テレビ取材は注目度が高くなることが多いので、広報としても腕の見せどころです。それなりのスタッフ数と高価な機材を動かしますから、相手は「狙った絵」が撮れるかどうか事前に探りを入れてきます。そこですり合わせがうまくいけばいいですが、何の前触れもなくフラっと現れたら冷や汗をかくことも。

欲しい絵が決まっているテレビの取材を止めるのは非常に難しい ※写真はイメージです(写真:daykung/Shutterstock.com)
欲しい絵が決まっているテレビの取材を止めるのは非常に難しい ※写真はイメージです(写真:daykung/Shutterstock.com)

カメラマンの怒号にドキっ!

 「おい、前のカメラ、邪魔だよ!」

 私たちが暮らす日常で、ここまでストレートに怒鳴られている人に遭遇することはまずないかと思います。しかしちょっと混乱した取材現場では、テレビとそれ以外の記者の間では、たまにこうしたエキサイトしたやり取りになってしまうことがあります。

 テレビ取材の入った発表会、一見すると華やかな場で登壇する幹部もホクホク、今晩のニュースが楽しみ……というのは正直なところです。ところがこれをウェブや紙媒体の記者の視点で見ると、カメラクルーがいつまでもブツ撮りのコーナーを占拠しているし、場合によっては別の場所に新製品を持っていってしまう、ちょっと困った存在であったりします。

 一方、テレビ取材陣からすると、局に戻って編集の段階でアレを撮っていません、コレのアングルは押さえていませんでした、となるとかなり気まずいことになります。それだけは避けたいので、後で取捨選択できるよう念入りに物撮りをしておこうとなります。

 また、会見後の「囲み取材」などでは、どうしても大型機材を使うテレビは一番後ろになってしまいます。そのカメラの前に割り込んで「見切れてしまう(関係ない裏方の人物がテレビカメラに写ってしまうこと)」と、まるまるその部分の映像が使えなくなってしまいますから、それがたび重なると冒頭のような怒号になるわけです。

「テレビは別枠扱い」が最良の方法

 一口にテレビといってもいろいろな取材チームがいます。報道局経済部、報道とは別に独自に取材班を出してくる大型ニュース番組、生活情報番組内で芸能ニュースを専門に追う「芸能班」というチームなど、それぞれ違った狙いで撮影に来ます。必ずしも我々広報が撮ってほしいシナリオで撮ってくれるとは限らないのです。

 特に芸能人の登場する発表会に来たチームが芸能班の場合、新製品にはあまり興味がなく、むしろタレントさんの登場はいつなのか、囲み取材はできるのかということが最優先です。正直製品発表をする広報からすると、「気持ちは分かりますが、もっと新製品を撮影してくださいよ……」と言いたくなることがこの方たちにとっては本業だったりしますので、いつまでもタレントの出番を伝えなければ、怒り出す人も出るわけです。

 結局こうしたトラブルを避ける最良の方法は「テレビを別枠扱いする」ということになります。例えば会場オープンより前の時間帯にテレビカメラだけ先に会場へ入れて、存分にブツ撮りをしてもらいます。「だったら俺たちも入れてくれ!」というクレームが他の記者からくるように思うかもしれませんが、混乱を回避したいのは誰もが同じなので、こうすることで結構丸く収まります。

 ただ動画コンテンツ全盛の昨今、海外の発表会などではウェブニュースでもムービーカメラを持ち込み、製品を独占して長々と撮影して、周囲の他の記者がイライラしている様子を見ることがあります。数が限られていたから可能だったテレビカメラの特別対応も、ムービーカメラの数が増えてくると近い将来さばき切れなくなるのではないかと、ちょっと不安です。

 しかし、実はテレビ取材対応で広報が難しいのはこうした現場の仕切りではなく、その前の電話でのやり取りなのです。

やっぱり、カメラは急に止まらない

 テレビ取材は記者、カメラ、技術の3人が最小チームで、高額な撮影機材を含めかなりのリソースが動くことになります。要するに無駄な取材をしている余裕はありません。実際に現場へ行ってから何が撮影できるかが分かるのでは、あまりにリスクが大きすぎます。そのため取材前からかなりしっかり「どういうニュースにするか」「そのためにこういう撮影をし、こういうコメントを撮ってこい」というプランをガッチリ固めてきます。ここがテキストと写真の記者と大きく異なる点です。

 取材プランを立てるため、広報にテレビの記者は事前に根掘り葉掘り聞いてきます。なにが発表されるのか、誰が登壇するのか、どういう「いい絵」が撮れるのか。このとき相手の番組の立場も考えて提案できる広報の「トーク力」が問われます。ここがある意味、テレビ取材に対する勝負どころといえます。できれば「パソコンを持った社員をラグビー選手にタックルさせましょうか?」というようなテレビで使えそうな映像を提案して、一緒に相手の「絵作り」まで参加できると、かなりこちらの想定した内容のニュースに仕上げることができます。

 怖いのはほとんど何の問い合わせもなく、ブラッと会見にテレビがやって来たときです。実際にはブラッときていることはなく、前述のとおり何らかのニュースのストーリーを決めて、ニュースの担当キャップや番組と握っているので、この段階から新製品の特徴の説明を始めても、撮影内容はもう変えられません。

 例えば新製品はデザインの良さをアピールしたかったとします。しかしテレビ番組としては、最近は若者がパソコン離れをしているので、それに対してメーカーが何らかの対策を打ち出してくる、あるいは打ち出してこなかった、というのがニュースの狙いだったとします。

記者:「社長、今回の製品の特徴は?」

社長:「デザインです」

記者:「……やはり若者をターゲットにしているということでしょうか」

社長:「いえ、すべての年齢層が対象です」

記者:「そうは言っても若者でしょう」

社長:なんだかしつこいな!)「いえ違います」

記者:なんでこっちの狙い通りのこと言わないんだろこの人、よーし)「では、若者のパソコン離れにはご関心がないということですか」

社長:オイ広報、なんでこんな質問になったんだ?)「いえ、えーとですね……」

 テレビニュースというのは対象が一般の幅広い層ということもあり、内容を平易にまとめること、普遍性のある社会的課題に話題を広げることなどが求められます。ストレートに自社の新製品を礼賛するような内容のニュースなどまずありませんから、相手の狙いもくみ取って、その中でどう自社のアピールを入れるかという着地点を提案する、くらいに考えたほうがよさそうです。

 「カメラは急に止まらない」のです。

この記事をいいね!する