タレントや社長が登場する製品発表会を仕切り、テレビからの取材にも対応。外資系企業なら日本から記者を引き連れ、海外での発表会なんてこともある広報の仕事。憧れる方も多いでしょう。夢を打ち砕くようで申し訳ありませんが現実を知ることも大切です。今回は地味な仕事の裏側の一端を紹介します。
これが海外出張の現実です……
以前、ガッキー出演の『空飛ぶ広報室』(TBS)というドラマをやっていましたね。“ガッキー”こと新垣結衣さんは、人気タレントを輩出している新潮社のローティーン向けファッション誌『nicola(ニコラ)』のカリスマモデルとして人気を得て、その後すてきな女優さんへと成長されました。まあガッキーの説明はいいのですが、白状しますと実はこのドラマを見ていません。しかし、ガッキー(ドラマではテレビ局のディレクター役)のあの爽やかさ+広報室というのが、もしかして世間が抱く広報という仕事の印象なのではないでしょうか。
というのも、「広報、私もやりたいんです~」という方に、1年に何人か必ず遭遇するからです。その中には情報に対するセンスがあり、対人スキルも高く本当に向いていそうな人もいます。しかし結構な割合で、広報という職場に華やかで甘美な夢を抱いている方がいるようです。世の広報職を代表してコメントさせていただきます。
いえいえ、とっても泥くさい仕事です。
私は外資系企業の広報を何社か経験していますが、海外の展示会での発表に合わせて現地に行くことがあります。華やかな印象を持たれるのは、たぶんこういうのがいけないのだと思うのですが、実態は以下の通りです。
10数時間エコノミークラスでほとんど一睡もできないまま現地入りし、すぐにホテルに入ってプレスリリースや新製品のスペック表、広報画像データなどの準備をします。その間に現地取材するマスコミの方に連絡もします。冷房の効きすぎるホテルの部屋から一歩も出ることなく、冷え切ったサンドイッチをかじりながら黙々とこれらの作業をこなし、睡魔に襲われうとうとしているところに日本国内の関係部門からの電話でたたき起こされ、ほぼ間違いなく徹夜のまま発表会に突入します。
なんとか発表会が終わると、今度はそこから問い合わせの電話が携帯にバンバン入ることになります(このあたりで資料に間違いがあったことが発覚し、へこみます)。ここまで成田を出てから時差のあるなか、ほぼ不眠不休で、辛うじて一休み入れられたかと思うと今度はリポートの催促……というのが私にとっての広報の海外出張です。
テレビの取材に広報が答えるべきか
もう一つ、広報に華があると誤解されがちなのがテレビ取材でしょう。確かに場合によっては、撮影のお約束事(編集点といわれる“間”を作ってしゃべるなど)を心得た広報担当が、カメラの前に立ってコメントするのが正解のときもあります。しかし、個人的には広報がカメラの前に立つのはあまり好ましいとは思っていません。
取材する側からすると、広報のコメントはどうしても会社としてあるべき“理想のコメント”になるので、製品を開発した技術者やGOサインを出した経営者の生の声ではなくなります。なるべく生々しいものを使いたいという取材側のニーズを考えると、少々しゃべりが不慣れでテレビ映えが今ひとつでも、製品担当者に直接カメラの前に立ってもらうことが「良い取材」になります。
相撲のヒーローインタビューなどが良い例でしょう。あの、ふうふう肩で息をして、何を言っているのかよく分からない力士のコメントだから良いのであって、広報がすらすらと流れるようにコメントをしてもちっとも面白くありませんね。
社員のテレビ映えよりも広報がもっと真剣に取り組むべきは、取材設定までの準備の段階です。特にこちらから取材を打診するのは、かなり地味でかつしんどい作業です。
朝の情報番組や流行のトレンドを作りだすファッション誌などで新商品が紹介されるのは、広報であれば誰もが目指す露出ではないかと思います。しかし当然売り込みも容易ではありません。昨今はPRエージェンシーにこうした売り込みを依頼する会社もありますが、広報の社員自らが売り込むことも大切です。
気まずい経験を重ね、大切なスキルが身につく
まず売り込む前に、その媒体を読者・視聴者としてしっかり見ることが大事です。そもそも自社媒体を読んでもいない人から「掲載してください」などと言われても、編集者からするともう少し勉強してきてください、ということになりますので。そのうえで編集部になんとかコンタクトします。さらっと「コンタクトします」と言いましたが、ここも知名度のある大企業とベンチャーでは難易度が異なります。
広報:「えー、これこれの新製品について一度説明いたしたいのですが」
編集者:「はー、では資料を送ってくだされば拝見しますので(お断りムード)」
広報:「やはりこうした商品のご紹介は難しいのでしょうか」
編集者:「うちは10代の女性読者が多いので、紹介するのは彼女たちのお小遣いで手の届く範囲のものなんです。後ははやっていたり、雑誌の雰囲気に合っていたりするものですね。真面目な“機械モノ”とかは雑誌の雰囲気に合わないんです」
広報:「そ、そうですか。ですねー、ですよねー、失礼しました(気まずい感じで電話を終わる)」
こんな感じの電話を5件も掛けようものなら、自分の考えがいかに安易であったかを思い知らされ、かなり気持ちは沈んでゆきます。最終的には相手と話すのが怖くなって、電話の受話器が上げられなくなることもあります。また断られるのではないか、と。
で、実際に断られます。ただこうして気まずさを味わうと同時に、誌面を読んだだけでは分からないいろいろな情報が自分の手元に残ります。雑誌が今盛り上げようとしているテーマ、編集者の関心(仕事の余裕)、あるいは編集会議、取材、撮影、校正、印刷といったスケジュールを把握するだけでも結構役に立ちます。いうまでもなく、こうした情報は広報としてのスキルアップにつながるわけで、社内からも頼りにされ、メディアからも「この人は分かっている」という評価を得られるようになります。地味ですがこういうスキルこそが広報の「華」なのではないかと思います。