「コンセプトを言葉にするのが難しいから番組にしているんです」。東京をユニークな視点と斬新な手法で描いてきたドキュメンタリー「NONFIX『東京シリーズ』」。番組内で度々登場するサブタイトルのようなキーワード「わたしの知らないワタシの街」の意味とは?

人の心を動かすアイデアを生み出し、効果的に伝えるには? 現役テレビ制作者の技術論に迫る本連載。聞き手はNHK『ブレイブ 勇敢なる者』シリーズなどを企画・制作するNHKエデュケーショナルの佐々木健一氏。今回のゲストは、フジテレビ『ザ・ノンフィクション』のチーフプロデューサーを務める西村陽次郎氏。これまでに手がけた番組から、こだわりの仕事論に迫る(全4回の第3回)。

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佐々木 健一氏(上)
1977年生まれ。早稲田大学卒業後、NHKエデュケーショナル入社。『ブレイブ 勇敢なる者』シリーズ、『ボクの自学ノート』など特集番組を手掛け、ギャラクシー賞や放送文化基金賞、ATP賞など受賞多数。著書に『辞書になった男』(文芸春秋/日本エッセイスト・クラブ賞)、『神は背番号に宿る』(新潮社/ミズノスポーツライター賞優秀賞)、『雪ぐ人』(NHK出版)がある。新著は『「面白い」のつくりかた』(新潮新書)。

西村 陽次郎氏(下)
1974年生まれ。青山学院大学卒業後、富士銀行を経て、99年にフジテレビ入社。ドキュメンタリー、バラエティー、情報番組など幅広いジャンルの企画を立ち上げてきた。現在は『ザ・ノンフィクション』『ワイドナショー』『逮捕の瞬間!警察24時』のプロデューサーを務め、自ら企画した特番『目撃!超逆転スクープ』では総合演出も担う。企画・プロデューサーを務めた『東京 子育て 働く母』でNYフェスティバル銀賞を受賞。

サブタイトル「わたしの知らないワタシの街」の意味

佐々木 健一(以下、佐々木) 「東京」をユニークな視点と斬新な手法で描いてきた西村さんのドキュメンタリー「NONFIX『東京シリーズ』」(2013年~)ですが、番組内で度々登場するサブタイトルのようなキーワードが「わたしの知らないワタシの街」という言葉。「わたし」と「ワタシ」がひらがなと片仮名になっていますが、あれはどういう意図で?

NONFIX 東京シリーズ第2弾「TOKYO WONDER PLANET~わたしの知らない ワタシの街~」(2014年3月27日放送)(C)フジテレビ
NONFIX 東京シリーズ第2弾「TOKYO WONDER PLANET~わたしの知らない ワタシの街~」(2014年3月27日放送)(C)フジテレビ

西村 陽次郎(以下、西村) あれね……。

佐々木 やぼな質問をしました(笑)。あえて言わせちゃおう、と。

西村 「コンセプトを言葉にするのが難しいから番組にしているんです」と言いたいぐらい(笑)。何だと思います?

NONFIX 東京シリーズ第3弾「『東京地下世界』Tokyo underground~わたしの知らない ワタシの街~」(2015年2月19日放送)(C)フジテレビ
NONFIX 東京シリーズ第3弾「『東京地下世界』Tokyo underground~わたしの知らない ワタシの街~」(2015年2月19日放送)(C)フジテレビ

佐々木 東京の「午前4時」とか、東京で暮らす「外国人」、東京の「地下世界」、東京でうごめく「機械」、東京で「プライスレスなもの」など、ある視点から“東京”を見つめ直す。そして、違う自分を発見する。平仮名の「わたし」から片仮名の「ワタシ」に変わるように。勝手な想像ですが……。

西村 まあ、ほぼそうです(笑)。

NONFIX 東京シリーズ第5弾「『東京プライスレス』これはお金で買えますか?~わたしの知らない ワタシの街~」(2017年2月19日放送)(C)フジテレビ
NONFIX 東京シリーズ第5弾「『東京プライスレス』これはお金で買えますか?~わたしの知らない ワタシの街~」(2017年2月19日放送)(C)フジテレビ

佐々木 「わたしの知らないワタシの街」という言葉、番組内で結構出てきますよね?

西村 出てきますね。「普段、暮らしている街も、視点を変えて見るとこんな一面があるでしょう?」と。あえて言葉にしたことはないけど、そういう意図でした。

あえて密着せず“サンプリング”構成で見せる

佐々木 そうした番組コンセプトを見事に“サンプリング構成”で見せているのが「東京シリーズ」ですよね。一見、さまざまな要素が羅列しているように見えて、視聴者が自然と何らかの意味や意図を受け取る構造になっている。

西村 そんなふうに見ていただけると、まさに思うツボですね。

佐々木 例えば、第4弾『東京キカイ都市』は見事ですよね。僕らはいろいろな場面で自動化・機械化された現代社会を生きていますけど、オートメーション化された機械だけをサンプリングして見せられると、だんだん“機械が奇怪なものにしか見えなくなる”。ひたすら狂った世界を見ているような気分になりましたよ。

NONFIX 東京シリーズ第4弾「『東京キカイ都市』機械×奇怪~わたしの知らない ワタシの街~」(2016年3月24日放送)(C)フジテレビ
NONFIX 東京シリーズ第4弾「『東京キカイ都市』機械×奇怪~わたしの知らない ワタシの街~」(2016年3月24日放送)(C)フジテレビ

西村 普段、見慣れたものだから余計に。タイトルの片仮名の「キカイ」は“機械”と“奇怪”を掛け合わせた形です。ベタで恥ずかしいですけどね(笑)。あと、裏テーマは、「これって本当に人間が機械を使っているのか。ひょっとして機械に使われているんじゃないか………」ということ。現代社会を生きる人たちへ、そういう球(問題提起)を投げることでした。

佐々木 「東京シリーズ」はなぜ、サンプリング構成に?

西村 まず、フジテレビの『NONFIX』という深夜ドキュメンタリー枠は、ものすごく予算がないんです。密着取材ができる額じゃないんです。それで考えたのが“スケッチ”です。つまり、いろんな東京の風景をサンプリングして見せる手法です。

NONFIX「東京シリーズ」【第4弾】『東京キカイ都市』機械×奇怪~わたしの知らない ワタシの街~(C)フジテレビ
NONFIX「東京シリーズ」【第4弾】『東京キカイ都市』機械×奇怪~わたしの知らない ワタシの街~(C)フジテレビ

佐々木 前提条件から言って、密着できるわけがない、と。

西村 はい。だから、まず描きたいテーマをタイトルと共にぶち上げて、それに沿ったものをさまざまリサーチして、構成する手法を採ったんです。

“冷めた視点”で被写体を即物的に捉える

佐々木 ただ、そうして構成された「東京シリーズ」を見ると、一貫して世の中を冷めた目で見つめる“シニカルな視点”を感じるんです。それは、まさに西村さんの視点なのだろう、と……。

NONFIX「東京シリーズ」【第5弾】『東京プライスレス』これはお金で買えますか?~わたしの知らない ワタシの街~(C)フジテレビ
NONFIX「東京シリーズ」【第5弾】『東京プライスレス』これはお金で買えますか?~わたしの知らない ワタシの街~(C)フジテレビ

西村 ああ、こじらせていますか(笑)。

佐々木 なんというか“乾いた空気”が流れているんですよね。その作家性や人間観が、あの番組のテイストとすごくフィットしていて……。

西村 乾いているのか~。

佐々木 よくあるドキュメンタリーは、被写体に向かって熱を持って接する感じですが、西村さんの「東京シリーズ」は被写体をあえて即物的に捉えているのが面白い。こじらせている西村さんの何かが投影されているようにも見える。

西村 そんな自己主張しています?(笑)

スタッフクレジット「企画・構成」に込められた意味

佐々木 「東京シリーズ」って、エンドロールに「企画・構成 西村 陽次郎」と表示されますよね? 「プロデューサー」という表記ではなくて。そこに込めたものは?

西村 これは、佐々木さんなら分かると思うんですけど、「プロデューサー」という肩書にはちょっと抵抗があるじゃないですか。

佐々木 そうですね。

西村 「東京シリーズ」に関しては、企画や構成がすごく重要だと僕の中で思っていて、でも「演出」と表記すると現場で頑張ってくれている京田宣良ディレクターに悪いし、落としどころが自分の中では「企画・構成」という肩書。もちろんプロデュースもしているけど、別にそれを主張したいわけじゃないし。

佐々木 ちゃんと企画・構成した番組については、しっかりと表示されているのがすばらしいと思いました。

西村 もちろん、僕だけの番組ではないけど、「東京シリーズ」はやっぱり僕の番組なんです。僕がいなければ生まれていないので、そこはハッキリさせておかないと。

佐々木 視聴者にとってはエンドロールなんてほぼ見てないも同然だと思うんですが、僕らみたいに番組を作っている人間からすると、エンドロールの表記って本当はもっとこだわるべきだと思っています。

西村 作り手の“印のつけ方”というか。でも、そういうことを言うと嫌われますけどね(笑)。

佐々木 なんででしょうね(笑)。どうしてテレビ業界は制作者の表記をあいまいにしたがるのか、不思議に思うことがあります。ところで、「東京シリーズ」はこれまでに5本作られてきましたけど、新作の予定は?

西村 NHKで第6弾やれないですかね?(笑) NHKでやりたい企画、いっぱいあるんですけど。

佐々木 確かに、「東京シリーズ」ってNHKで放送していても全然おかしくない番組ですね(笑)。NHKどころか、全局見渡してもあんなユニークな番組はないと思います。

※第4回に続く。

(構成:佐々木 健一、人物写真/的野 弘路)