしたら検温。1日に〇回付き添いながら手洗いを行っています。基本、窓を開けて換気をして、空気を入れ替えています。毎日床やドアノブを消毒……」

母親:「なるほど。それ大変ですね。せっかくなので、それを親御さんたちにやっていることを伝えたほうがいいかも(上から目線)」

先生:「やっぱり不安ですか?」

母親:「私は不安はないですけど、きちんと対応していることが分かると安心できると思います。私みたいに根掘り葉掘り聞く人もいなさそうですし。毎日簡単でもいいから、文字に残したほうがいいかもしれません。それと数時間に1回でも写真を撮っておくといいでしょう。しっかり対策していることが分かるように。後で(取材や糾弾されたときを想定)、いくら作業をしていましたと言っても、証拠がないと……ほら、昔と違ってフィルムじゃないから何枚でも撮れますし」

先生:「なるほど、メモを取らせていただいてよろしいですか?」

母親:「ええ。まず、コレコレこうして、こうするでしょ……」

 さて、愛娘が通う学童保育を余計なリスクから救うべく、広報スキルを遺憾なく発揮した母親と、その後の結果をお伝えしよう。なんと母親のアイデア(おせっかい?)は、翌日からその学童保育に取り入れられたのだ。広報担当として企業を守ったような感覚も手伝い、母親は大層ご満悦だった。一歩間違えれば“モンスターペアレント”と見なされたかもしれない……など、これっぽっちも思っていないそうだ。

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あの時代にこんなスゴ腕の広報がいたら、きっと日本の歴史は変わっていたに違いない……。
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