人の心を動かすプロの技術とは?NHKエデュケーショナルの佐々木健一氏がテレビ制作者の仕事論に迫る本連載。今回はNHK-BSプレミアムにて6月19日放送予定の『師弟物語~人生を変えた出会い~「田中将大×野村克也」』を企画制作した稲垣哲也氏がその制作秘話を語り尽くす後編。

ニューヨークヤンキース投手・田中将大氏(左)と元楽天監督・野村克也氏(右)のインタビュー風景(『師弟物語~人生を変えた出会い~「田中将大×野村克也」』より)(C)NHK
ニューヨークヤンキース投手・田中将大氏(左)と元楽天監督・野村克也氏(右)のインタビュー風景(『師弟物語~人生を変えた出会い~「田中将大×野村克也」』より)(C)NHK

※前編はこちら

マー君の発言にムキになるノムさんを引き出す番組構造

佐々木 健一(以下、佐々木) 今回、稲垣さんが企画・演出された『師弟物語~人生を変えた出会い~「田中将大×野村克也」』(6/19<水>21時~ NHK-BSプレミアム)。僕はプロデューサーとして関わりながらも、当初から「危うい企画でもある」と感じていたんです。というのも、『師弟物語』というタイトルから思い浮かべる番組像はたいてい、弟子が師匠に「恩義を感じています」と語る内容だろうと容易に想像がつく。

稲垣 哲也(以下、稲垣) そうですね。

佐々木 まさに“予定調和”に陥る。一方で、稲垣さんが最初から企画書に書かれていたように「師弟関係ってきれい事ばかりじゃない」とも思うんです。だから今回、どんな作戦を立ててのぞんだのか。

稲垣 最初から「これだけはやらない」と決めていたのは、田中さんと野村さんを対談させるスタイル。これは絶対につまらない。

佐々木 そうですね。お互いにおべんちゃらを言って終わりますね。

稲垣 だから、それぞれ別々にインタビューを行う。で、さらに一番大きな構造として「野村克也さんのインタビューは2回行う」というアイデアを考えたんです。

佐々木 1回だけじゃなくて2回?

稲垣 はい。まず、野村さんのインタビューを撮って、その内容を田中さんにぶつける。で、田中さんの答えをもう一度、野村さんにぶつける。普通は野村さんほどの大物になると2回もインタビューを受けてくれなかったりするんですが、野村さんが快諾してくれて実現できた。

佐々木 自然に編集されているから、番組を見ても野村さんが2回に分けて撮られているのは気づかないですね。でも、その構造が今回、見事にハマった。番組後半に田中さんと野村さんの意見が分かれるシーンが秀逸でした。

稲垣 野村さんのある教えが「メジャーリーグでは通用しない」と田中さんが明言するシーンですね。その発言を野村さんに見せた時はちょっとムッとしていました。

佐々木 「それは、ホンモノじゃないからじゃないの?」と(笑)。

稲垣 急に目付きが変わって「そんなわけない。俺は日米野球で知っているんだ」みたいなことを言って感情をあらわに……。でも、「ノムさんって(人間臭くて)面白いな」と思ってオンエアでも使おうと。

佐々木 健一氏(左)
1977年生まれ。早稲田大学卒業後、NHKエデュケーショナル入社。『哲子の部屋』『ブレイブ 勇敢なる者』シリーズ「Mr.トルネード」「えん罪弁護士」など様々な特別番組を手がけ、ギャラクシー賞や放送文化基金賞、ATP賞などを受賞。著書に『辞書になった男』(文藝春秋/日本エッセイスト・クラブ賞)、『神は背番号に宿る』(新潮社/ミズノ・スポーツライター賞優秀賞)、『雪ぐ人』(NHK出版)などがある。

稲垣 哲也氏(右)
1975年生まれ。立命館大学卒。テレビ番組制作会社ユーコム所属。これまでに『劇画ゴッドファーザー~マンガに革命を起こした男~』(WOWOW)や『たけし誕生~オイラの師匠と浅草~』(NHK/ギャラクシー賞奨励賞)などを企画・演出する。最新作は『師弟物語~人生を変えた出会い~「田中将大×野村克也」』(6/19<水>21時~ NHK-BSプレミアム放送予定)。映画評論サイト「CINEMORE」にて映画コラムも多数執筆する。