企業同士が手を組み新たな事業に乗り出すとあれば、新聞やテレビをはじめ多くのメディアが注目します。広報にとって共同発表はその本領を発揮する絶好の機会。しかし晴れやかな舞台の裏で、例のごとく広報担当者は命をすり減らしているのです。

2019年11月18日に開催されたZホールディングスとLINEとの経営統合の記者会見。これだけの大型発表ともなれば広報冥利に尽きる半面、その苦労も相当なものだろう(写真:酒井康治)
2019年11月18日に開催されたZホールディングスとLINEとの経営統合の記者会見。これだけの大型発表ともなれば広報冥利に尽きる半面、その苦労も相当なものだろう(写真:酒井康治)

正式契約前に広報発表まで決めてしまうトップ

 企業のトップ同士が重要な業務提携を発表、両社のロゴの入ったパネルを背にして握手、激しいカメラのフラッシュ――。まさに「広報には華がある」を地でいく瞬間です(関連記事「『広報は華がある』は幻想 現実は泥くさく、気まずい」)。

 会社としての新たな展開を社会に対して説明し、ステークホルダーに理解していただく。共同事業成功に向けた第一歩を担うわけですから、広報として手応えがないはずはありません。こうした得難い経験をさせてもらえることは幸運なのですが、ですが、ですがですよ、時としてなかなか“つらいもの”がつきまとうのもまた共同発表なのです。

 そもそも企業同士の合意で注意しなければならないのが「いいですねやりましょう」と言って、細部が詰まっていないうちに広報発表の話までトップ同士が決めてしまう場合です。特に気を付けたいのが、肝心の契約を書面で交わしているかどうかです。基本的には書面による何らかの合意があって初めて広報発表を行うのが一般的な手順だと思います。

 しかし「細かいところは後で詰めるとして、相手も乗り気になっている今ここで一気に会見の約束も取り付けてしまおう」というのもまた、経営者の交渉術としては間違っていません。ですからこういうときこそ、広報が経営者の側近として実務の脇を固める役目を積極的に果たすべきです。

 「今日先方と打ち合わせで、広報の話も出るから同席してもらえる?」

 こんな場に呼んでもらえると、大体雰囲気が分かります。トップ同士がポジティブに会話を弾ませている脇で、顔色が緑に近い土色をした担当者がいたら要注意です。

 「ちょっと広報の前に基本的なことを確認させてください」などと言って切り出すと、顔面緑色氏から「実は契書がまだでして……」というようなことがポロポロ出てきて、じゃあそっちの準備も急ぎましょう、といったことになります。

 なぜこうなってしまうのでしょうか。「細かいことは担当レベルに任せる」という発想の経営者と、「判断は常に細部に至るまで完璧で、疑問を挟む余地はつくらない」というタイプの経営者がいると思いますが、後者だと思っていたら前者のタイプだったということが間々あるからです。この辺りは広報として経営幹部の鶴の一声に単純に流されてはいけませんね。

本当の“地獄”はこれからだ!

 さて、そもそもの前提について確認が済み、これでめでたしめでたし……とはいきません。共同発表の地獄はむしろここからで、「リリースチェック無限ループ地獄」が待っているのです。

 まずは両社広報で実務に関する打ち合わせ。「ではウチがプレスリリースのドラフトを書きますね」といった話になります。共同発表といっても実際はどちらかの会社が主導して進めるので、その事業の主導権を持っている会社の広報がプレスリリースなども担当することになります。あるいは、その共同事業が実現したときのメリットが大きいほうの会社が主導する、という言い方もできます。

 ただし、ここでどういう手順でリリースをレビューするか決めておかないと大変です。まずこちらの社内で役員、法務などの必要な承認を得て相手に渡す。リリース(案)が相手に渡って、今度は相手の会社が改訂し、同じように相手の役員などの承認を取る……。

 賢明なる読者の皆さんはもうお気づきと思いますが、こうして戻ってきたリリースは先にこちらの社内で承認されたものとは違うものになっていますので、再度承認が必要になり、その過程でまた改訂せざるを得ず、その結果また相手の会社のレビューが必要になり……。こうして「リリースチェック無限ループ地獄」が始まるのです。ひどいときはこちらが直した部分を元に戻されて返ってきたりしますので、それをレビューに出すと「オイ、変更箇所が反映されてないよ!」と怒られたりします。

 こんなやり取りになってしまうのには実は理由があります。

 やり取りがループするケースは、大抵こちらサイドの言いたいことが、相手にとっては言うべきでないことだったりします。例えばこの件をA社はB社との排他的なパートナーシップと言いたい、相手のB社は水面下で他の企業とも交渉を進めているが、A社に対しそうとは言えないので交渉の段階では触れずにいる、などです。

 もうこうなると広報同士では埒(らち)が明きません。

 「スンマセンが上同士でもう一回話してもらえますか?」

 これに尽きるのではないかと思います。

一番気まずい「メディアリスト」のやり取り

 プレスリリースという紙切れ1枚を作る過程で、両社の秘めたる思惑や曖昧にしておきたかった点が明らかになることも多いのです。なぜなら、プレスリリースとは第三者の批判的な視点に耐え得る説明が盛り込まれた文書なので、当然そうした「痛い点」をわざわざ突きながら作成するからです。事業計画の最終チェックプロセスに(結果として)なることもあります。

 ようやくリリースとしての言いたいこと、言いたくないこともまとまりました。でも、まだ壁はあります。実は広報同士で一番気まずいのが「メディアリスト」です。どういったメディアとリレーションがあるのか、ないのか、それが一目で分かるメディアリストはいわば門外不出。これを相手に見せるのは気が引けます。しかしせっかくのリリースが肝心のメディアに渡っていないという事態は避けたいので、さあどうする、となるわけです。

 どの企業も同じような相手にコンタクトしていますから、突き詰めるとメディアリストにさほど神経質になる必要はないように思われるでしょう。しかし「なんだこの会社の広報この程度のリストしか持ってないのか」と見透かされかねない心理のほうが大きいのではないかと思います。友達同士で通信簿を見せ合う心理に似ているといえばご理解いただけるでしょうか。

 結局、ダブっても仕方ないと割り切り、「両社別々に出しましょう」というのが落としどころになるように思います。

 こうして発表の当日を迎えるわけですが、共同会見のポイントや質疑応答、登壇者の肩書など広報が直面する困難は山積みです。こちらはまたの機会にお伝えしたいと思います。