プレスリリースのドラフトが一発で通ることなどほとんどないでしょう。チェックする複数の担当者の手で真っ赤になった原稿を前に、むかっときたり、情けなくなったりすることなど日常茶飯事。それでも広報は最終着地点に向かって突き進まなくてはなりません。

広報の怒りと悲しみが交錯するプレスリリース案に対する赤字 ※写真はイメージです(イラスト:studiostoks/Shutterstock.com)
広報の怒りと悲しみが交錯するプレスリリース案に対する赤字 ※写真はイメージです(イラスト:studiostoks/Shutterstock.com)

「ドラフト」よりも「たたき台」がいいワケ

 プレスリリースの書き方は本やセミナーなどで学べます。伝えたいことをまとめてマニュアル通り書けば、完璧と思えるものができるのに、なぜかプレスリリースの初稿がそのまま最終稿になったことはない。かくいう私もそうです。数百本も書いているのに……。

 大変なのはプレスリリースを書くこと自体ではなく、あちこちから入ってくる加筆修正やコメントをまとめること。経営者が広報を兼務していれば別ですが、普通は初稿を投げた後に膨大な赤字が入り、ぐちゃぐちゃになる。それを皆さんの意向を踏まえながら整理整頓する。そんな作業を何回か繰り返してやっと最終稿が出来上がります。当然、関係者が増えれば増えるほど大変で、手間もかかるし気も使います。

 完璧なリリースを初稿で仕上げてやろうと意気込み、何日もかけて一生懸命書いたプレスリリースが真っ赤になると、怒りと悲しみがこみ上げてきます。なぜか人格まで全否定された気になる。私などは跡形もなくなって戻ってくることに耐えられず、「なぜこういう直しを入れたのか?」と食ってかかって険悪なムードをつくる。そんな不毛なバトルを数え切れないほど経験してきました。ああ、恥ずかしい。

 プレスリリース執筆の“百本ノック”をこなしていくと、次第に文章の好みや思い入れ、立場などによって入れられるコメントに過剰反応しないようになります。そうなってから私は初稿を「ドラフト(草稿)」ではなく、「たたき台」と呼ぶようになりました。

 心理的なものだと思いますが、「ドラフト」より「たたき台」として提出したほうが受け取り手からの攻撃は弱まります。「ドラフト」の場合、相手は修正しなきゃという使命感にかられるのではないでしょうか。一方「たたき台」にすると意見を出してくださいね、といった「一緒に作りあげましょう感」が醸し出される。意見をいただくことを前提にした「覚悟」を相手に見せることは、思った以上に有効です。

 たたき台を見て初めて伝えたいことを思いつく人も少なくありません。私がよく使う手は、相手の思い入れが強そうな部分はファクトベースでシンプルに書いておき、そこに赤字で入れてもらうやり方です。そうした箇所は、どうせ赤字を入れられるのですから。

赤字で悲惨なたたき台、最終着地点をどうする?

 いろんな立場の関係者が入れてきた赤字修正で、ぐちゃぐちゃになって戻ってきたリリースのたたき台をどう着地させるか。しつこいようですが、ぐちゃぐちゃになるのは覚悟の上です。

 その場合、回覧前に(1)「無条件に加筆・修正すべき事」、(2)「必ず話し合わなければならない事」、(3)「広報判断で進めてしまってよい事」の3つについて心づもりをしておくと後がラクです。関係者全員に宣言しておくのもアリでしょう。役割分担や責任範囲を決めておけば、無意味なやり取りも減ります。たまにお門違いなコメントを入れてきて引っかき回す人も登場しますが、そういうのは後回しにしましょう。優先順位を決めて対応することが肝心です。

 「無条件に加筆・修正すべき事」は仕様や名称などのファクトです。赤字には即座に対応しましょう。発表会直前にスペックの間違いを発見して、発表会場で訂正するという大ポカ(震えましたよ)をしてから、仕様は担当者に入れてもらうようにしています。直前まで修正が入る場合もありますし……という理由で。

 「必ず話し合わなければならない事」は発表の肝となる部分です。こじれそうなら担当者とひざを突き合わせてやり取りするのが一番早い。事前に発表の目的やメインメッセージなどを決めておくと話がスムーズです。それでもこじれるときは、もともとこじれる事案なんだと割り切り、最後まで粘り強く対応することです。良いものを作るためのプロセスなので手は抜けません。

 「広報判断で進めてしまってよい事」は文章を整理する作業です。複数人の赤字が入った文の「テニヲハ」や「構成」は、ひどいことになっているものです。主語と述語が対になっていないことなどザラ。それを文章のプロであるメディアに送るのは失礼なので、プレスリリース編集の最終責任は広報に任せてもらいましょう。

 「どうせぐちゃぐちゃにされるぐらいならドラフトは担当者に任せて、後で広報で直せばいいか」と思わなくもありません。ケース・バイ・ケースですが、「たたき台」であってもドラフトは開発者や経営陣ではなく担当広報が書いたほうがいいでしょう。必要以上に思い入れが強い“ポエム”になるのを防ぐためです。ポエムからプレスリリースに仕立て直すのは至難の業ですし、トラブルの元ですから。

 面倒に思えるプレスリリースのドラフト(たたき台)づくりですが、最終的に持っていきたい落としどころを初めから想定しておくと楽しいものです。戻ってきたときに「ここ気にする?」「そう来ましたか!」などと独り言をいいながら次の一手を考え、最終的にイメージする理想形に近づけられたら最高です。

 どうしても広報として譲れないことを死守するために一番効果があるのは、「マスコミはこう考えているらしいですよ」という言葉。そんなときに、以前から紹介しているマスコミアンケートが役に立つと思いますので、ぜひ参考にしてください。

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あの時代にこんなスゴ腕の広報がいたら、きっと日本の歴史は変わっていたに違いない……。
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