記者の元には日々大量のプレスリリースが送られてきます。忙しくて目を通さないものも少なくありません。しかし広報の仕事次第で読まれる確率がぐっと上がります。それには信頼関係が不可欠。「プレスリリースを送る」という仕事1つとっても、メディアから選ばれる広報は、地味な作業を惜しみません。

あなたが送るプレスリリースは、相手に“届いて”いますか? ※画像はイメージです(写真:macgyverhh / Shutterstock.com)
あなたが送るプレスリリースは、相手に“届いて”いますか? ※画像はイメージです(写真:macgyverhh / Shutterstock.com)

広報は相手の興味の度合いを見抜く“目利き”

 日本語や英語を話したり書いたりできれば、特別な資格がなくても誰でも広報の仕事はできます。広報に関する本を数冊読めば、「誰にでもできる仕事」だと思う方も多いでしょう。実は私自身もその1人です。しかし最近は「誰にでもできる」ハードルの低い仕事だからこそ、とても難しいのではないかと感じています。

 例えば広報にはプレスリリースをマスコミに送付する業務があります。方法はいくつもありますが、担当者の業務が「プレスリリースを送る」だった場合、その仕事はかなり簡単に終わらせられます。

 ご存じの通り現在はプレスリリースの一斉配信システムがあるので、それを使えば数百のマスコミに一気に送信できます。リリースをそのまま転載する媒体もたくさんあるので、それを“実績”としても使えます(本当に実績といえるかは微妙ですが……)。

 一斉配信サービスはとても便利なサービスなので、私も使っています。ただこうしたサービスが増えたこともあり、大手媒体の編集担当の方々のメールボックスには、毎日、何百本ものプレスリリースが届いているのが現状です。

 毎日送られてくるプレスリリースが多すぎて、目を通しきれないという話をよく耳にします。フィルタリングをかけ、ある差出人から来たメールはそのままゴミ箱に移動するように設定している方もいます。頑張ってプレスリリースを書いても、読んでいただけないこともあることを知っておかなければなりません。

 それでも、編集者や記者に「読まれる」プレスリリースは確実に存在します。膨大な数の中から選ばれるプレスリリースは、何が違うのでしょうか。

 多くの記者が、「タイトル(件名)」と「差出人」でメールを開くかどうかを決めるといいます。メール受信箱のリストに並ぶのは、タイトルと差出人ぐらいしかないのですから当然です。中でもメールのタイトルが最も重要です。それほどインパクトがないプレスリリースだとしても、差出人次第で読まれることがあります。差出人が企業名ということもありますが、媒体やライターとの関係が築けている場合は、広報担当者の名前で送ったほうが効果的です。

 メールのタイトルや本文もひと工夫しましょう。私はメール用の“圧縮版タイトル”を毎回作っています。そこにはキャッチーかつマスコミの方にとって必要な情報を20文字以内に収めます。メール本文はマスコミの方に面と向かったときに説明する内容を、口語調でできるだけ簡潔に書くようにしています。文章が収まりきらないこともありますが、パソコンで本文を読んだ時にスクロールしないで済む程度を目安にしています。こうした工夫を良いと言って下さる方もいらっしゃいますし、少し問い合わせが増えたような気がします。

 広報担当者が記者や編集者に個別にリリースを送る場合は、広報は“目利き”であることを忘れないでください。相手が興味のある内容かどうか分からない案件の場合は、「ご参考」として送ります。どうしても読んでいただきたい、もしくは興味を持つはずだと自信がある場合は、その旨を伝えたらよいと思います。ここの相手との“間合い”というか“カスタマイズ”は、広報の腕が試されるところです。何でもかんでも同じトーンで送っては、狼少年になりかねないので気をつけてください。

広報として頭1つ出るための“飛び道具”はない

 業界でもよく話題に上る、「この人」といわれるような広報から来た連絡は、マスコミの皆さんも目を通すと思います。その選ばれし広報の方々の共通点は、マスコミとのやり取りで、やや「非効率なコミュニケーション」をしているように見えることがあります。例えばメールだけで済ませられるところを、わざわざ電話したり、直接会いに行ったり、やたら反応が速い割に丁寧でまめだったり……。中長期的に信頼関係を育てていくイメージで動かれているように思えます。こういう広報は、押しどころと引きどころの見極めも見事です。

 冒頭で書いた通り、広報の仕事は効率的にこなそうと思えば色々なツールを駆使して手間を減らせます。いいツールは活用すべきですが、人間相手の仕事なので一律なコミュニケーションだけでは、他の広報に差を付けることはできません。信頼を勝ち取るための作業はとても地味で、社内的にはやってもやらなくても大勢に影響がないものがほとんどです。

 広報の仕事は、知識として得ること自体はあまり役に立ちません。「やり方は知っているから、その時が来たらやる」は意味がないと思ってください。最低限、広報としてやるべき仕事にプラスして、「やったほうがベターなこと」をどれだけ実行するかが、メディア側からの信頼を得られるかどうかの分かれ目となります。例えば、ハードルが低いものなら下の2つ。

・記事を書いていただいたら、いち早くお礼のメールを入れる
・記事をしっかり読んで感想を伝える

 こんな簡単なことから始めればいいでしょう。明日に……と先延ばしせず、できる限り早い段階で連絡することが重要です。返信が来ないこともありますが、気にせず送りましょう。

 尊敬する広報のプロフェッショナルの方々は、他の人から見ると手間が掛かるから割愛したいと思えるようなちょっとしたことを、日々積み重ねています。頭1つ出るためには“飛び道具”はなく、こうした地道な努力しかないのかもしれません。人知れずベターだと思えることを実行し続けることは、誰もができるわけではありません。

 今回は「こんなに偉そうなことを書いてよいのか……」と自問自答しながら書きました。私もまだまだ足りないことだらけなので、そういう方々を目標にしていきたいと思っています。

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あの時代にこんなスゴ腕の広報がいたら、きっと日本の歴史は変わっていたに違いない……。
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