共同発表会は互いの企業にとって晴れ舞台。広報としてもこれほど貴重な機会はめったにありません。しかしこの発表会の「案内」が非常にやっかいなのです。それを基にメディアに裏で動かれて、発表当日にどか~んとスクープ記事が……。胃が痛くなるような不安を抱えつつ、広報は準備を進めるのです。

発表会が終わるまで、どうか爆発しないで…… ※写真はイメージです(画像:Gearstd/Shutterstock.com)
発表会が終わるまで、どうか爆発しないで…… ※写真はイメージです(画像:Gearstd/Shutterstock.com)

マスコミと広報の間にある不文律

 以前、企業同士が共同発表を行う場合、段取りをすっ飛ばして暴走する幹部がいると大変なことになって、関係者の顔色が緑に近い土色になる……といった話をしました(関連記事「華々しい企業同士の共同発表、その裏で泣く広報」)。今回はその続き、ついにこぎ着けた共同記者会見における広報の裏側についてお話ししたいと思います。

 共同会見を開催する場合、最初に最も難易度の高い作業が待っています。開催案内です。実はマスコミと広報の間に一つの不文律があります。それは「記者会見の案内で、そのことを記事に書かない」というものです。

 このコラムで書くまでもなく、報道の自由という民主主義の根幹を支える重要な権利がマスコミの根本にあります。例えば会見の案内に「世界最速のオートバイを10日後に発表します」と書けば、翌日の新聞に「A社、世界最速のオートバイを発表」と書かれてしまってもそれは報道の自由ですから本来仕方ない話なのです。それでも「会見の案内で記事は書かない」というのが不文律なのです。

 とはいえ広報としてもそこは安心しきれずに、記者会見の案内は参加したくなるような興味を引く内容になっているものの、でもそれだけでは記事にならないようなギリギリの情報を書いて送ります。上記の場合ですと「最新技術を搭載した高性能オートバイの発表」というような感じでしょうか。

 ところがこれが企業同士のM&Aや、それに準じるような業務提携の発表となると事情がまるで違います。新聞などの経済部記者にとって、このネタをスッパ抜かずして経済部記者としていつやるのか、ということです。こういう場合、広報部に連絡してきて「これ記事にしていいですか?」と言ってくださればまだいいのですが、怖いのは送った案内から「裏取り」の取材を水面下で進め、会見の直前にドーンと記事を出してくるケースです。

 このように共同会見の案内は、いわばいつ爆発するか分からないニトログリセリンを載せたトラックでガタガタ道を走るようなものなのです。いつ何時「鈴木さん、明日の朝刊でやりますので、よろしく。ガチャン(電話を切る音、最近はこんな電話誰も使ってませんが)」という連絡があるかヒヤヒヤします。

 そんなわけで本当に“ヤバい”発表は直前に案内を出すことがあります。どれくらい直前かと言いますと、「当日の午前中発表」「3時間後に発表会」というくらいの直前です。これはこれでメディアからすると迷惑千万な話ですが、予期せずスクープが出てしまうと上場企業の場合は株価が混乱しますし、証券取引所の規定として適時開示の必要も生じますから、発表のシナリオも何もあったものではなくなってしまいます。ですから直前の案内は仕方ないこともあるのです。

マスコミとの接触は既得権益?

 少し脱線しますが、“単独スクープ”というものも広報として意識的に仕掛けることもあります。いわゆる単独リーク記事というやつです。その場合は「○○新聞の取材に応じ、~について語った」という感じの記事になります。

 一方、広報は関与せずにどこかで裏取りをされた予期せぬスクープの場合は、「〇〇新聞の取材により、明らかになった」あるいは「~であることが、分かった」と書いてあります。記者が深夜に布団の中で天啓を受けたわけではないので、どこかの誰かが情報提供したから「分かった」わけです。しかし「××さんが言ったので、分かった」とは書きません。「情報源の秘匿」もまた報道の重要な権利なので、「こ、このネタ誰から聞きましたか?」と詰め寄ってもまず教えてもらえないと思ったほうがいいでしょう。

 広報以外の社員による安易なメディア側との接触を広報は嫌います。これを「広報が既得権益を守ろうとしている」と思っている人が時々いるのですが、企業のリスク管理の観点からメディアへのコンタクトや情報提供が広報に一本化されていることがお分かりいただけると思います。いつか新聞で「~であることが、分かった」という記事を見つけたときは、どこかでてんてこ舞いになっている名も知らぬ広報に思いをはせながら、広い空を見上げてみてください。

ロジカルシンキングのスキルを身に付ける

 さて、ニトロを載せたトラックも無事ガタガタ道を走り切って発表当日を迎えます。ひな壇には両社の幹部が5人……。ん、ちょっと待って、何で奇数なんだ?

 「あのー、どうしても当社の事業部長でないと質疑応答が心もとないので、質疑応答対応で1人登壇者を追加させてください」

 「いやいや、今回両社対等ということで人数も打ち合わせたじゃないですか」

 こんなことがあるかと思えば、「ウチの代表はプレゼンの原稿を覚える余裕がなかったので、原稿を読み上げます。格好悪いのでオタクのトップも合わせてもらえませんか?」なんてこともあります。

 こうした事態を回避するためにも、事前に登壇者の人数、肩書、プレゼンのスタイルなど、互いの広報でキッチリ打ち合わせておかねばなりません。以前、「プレスリリース無限ループ」の話をしましたが、他にもQ&Aや受付などの役割分担、細かいところでは登壇者の服装、配布資料をどちらの会社の封筒に入れるのかなどなど、事前に両社で詰めておくことはいくらでもあります。

 まだ何か漏れがあるのではないか……といくら不安になっても、社内でさえ極秘事項扱いの共同発表ですから、安易に周囲の同僚に相談するわけにはいきません。密室のような状態で広報がマスコミの動向を完璧に予測して準備するには、日ごろからロジカルシンキングなどのスキルを身に付け、MECE(Mutually Exclusive and Collectively Exhaustive=漏れやだぶりがない)状態かどうかをセルフチェックする必要があります。

 このように非常に取扱注意事項の多い共同発表ですが、だからこそ広報としては得難い経験になります。めったにない共同会見、そのノウハウを自社の広報が持っているということは、イザというとき経営陣としても心強く思ってもらえるのではないでしょうか。

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