※日経トレンディ 2019年6月号の記事を再構成
19年上半期のヒット商品に加え、令和ヒットをいち早く予測する本特集。「失われた30年」とも言われた平成だが、その間に数多くのヒット商品が生まれたのも事実。平成を引き継ぎ、令和はどんな時代になるのか。1回目では、これからヒットしそうな商品やサービス、有識者の声などから、6つのキーワードで予測した。
日本の経済力が相対的に低下し、「失われた30年」とも揶揄された平成。だがこの間に、数多くのヒット商品が生まれたのもまた事実だ。
カセットテープ、ブラウン管テレビ、電話ボックス……。平成元年といえば、まだまだこれらが現役だった時代。僅か30年の間に、インターネットが勃興し、それが携帯電話と結び付き、スマートフォンへと昇華した。ハイブリッドカーが街にあふれ、ひいきのJリーグのチームを応援、誰もがファストファッションをまとう。これらもすべて昭和には無かった光景だ。こんな平成30年を誰が予想できただろうか。
これらを受けて、令和は、どんな時代になるのか。これからヒットしそうな商品やサービス、有識者の声などから、6つのキーワードで予測した。
役に立たない30万円のロボット
AI(人工知能)の話題が絶え間無く取り沙汰され、ペッパーなどのロボットも登場した平成末期。この流れは令和に入っても確実に続き、私たちの生活にも急激なスピードで浸透してくる。「令和は、AIと人が新たな価値を共創する時代になる」と、オープンミールズの榊良祐ファウンダーはみる。
ただ、AIとの共存共栄には条件がある。進化し続けるデジタルだからこそ、人々に受け入れられるためには、無機質のままではない「温もり」が必要。ソニー「aibo」のヒットが記憶に新しいが、さらにその流れを加速しそうなロボットが、10月に一般発売されるGLOOVE XのLOVOTだ。
「テクノロジーは生活を豊かにし、様々な効率化を進めました。でも、人が幸せになったかと問われると、イエスと言える人は実はそんなに多くないのでは、と思います」。GLOOVE X代表の林要氏は、ウェブサイトで開発の理由をこう説明する。このギャップを埋めるものが「役に立たないが、愛情を注げるロボット」になるという。
価格は驚きの約30万円。この商品がメガヒットするかというと、そうは思わない。ただ、今後のデジタルと人間の関係を占う試金石になるはずだ。
変わりつつあるのは人とデジタルの関係だけではない。平成で大きく揺れ動いたのは、「人と人との関係」もまたしかりだった。ここから浮かび上がるのは、2つのキーワードになる。
日本の映画史の中で、興行収入が250億円を超えた作品は僅か4本。このうちの2本が、2014年の『アナと雪の女王』と16年の『君の名は。』だ。どちらも従来の映画にはなかったヒットの発火点があった。
『アナ雪』で象徴的だったのは、「みんなで映画館で歌う」シング・アロング上映。『君の名は。』のヒットの要因として挙げられたのは、誰かに作品の素晴らしさを伝えたい、というリツイートの嵐。どちらも、人と人との緩やかな関係性で成り立つものだった。
LINEで大概のコミュニケーションが成り立つようになった平成。他人にあまり干渉されたくない、でも人と全くつながっていないのは寂しい。この絶妙な距離感を埋め、「心地よいつながり」をもたらしてくれたのが、これら2本の作品だった。
令和元年は、これらダブルミリオンの“後継”とも言うべき2作品が競演を果たす。興行収入も気になるが、「どんなヒットの発火点を見せてくれるのか」に注目するのも面白いだろう。
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