自社を少しでも好意的に取り上げてもらいたいのが広報というもの。しかしそうした思いは「もし悪く書かれでもしたら」という不安と背中合わせ。記事が世に出る前に、「原稿確認させてください」と言いたくなるのも無理はありません。実際、言った方もいるでしょう。その結果、メディア側の反応は……。

この部分、おかしくないか? ※画像はイメージ(写真:Andrey_Popov/Shutterstock.com)
この部分、おかしくないか? ※画像はイメージ(写真:Andrey_Popov/Shutterstock.com)

記事を見せる自由、見せない自由

 有名な大新聞からわが社の社長が取材を受けた。どんな内容になるのか。もしかすると悪く書かれているんじゃないか……。

 取材から記事が出来上がってくるまでの間のドキドキ感は、いつまでたっても慣れません。そこでつい言ってしまいたくなりますね。「原稿って事前に見させてもらえないんですか?」と。これって実際見せてもらえるのでしょうか。そのとき、マスコミ側はどう感じているのでしょうか。

 そもそもの話からします。

 「中正公平、わが国民生活の基礎たる経済の平和的民主的発展を期す」

 これは(私も今回初めて調べて知ったのですが)日本経済新聞社の社是です。このように報道機関としてどこにも偏らずに記事を書くことは、突き詰めると憲法で保障されている表現の自由によって立つ大方針です。と、ここまでいきり立つ記者もあまりいないと思いますが、基本的に「記事は事前に見せてはもらえません」。報道機関が何を書くかについての独立性を「編集権」といいます。

 ちょっと堅い内容から入ってしまいましたが、我々メーカーの広報には「原稿チェックお願いしまーす」というメールが主に雑誌の編集部から来て、その内容を確認する作業が日常的にあります。

 あれ、なんだかいきなりさっきの話と矛盾するじゃないか、と思われたかもしれませんね。しかし雑誌の新製品コーナーなどでは慣例として、例えば製品のスペックが違っていたとか、写真とキャプションが違っていたとか、そういうトラブルを避けるために事実確認をすることがあります。政治部の記者が政治家に記事を事前に見せるとなると話は全く違ってきますが、こうした編集側のしかるべき目的のために「記事を見せる自由」というのもまた「見せない自由」と等価の編集権の範囲といえます。

 ただしチェックに出すからといって「好きなように書き換えてください」というわけではありません。ここは広報側が結構勘違いしてしまいそうな点なので、注意が必要です。

 つまり「赤い」パソコンを「青い」と書いてありますよという間違いの指摘は受けてもらえますが、例えば「何でウチの新製品お薦め度2位なんですか」というような指摘は、もはや編集権への介入ということになり、編集部としては指摘があったからといって「ハイハイ」と変えられるものではありません。ここの交渉が広報の業務だと思っている人もいるようですが、少し手遅れな感じがします。

 今日もこの広い空の下のどこかで、真っ赤に直しを入れられたPDFを見ながら、ため息をついている編集部の方がいることでしょう。

「この前はチェックできた」、それはタイアップです

 「原稿見させてください」「書き直してください」と言う広報パーソンがなぜ存在し続けるかといいますと、1つはタイアップ広告(記事体広告)の存在があると思います。

 タイアップ記事は、クライアントとしてメーカー側の宣伝・広告部門が媒体の広告営業部門を通して依頼する記事で、お金を払って「こういう記事を書いてください」「こういうインタビューをしてください」と依頼をするものです。当然記事のチェックも途中で入り、指摘内容は基本的に反映されます。さすがに現場の広告や広報でこの違いが分からない人はいないと思いますが、タイアップ記事に登場した商品企画担当者や役員からすると、「この前の記事は事前にチェックできたじゃないか」ということになって、ああだこうだとややこしい話になるのではないかと思います。

 従ってどうしても自身の言いたいことを貫きたいにもかかわらず、なかなか編集部が興味を持ってくれないのであれば、いっそ記事体広告を出すのも手だと思います。ただし、昨今は記事体広告でも必ず【PR】や【広告企画】という表記をすることになっているので、読み手からすると、本当にその新聞なり雑誌なりの中立な編集の視点で記事化されたものではない、ということは分かります。それでも何十万、何百万という部数を発行するメディアに自分たちの主張がそのまま掲載される広告は、決して悪い選択ではないでしょう(広告といえども表現のチェックはあります)。

「広報にやべー奴がいるぞ」と思われないために

 では記事チェックをしたくなるような、きわどいインタビューや売れ行きのかかった新商品のレビュー記事などに、広報はどう対処したらよいでしょうか。

 「広報とは、一局の碁なりけり」

 この名言の主は誰かというと、私です。すみません、今考えました。いえ、どこかから借用してきました。

 こう打てばこう返す、それを見越してこう打てばこう……と、何手も先を読むのが囲碁だとすると、広報もこの質問をしているのだから、こう答えてほしいのだろう、そう答えるとこう書かれるだろう、という予測が必要です。その予測精度の高い広報がいわゆる「腕のいい広報」といわれる人たちで、書かれたくないところに話をもっていかない、書いてほしいところを公平に見てもらえるよう取材記者にさりげなくヒントを送ります。こういった作業ができると、「原稿チェックさせてください」という段階でギクシャクしたやり取りをしなくて済むのだと思います。私はその域に程遠いので、どうすればそうなれるのかぜひ知りたいのですが、実際にそういう「広報の達人」を何人か知っています。

 ということで、コラム冒頭の疑問に戻ります。

 「原稿確認させてください」と編集部に言うと何が起きるのか。

 何も起きません。そして「この会社の広報にやべー奴がいるぞ」というログを残すことになります。あまりにひどいと、マスコミ関係者のSNSで名前や前後関係を伏せてボヤキの投稿をされることもあります。その媒体との長期的な関係も考え、ここは慎重にいきたいものです。