新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大を受け、鈴木正義氏が兼務しているレノボの広報から「テレワークスタートガイド」なるものが公開され、一部で話題となりました。今回はこの一件に関し、同氏が広報としてどのように判断し、社内がどう動いたかについて裏側を明かしてもらいました。

新型コロナウイルスでテレワークが注目を浴びている。しかし、いざ導入となると、その方法が分からず右往左往する事態に…… ※画像はイメージです(写真:drawing-of.eu/Shutterstock.com)
新型コロナウイルスでテレワークが注目を浴びている。しかし、いざ導入となると、その方法が分からず右往左往する事態に…… ※画像はイメージです(写真:drawing-of.eu/Shutterstock.com)

“新型コロナ騒動”、レノボができることって?

 もともとレノボは自身がパソコンメーカーということもあり、テレワークに対してはかなり先進的な考え方を持った会社です。そのため働き方改革の視点からテレワークを推進したいというユーザー企業から相談を受けることが多く、正直営業的なメリットもあるので、日ごろからセミナーやプレゼンを行っていました。

 そうした中、2020年2月10日前後だったでしょうか、新型コロナウイルスの影響が大きく話題になってきたとき、私の近くの席に座るマーケティング担当が「テレワークスタートガイド」なる資料を廃棄していました。

 「あれ、こんなもの作ったんだ」
 「そうなんですよ。でもコロナのせいで、セミナー中止で無駄になっちゃって……」

 「ふーん」と言って、何気なくその冊子を手に取ってその場は終わりました。この状況の社内は、手洗いやマスクの励行、各自の判断でテレワークを行うようにという、やや“緩い指示”の段階にありました。

 実はこの頃から、社長はじめ幹部から「今回の件で会社としてできることはないのか、広報として考えてほしい」というお題をもらっていました。しかし、まだ全社でテレワークをしているとも言えず、空騒ぎのような情報発信をすれば売名行為とも受け取られかねません。逡巡(しゅんじゅん)する日々が続いていました。

 ところが3連休明けの2月25日、政府から「新型コロナウイルス感染症対策の基本方針」が発表されると事態は急展開します。各種イベントの中止や延期が相次ぎ、会社としても「可能な限りテレワーク」という指示のメールが全社員に送信されました。帰りの電車、夕食の間もずっと考えていたところ、あのガイドブックを思い出しました。ここからは時間軸に沿ってどんなやり取りだったのかを追ってみます。

プレスリリース配信までの裏側

 2月25日・午後9時44分――。私から関係者へ下記メールを送信。

 「今日の政府方針を受けて、テレワークを初めてするという企業が出てきていると思います。そこで、レノボのこれまでの無制限テレワークのノウハウをまとめた冊子を配布するなどの社会貢献ができないでしょうか。たしか、Hさんのところでキャンセルになったイベントのパンフレットで、テレワークの手引のような冊子があったかと思います。これをPDF化しWebサイトにおいて自由にダウンロードできるようにしてはどうでしょうか」

 同午後9時55分――。マーケティング担当から「ダウンロード提供しているURLがあります」という返信あり。内容を確認する。その目的は、偉そうに「テレワークのガイドです」と言ってみたところで、中身が会社の宣伝パンフレットだった場合、かえって批判を浴びる結果にもなりかねないからです。幸いなことに、内容はレノボという会社がどういうテレワークを実施しているかというものでした。自社製品の固有名詞が出てくる程度で、宣伝色は最低限であることが確認できました。

 2月26日・午前0時26分――。私から関係者へ下記のメールを送信。

 「とりあえずプレスリリースのドラフトを作ってみました。しかし今の資料は時間をかけた導入を視野に入れているもので、まずは緊急的に全社テレワークを実施したいという企業の不安を取り除くためのアドバイスが求められていると思います。この辺りをまとめた資料はお持ちですか?」

 同午前2時16分――。テレワーク推進担当から返信あり。「プレスリリースの草案、拝見しました。テレワークスタートガイドに“緊急的なテレワークの実施に向けたTIPS”として第4章を追加の上、テレワークスタートガイドそのものを改訂版として公開!という形にできればよいかな、と考えました」。

 同午前9時3分――。レノボ日本法人の幹部メンバーにプレスリリース実施の連絡を入れる。余計な話かもしれませんが、「日本の責任において完結する事項は日本の判断で広報してよい」というレノボのグローバルなルールがあったおかげで、このスピード感でのデシジョンができたと言えます。

 同午後1時4分――。テレワーク担当から改訂版原稿が上がってくる。

 同午後2時8分――。それを受けてマーケティング担当から返信あり。「明日AM中に上がる初稿に対して大幅変更なければ金曜リリースでいけます」。ここで下記のような大まかな配信までのスケジュールが確定しました。

 2月27日――。
  ・正午まで:初稿UP、確認
  ・午後2時まで:修正指示
  ・午後4時まで:最終稿UP
  ・午後5時まで:Web PDF差し替え
  ・午後6時まで:最終確認、校了

 2月28日・午前11時――。プレスリリース配信。

 この間に広報はプレスリリースの手直しを進めます。レノボという会社は日ごろ「Smarter Technology for all」という、正直何が言いたいのか分かりにくいスローガンを掲げているのですが、その根底にある考えは簡単に言うと「テクノロジーで人助けをする」ということです。そこで下記の一文を加えました。

 「レノボは『Smarter Technology for all』を社是としており、テクノロジーの恩恵をすべての人に提供することを目的に事業活動をおこなっています。今回のテレワークノウハウの公開は、この理念に基づくもので、テクノロジーによって課題を解決し、誰一人排除される人のいない社会の実現を目指したアクションです」

 会社の社是などというものは、はっきり言って普段誰も気にしないかと思います。それをいちいちプレスリリースに入れるのはウザいだけである、というのが普段の私の持論です。しかし今回の緊急対応に当たっては誰も疑問や不満を言う者がおらず、まさに「Smarter Technology for all」の理念を行動に移していると感じ、この一文を入れました。

 こうして予定通りプレスリリースは配信されました。本音を言えばこのガイドがどこまで役に立つかは分かりません。また「Smarter Technology for all」なるものも我々の自己満足の掛け声というご指摘もあろうかと思います。しかし、今回は企業広報として信ずることを行動に起こせたと自負しています。

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