なんだこの記事は。話したことと趣旨が違うじゃないか――。良かれと思って受けたメディア取材。ところが書かれた内容が取材を受けた担当者の意に沿わず、トラブルに発展するケースも。そうならないよう、広報は媒体の過去記事で予習が必要。その読み方のコツをお教えしましょう。
とほほ……媒体への「申し入れ」
広報担当者なら、メディアから取材や問い合わせを受けた記事が掲載される日、ドキドキしているに違いありません。出社するや否や取材を受けてもらった担当者から、「俺が言いたかったことが書かれてない」とか、「思ったような記事じゃなかった(かなり抽象的ですが、言われがちなフレーズ)」なんていう内線電話やメールにへこむこともあるでしょう(私はあります)。
こうした萎えるような出来事は、新聞やビジネス系の媒体だけでなく、一般誌などでの商品開発インタビューでも起こり得ます。
経験を積んだ今なら「だから止めたじゃないですか。調子に乗ってしゃべり過ぎなんですよ」と言って上手に収められるかもしれません。しかし若い頃は、記者側と取材を受ける側の「期待と現実」のギャップが社内で大事件となり、「媒体への申し入れ」という最悪の事態に発展したこともあります。これが取材記事の怖いところです。
そういう“事件”の責任は、大抵は広報が背負うことになるので、社内で身を守るためにも、広報は防御策を講じておくべきです。
経験が浅かった頃、納得がいかない記事に怒って「私の担当商品をこんなにひどく書くなんて信じられない」と、編集部に抗議の電話をしたこともあります。誤報でもなく、客観的事実に基づいて書かれた記事でしたので、文句を言う筋合いではなかったのに……。ただ、これは担当編集者やライターさんの懐が深かったから許された話です。決してまねしないでください。
本題に戻りますが、取材された側が感じる期待と現実とのギャップを埋めるため、広報にできることがあります。
「事実」と「推測」に切り分けて記事を読む
記者から送られてきた取材依頼書をそのまま取材対象者に流すだけなら、広報は必要ありません。間に1人入るため、対応のスピードが落ちるだけです。広報のプロとしては、過去の記事傾向から想定される記事イメージとそれに伴う質問項目をインプットしておくのが望ましいでしょう。ちなみに媒体によっては、取材依頼書にある質問は“ダミー”で、メインの質問を書いていないこともよくあります。その辺りの媒体特性についても、十分気を付けなくてはなりません。
例えば経済誌やビジネス誌の特集記事などは、ある程度記者がストーリーを考えてから取材に来られます。多くの企業がそうした媒体の取材を受けていることは、過去記事に目を通せば分かります。そのストーリーの中で、それぞれの“役者”に言わせたい台詞(せりふ)があるのだと思います。取材を受ける会社は、自社がどの役回りなのか、そしてどういう台詞を求められているのか、広報は熟考しなくてはなりません。
そこを怠り、「○○誌から取材依頼があった!」と浮かれてほいほい取材を受けると、「俺が言いたかったことが書かれてない」とか、「思ったような記事じゃなかった」という事態を引き起こす可能性があるので、ご注意ください。
媒体特性をつかみ、自社の台詞を検討するには、記事の“読み方”が大切です。それは記事中の文章を「事実」と「記者や媒体の考えや推測」に切り分けて読むことです。記事の主語の有無と、文章の締めの部分を見れば大体分かります。何度も繰り返して“癖”にしてしまえば、無意識にできるようになるでしょう。
事実(取材に基づく)は、文章の最後を『~した。』『~だ。』『~する。』『~なっている。』という表現で締めている場合が一般的です。事実を語った文章は、文中の主語と述語が明確に示されているので、分かりやすいのも特徴です。
一方、記者や媒体側の考えや推測について書かれた文章は、締めに『~注目したい。』『~期待したい。』『~だろう。』『~といえよう。』『~今後の対応が求められている。』という表現がよく見受けられます。この場合、主語が曖昧な場合がほとんどです。
ちなみに記事中で「事実」として発信されている情報は、「その媒体が事実だと考えて出している」情報のことです。その中で、媒体にとっても企業にとっても間違いなく事実といえる情報が「客観的事実」です。「客観的事実」は数字や個人の発言、いつどこで誰が何を行ったかという事象くらいです。取材対応者のコメントは信頼度の高い「客観的事実」として扱われます。
広報を担当していない企業の記事を読むとき、一つ一つの文章をタテ・ヨコ・ナナメから観察して、どこから見ても「客観的事実」である情報を見つけ出すのは楽しい作業です。何より広報のスキルアップに大変役立ちます。
プレスリリースと記事との差分を読み解く
こうした読み方は、取材対応の情報インプット用としてだけでなく、会社のプレスリリースを基に書かれた記事を読み解く場合にも使えます。会社が公式に出した「客観的事実」に対し、各媒体がどのような“味付け”をしているのか、媒体側の独自の意見が加えられているのかなど、プレスリリースとの差分から媒体や書き手の方向性を把握できます。
広報担当者は媒体概要や特集の方向性に加えて、「事実(客観的事実を含む)」が多めの記事を書いている媒体なのか、「記者や媒体の考えや推測」が多めの記事を書く記者なのか、などを取材対象者に伝えておくといいでしょう。
すべての記事やニュースの情報を、客観的事実と推測や意見に分けるのは至難の業です。しかし、少なくとも自分が働く業界のニュースは、そうした視点を持って読んでおくと、どのような取材であっても、記事に対する「期待と現実とのギャップ」を最小限に抑えられると思います。