製品やサービスの開発者にとって、広報パーソンはメディアに対するいわば“代弁者”。しかし当事者ではない故、開発にかける熱い思いを伝えきるのは難しいもの。メディアに売り込むため、なんとか開発者を自分に憑依(ひょうい)させられないものか。それには社内での徹底的な情報収集につきます。

開発者が私に「乗り移る」まで、徹底的にヒアリングを繰り返す ※画像はイメージ(写真:xiangtao/PIXTA)
開発者が私に「乗り移る」まで、徹底的にヒアリングを繰り返す ※画像はイメージ(写真:xiangtao/PIXTA)

「広報として動く」とは

 「遠藤さんのヒアリングはしつこくて、追っかけ回されたから当時は鬱陶しかった」とか、「プレゼン資料を渡したら、とりあえずササッとリリースを書いてくれれば良かったのに……」とか、ある方からソニー広報時代の私について思っていたことを聞かされました。同じような話を数人から言われていますし、元上司にも「お前はしつこい」とよく言われ続けました。

 私は納得できないとプレスリリースも書けないし、動きたくもない面倒なタイプです。現在は多少融通を利かせられるようになりましたが、基本的に頭に浮かんだ疑問符は、全部クリアにするようにしています。

 「広報として動くってなんだ?」って話ですが、私にしてみれば巫女ではありませんが、“担当者を憑依(※イメージです)させて”メディアに売り込むのが、広報として動くです。

 広報のイベントや勉強会などでは、プレスリリースは「記者が記事を書くための資料」と話しています。ですが、プレスリリースをまとめる仕事が「広報として動く」ために最も重要で、それが「事業担当者を憑依させるための重要なプロセス」なのです。

 広報は製品やサービスの当事者ではないのに、代弁しなければなりません。熱量に関しては当事者より確実に低くなります。ですから、開発者が持つ熱量を可能な限り再現するため、いつも憑依させようと思っています。それには担当者の思いや置かれている環境も含め、共感できる水準にまでに持っていく必要があります。つまり「自分ごとにして話せるようにする」わけです。

知ったかぶりをしないこと

 プレスリリースなどを書く前には、技術者やその道のプロに事前ヒアリングします。相手の仕事の専門性が高いほど、話に多くの専門用語が登場します。当時負けず嫌いだった私は、「知らない」「分からない」が言えずに分かったふりをして、「なるほど」「フムフム」みたいな相づちをしてしまうことが頻繁にありました。なんとなくしか理解していないので、自席に戻ってプレスリリースを書こうとしても、筆が進むわけがありません。そもそも理解していると勘違いした私は、頭がおかしくなりそうになりながら、オフィスをぐるぐる歩き回ったり人に話しかけたりして、プレスリリースを書いていました。

 筆が進まないことを嘆いていると、新聞記者出身の広報マンでソニー時代の同僚だったTTさんに「エンドウ、またウニ(頭の中がぐちゃぐちゃ)ってるのか~」と、言われたものです(関連記事「辛辣な言葉で傷だらけ だから広報は『多少厚かましい人』がいい」)。

 ニヤニヤしながら「どれどれ、何を発表するんだ?」と、おもむろに質疑が始まります。リリースがまとめられないくらいですから、案の定答えられずボロボロになって終了。すると理解していなかった箇所が判明するので、再度担当者に会いに行ったり、電話をしたりして理解を深める。当初はそんなことを繰り返しながら、憑依の準備をしたものです。さすがに数をこなすと「ウニる」時間がもったいないので、1回のヒアリングでリリースの初稿は書けるようになりました。

 1回のヒアリングで終わらせる質問のコツは、「知ったかぶりをしないこと」。具体的には以下の2つです。

・1%でも不安が残ると思った内容は、「知らない」と言って質問
・人に説明できないと思ったことは、「分からない」と言って質問

 その分野において自分は素人であることを認め、素直に聞くのが肝心。意外とこれが難しいというか、人に「分からない」と言うのは恥ずかしいものです。

企業内での情報収集の良しあしで差が付く

 恥ずかしさを払しょくするためには、当たり前ですが事前に勉強してからヒアリングに挑むことです。しかし最初の30分は予習してきたことをひけらかさず、聞くことに徹したほうがいいでしょう。「オレ知ってる」とか「私分かってる」というのをヒアリングで挟むと、相手は話しづらいものです。

 ヒアリングの中盤で質問をするときに「〇〇にこう書いてあったのですが……」とか「〇〇と聞いたのですが……」いう枕詞(まくらことば)を付けて質問をする。全く何も準備していない人に嫌悪感を持つ方もいるので、必要に応じて引き出しから披露すると、質問に快く対応してくださるものです。

 それでも説明を聞いて難しかった場合、私はよく「ご両親やお子さんに説明をしていると想定して話してください」とか、「素人の遠藤でも分かるように説明してください」とお願いします。そうすると大抵、「ハードル高いなぁぁ」とぼやきながら、「ざっくり言うと、〇〇ってことです」と説明してくれます。このざっくりとした説明で、全体を捉えられます。そこから細かな質問に落とし込んでいくと、ヒアリングはぐっと進めやすくなります。

 今回は担当者に話してもらうためのエッセンスをお伝えしました。ヒアリングこそが広報にとって“情報の源泉”です。企業広報として一番大切にしなければならないのは、社内での情報収集です。短い時間で終わらせるのがベストですが、分からないことは何度もヒアリングして、情報の質を高めましょう。最終的にはそれが“競合との差”となって表れるのです。