ソニー「ウォークマン」の販売台数が米アップルの「iPod」を上回った――。2010年の1カ月間だけのことですが、当時これは“大事件”でした。そのインパクトを効果的にメディアに伝えられたのは、広報がマーケティング部門の担当と密にコンタクトを取り、最新のデータを得ていたからです。

勝った! この衝撃をすぐにメディアに伝えなければ ※画像はイメージ(写真:fizkes/Shutterstock.com)
勝った! この衝撃をすぐにメディアに伝えなければ ※画像はイメージ(写真:fizkes/Shutterstock.com)

「ウォークマン、iPodを逆転」、1カ月間ですが……

 ソニーの広報時代、2010年に入ってすぐの頃。アップルは02年8月から8年弱の間、携帯音楽プレーヤー市場でトップシェアを守り続けていました。そんな時期、マーケティングの担当者から驚くような話を聞かされ、こんなやり取りが。

 「遠藤さん、ウォークマンのシェアがいい感じなんです。台数シェアだけですが、アップルを抜きそうなんですよ」

 「えー、すごいことじゃないですか。それ、記者に売り込もうよ」

 「でも、高価格帯のモデルも金額も負けてますから、中途半端じゃないですか。安い商品が売れているだけとか、書かれませんかね。大丈夫ですか?」

 「全然いけるよ。とにかく、逐次情報ちょうだい」

 それからしばらく、そのマーケティング担当者と頻繁に連絡を取り合うようになりました。しかし春商戦は残念ながら僅差で逆転ならず。

 そして夏休み。再びマーケティング担当者からうれしい連絡が。

 「アップルが新商品を出すらしいですよ。発売直前のタイミングで、シェアを挽回できるかもしれません」

 ひとまず1週間だけトップを取りました。しかしその程度ではインパクトが弱い。まぐれだと言われても仕方がありません。せめて1カ月間、1位を取らないと意味がない。それからマーケティングの努力もあり、8月の集計が確定した瞬間、ついに「1カ月間1位」を達成しました。

 すぐに「ウォークマン、台数シェアで1位に返り咲きました」と日本経済新聞の記者に知らせしました。それが「ウォークマン、iPodを逆転 国内8年ぶり月間首位」(日本経済新聞:2010年9月2日付)という記事になりました。

 記事が掲載された翌日、アップルから新しい「iPod touch」が発表されました。ちまたではその情報で持ちきり。まさに間一髪、ギリギリセーフでした。その後、他のWebメディアなどがウォークマンとiPodを比較しながら携帯音楽プレーヤーの動向に関する記事を掲載するようになったことを考えると、日経新聞の記事はこの市場に少なからず影響を与えたのではないかと思います。

 ちなみにその“下克上”情報は、時期がたてば一般の方々も全員知り得る情報ではありました。それでも、もぎたての新鮮な情報は格段に価値が高い。最速のタイミングでメディアに知らせると、インパクトのある良い記事にしてもらえることがある。それを実感した経験でした。

マーケティング担当の情報は非常に有益

 別の例を挙げましょう。「初音ミク」は今でも大変人気のあるボーカロイドです。12年にソニーが『初音ミク生誕5周年記念モデル』を作ったときのことです。当時、担当者から初音ミクという名前を初めて聞き、そこから全く興味のなかった初音ミクについて勉強し、リリースを作ったのを今でもよく覚えています。調べると非常に人気が高いことを知り、次第にリリース作りが面白くなっていきました。

 売れるかどうか分からないな……と思いながら、11時にそのリリースを配信しました。するとネット上で話題になり、販売開始から約5時間半後には完売しました。すぐに担当者から「遠藤さん、売り切れましたよ。ありがとうございました」という連絡がありました。

 これはすごいと思い、予定にはなかったのですが「記事になるかもしれないから、急いで売り切れたことをメディアに“メール”しよう」と提案し、文面を考え、すぐに実行しました。さすがにリリースを仕上げている時間はないですし、翌日の発表では遅すぎます。

 狙いは的中し、デジタル系のWebメディアが即日記事にしてくれました。7年も前の話ですが、現在も使える手法だと思います。今ならTwitterなどのSNSを通じた発信を組み合わせるのもありでしょう。

 ウォークマンの件も初音ミクの件も、広報活動が成功した要因は、マーケティング担当が広報に協力的で、情報の入手が早かったことにあります。広報自体は情報を持っていないので、周りの人間の協力が不可欠です。そうした中、マーケティング部門からもたらされる数字などは、広報が威力を発揮するために大変重要な情報です。

 もちろん条件がそろわないと、そうそうホームランは打てません。それでもマーケティング担当の方々は広報活動もマーケティングの一環と捉え、広報が料理できなさそうだと思える情報も、どんどん広報側に伝えてほしいと思います。案外、うまく料理できるものですよ。