マスコミの記者や編集者に自分の顔と名前を覚えてもらうのは、広報担当者にとって非常に大切です。しかし相手は数多くの広報や取材相手と日々顔を合わせています。自分を印象づけるにはどうすればいいのか。広報は記者から「ご指名」がもらえる日を待ちわびているのです。

「はぁ、はぁ……」と息を切らして記者のオフィスを訪問するのには理由があるのです (イラスト:KEIGO YASUDA/Shutterstock.com)
「はぁ、はぁ……」と息を切らして記者のオフィスを訪問するのには理由があるのです (イラスト:KEIGO YASUDA/Shutterstock.com)

(わざと)息を切らしていた姿が印象的?

 「はぁ、はぁって息を切らしながらオフィスに入ってくるのはエンちゃんくらいだったよ」――。先日、15年以上前から知っている記者さんにそんなことを言われました。

 「えー、そうでしたっけ。本当に息が上がっていたんだと思いますよー」と返したのですが、確かに少しオーバーにやっていたかもしれません。当時、その方のオフィスは雑居ビルの4階(多分)で、エレベーターもありませんでした。狭い階段をグルグル回りながら上りきるとオフィスにたどり着きます。東京・大手町の鎌倉橋交差点を中心に経済部の分室が散在している中で、その方のオフィスは鎌倉橋から一番遠かった。ですからそこを訪れるのはいつも最後でした。

 「歩き回ってヘトヘトなのに、エレベーターがないし……。地震が起きたら、絶対このビルは壊れるな。それにしても、歩いても歩いてもたどり着かない。これが終わったらお茶しよう」なんて思いながら、よく階段を上っていました。そうした“邪念”もあって、これ見よがしに「はぁ、はぁ」言っていたのかもしれません。この方法は良いとは思いませんが、おかげで記者さんの印象に残ったようで、顔を覚えていただき、長い付き合いが続いています。

 広報にとって、メディアの人に「顔」「名前」「担当」を覚えていただくのはファーストステップです。私は担当者の数も多い大企業の広報出身でしたから、名前を覚えてもらうのに結構苦労しました。

 特に新聞記者は定期的に異動があります。新任の記者は、10人とか20人もいる広報担当者とのあいさつを強いられます。記憶力に自信のない私はある時、記者はあのような簡単なあいさつで全員の名前を覚えられるのかと疑問を持ちました。そして実際に聞いてみました。

 私:「入れ替わり立ち代わりあいさつされて、全員の名前を覚えられるのですか」

 記者:「覚えられるわけがないでしょう。覚えているのは1人か2人だよ」

 人にもよると思いますが、私なら絶対覚えられません。その話を聞いて以来、記者とあいさつをするときは「私」を覚えていただくための工夫をしています。

・何度も自分の名前を言う
・商品の実物を持参して説明(基本お薦めの商品1つに絞る)
・自分の個人情報を話しながら相手にも同様の質問をする
・あいさつに来ていただいた直後、(他の誰よりも早く)オフィスに出向く

 以上のような単純なことですが、これが結構効果があります。

ある編集者との気まずい出来事

 大企業ならリリースを出せば簡単に記事になると思っていたら大間違い。意外とそうではありません。公平性を保つため短期間に同じ企業の記事(商品紹介など)ばかり書くわけにはいかない。そんな理由で選別されることも頻繁にあります。特にリリースが多い企業の場合、媒体によっては次の記事化まで一定の“空白期間”が必要なようです。

 広報パーソンとしては、担当している商品やサービスが取り上げてもらえるかどうかは社内競争です(こんなことを考えていたのは私だけかもしれませんが……)。例えば同じ企業が1週間に数件の発表を行ったとします。地味な商品の場合、急ぎの記事でもないので寝かされることもしばしば。もちろん記事にならないこともしょっちゅうです。多くの発表案件があり、なおかつ地味案件を記事化してもらうには、記者との関係性(質問がしやすい)や熱量(情報量が多い)がカギといえるでしょう。大企業の場合は社内競争になりますが、小さな規模の会社であれば他社との競争です。

 偉そうなことを言っても、私が全ての人に顔や名前を覚えていただいているわけではありません。数年前にこんなこともありました。ある地下鉄のホームでの出来事です。私はSNSでよくお見かけしていて、面識もある編集者の方にバッタリお会いしました。

 私:「遠藤です~。お久しぶりですぅ!」

 相手は困った顔をして、キョロキョロする。

 私:「以前、○○のときにごあいさつさせていただいたのですが」

 編集者:「あ、あ、えっと、お会いしたことありましたっけ。ごめんなさい……」

 気まずい沈黙が流れる。

 私:「あ、で、では失礼します……」

 考えてみたらごあいさつしたのは10年以上も前でした。こちらは普段からSNSでお見かけして親しみがあったので、向こうも自分のことを認識している気になっていたのです。本当に申し訳ないことをしてしまいました。一方的な思い込みでなれなれしくするのは、危険ですのでご注意ください。

記事を作る同志として見てもらえるように

 顔と名前を覚えていただいた次のステップは、指名を取ることです。世の中には指名制度を導入している業種がたくさんあります。私が利用しているのは美容院くらいですが、ネイルサロンや飲食業でもお気に入りのスタッフを指名してサービスを受けられるお店が存在します。広報は記者からいくら指名されても指名料など入りませんが、「ご指名」をいただけるようになると広報の仕事はがぜん面白くなります。

 「〇〇特集をしようと思っているけど、何かいいネタない?」とか、「このテーマで適当な人を知らない?」とか聞かれるようになります。広報という枠を超えて、記事を作る同志として見てもらえるように思える瞬間です(勝手にそう思っています)。広報冥利に尽きるとはこのことでしょう。当然、担当商品の売り込みのハードルも下がります。

 覚えていただき、指名してもらえるようになるまでには、凹むこともよくあります。しかしめげずにやることで、的確な広報コミュニケーションができるようになるのです。