1日に大量に送られてくるプレスリリース。独自に実施したアンケート調査では「読まれるのはせいぜい10通」という結果に。それでも「読まれるリリース」は確実に存在します。現在はメールでの配信が主流ですが、記者や編集者は何を手掛かりに「読む」「読まない」を判別しているのでしょうか。
FAX中心の時代より簡潔な情報が求められる
書店で山ほどある本の中から“ある1冊”を手にするきっかけといえば、やはり「タイトル」。もちろんウェブの世界でも、記事のタイトルは選ばれるためのトリガーになります。ニュースサイトの中には記事を読んでもらう手法として、タイトルやページ内の一部を変えたAパターンとBパターンを用意し、人気のあるほうを残す「ABテスト」を実施している媒体もあるとか。キラリとセンスの光るタイトルをひねり出すのは、プロフェッショナルでも至難の業なのでしょう。
以前「読まれるのはせいぜい10通、プレスリリース受難の時代」で書いたように、膨大に届くプレスリリースの中から実際に読んでもらえるものは本当に少ない。情報発信する側は、読ませる工夫が不可欠です。少なくとも「広報のプロ」である以上、その高いハードルから逃げるわけにはいきません。
でも安心してください。同じような内容の文章でもプレスリリースと記事は全く違います。作家になる素質を持ち合わせていなくても、プレスリリースを立派に成立させることは可能です。中には情緒的で美しい随筆のようなフレーズがちりばめられたプレスリリースもあります。しかし記者向けの資料という性質上、プレスリリースは説明文としての機能をしっかり果たすことが最優先です。それを踏まえた上で、タイトルにも配慮する必要があります。
FAXがメインだった頃のプレスリリースは、「1ページで完結させること」が重視されました。もちろん今でも伝えたい内容を簡潔にまとめるのは重要です。ところが現在主流のメールの場合、相手への負担が少なく、すぐに理解してもらえるレベルの情報量はFAX時代の1ページよりも少なくなっています。メールなら紙と違ってたくさん情報を盛り込めると思っているなら、それは大きな“誤解”かもしれません。今や忙しい記者や編集者に読んでもらうためには、わずか「78文字」で勝負する必要があるのです。
3割超が件名に「興味のある文言」を重視
面識のあるメディア関係者(新聞、ウェブ、雑誌などで活躍されている合計109人の方々)に対して独自にアンケートを実施したところ、「忙しくてメールはスマートフォンで読むことが多いから、それを意識してほしい」というコメントを頂きました。確かに移動が多いマスコミの方は、スマートフォンでメールを受信しているケースが多いでしょう。
そこで私の場合、受信メールリストに表示された際に大まかな内容が把握できるよう、発信者(全角15文字以内)、タイトル(同20文字以内)、あとメール本文の冒頭は43文字を意識しています。この合計「78文字」の中に必要な情報を盛り込めるかどうかが勝負のしどころです。使っているスマートフォンやメールアプリなどによっては、さらに簡潔にしたほうがいい場合もあるでしょう。
アンケートではメールの件名表示などから「プレスリリースのメールを開くかどうか決める要素は何なのか?」についても聞きました(複数回答OK)。その結果は以下のグラフのようになりました。
【質問】「プレスリリースのメールを開くかどうか決める要素は何なのか?」
この結果から1位はニュースバリュー、2位は企業バリューを重視しているということが分かります。面白そうだと感じれば、企業の知名度などはひとまず置いておいて約3分の1の記者や編集者がメールを開く。それほど多くありませんが、送信者の名前や個別送信かどうかにもメールを開こうと思わせる力がありそうです。
「僕個人宛てに送られて来たメールだと、開く可能性が高いです」「数多く届くので、正直送信者で判断してしまう部分があり、担当企業や知っている広報の方からのメールを優先的に見ています。それ以外はほぼ読まずに……ということも」。広報としてはこのように言われるよう頑張りたいですね。
企業名だけのタイトルはやめてほしい
おまけとして今回のアンケート結果から、耳の痛いご意見も紹介しましょう。
「タイトルに企業名だけというのはやめてほしい。開いても関係ないってときは時間の無駄感が大きいです」。……これはもったいない。
「メールアドレスで送信者が誰か分かる場合と分からない場合で、件名に必要な情報は変わります。例えばメール配信サービスからなら件名に企業名は必須ですが、大手広報からのリリースの件名に企業名は邪魔です」。特に長い社名の会社は文字数のロスが多いですね。
「発表会の案内には件名に【発表会】などと付けてほしい。差出人で分かるのに、件名が何でも社名から始まり、リリースと発表会の案内の違いが分かりづらいです」。このコメントにはある有名企業の名前が書いてあったのですが、さすがに削除しました。心当たりのある広報担当者はぜひ見直しを。
次回は今回のアンケートの1位だった「件名に興味のある文言」について掘り下げます。タイトルを含め、78文字の中に入れておきたい要素、入れないほうがいい要素をより具体的に見ていきます。

『もし幕末に広報がいたら 「大政奉還」のプレスリリース書いてみた』
広報・PR関係者に大反響! 重版4刷
連載「風雲! 広報の日常と非日常」でおなじみの現役広報パーソン・鈴木正義氏による初の著書。広報・PR関係者を中心にSNSでも大きな話題に!「プレスリリース」を武器に誰もが知る日本の歴史的大事件を報道発表するとこうなった! 情報を適切に発信・拡散する広報テクニックが楽しく学べるのはもちろん、日本史の新しい側面にも光を当てた抱腹絶倒の42エピソード。監修者には歴史コメンテーターで東進ハイスクールのカリスマ日本史講師として知られる金谷俊一郎氏を迎え、単なるフィクションに終わらせない歴史本としても説得力のある内容で構成しました。
あの時代にこんなスゴ腕の広報がいたら、きっと日本の歴史は変わっていたに違いない……。
■ Amazonで購入する