トップアスリートは“言葉”にも人一倍厳しい

稲垣 そもそも今回の番組のきっかけは、2年前に佐々木さんと一緒に企画を出して制作した『たけし誕生~オイラの師匠と浅草~』(2017年9月20日NHK‐BSプレミアム)という特番。ビートたけしさんと師匠の深見千三郎さんの師弟関係を描いた内容で、自分としても手応えを感じた。それで、師匠と弟子の物語って普遍的だから「シリーズ企画として提案してみよう」という話になって……。

佐々木 そうですね。

稲垣 それで最初の企画書には、例えば芸能系なら「勝新太郎さんと松平健さん」とか、漫画・劇画の世界では「手塚治虫と辰巳ヨシヒロ」とか、大きく3例ぐらいを書いて出した。で、「他にもこんな例が…」と企画書の最後のほうに小さく名前だけ書いていたのが「田中将大と野村克也」。そこに編成の人が興味を持って「もし、マー君とノムさんの出演がOKなら企画を通す」という話が来て、こっちは「えー!?」と(笑)。

佐々木 そうそう、小さく10例ぐらい書いていた中の一つだったから驚きましたね。

稲垣 しかも、編成からその話があったのが2019年1月20日ぐらいで、「1月中に結論が出ないか?」と。

佐々木 たった10日間ぐらいで出演の確約が得られれば企画を採択する、と(笑)。

稲垣 まずは野村克也さんに連絡して「わしゃ、かまわんよ」とお返事をいただいたんですが、ヤンキースの田中将大さんは2月からキャンプに行っちゃうし無理だろうと思いつつ、「ここはもう、アホなフリして聞くしかない」と開き直ってオファーしたら、すんなりと出演OKをいただいて「えー!?」と。

佐々木 しかも、ピリピリしてる開幕直前にロングインタビューを行う形で。

稲垣 5分ぐらいの簡単なインタビューならまだしも、1時間のドキュメンタリー番組のインタビューは受けないと思っていたら受けていただいて「もう行くしかない」と覚悟を決めてフロリダへ行った感じです。

佐々木 で、行ってみたら、まさかの塩対応だった(笑)。

稲垣 でも、田中さんもこれまでいろんなインタビューを受けて都合よく言葉を切り取られてきたことがあったと思うので、「うれしかった」とか「悲しかった」とか感情を表現することにとても慎重になっているのが伝わってきた。

『師弟物語~人生を変えた出会い~「田中将大×野村克也」』より(C)NHK
『師弟物語~人生を変えた出会い~「田中将大×野村克也」』より(C)NHK

佐々木 マー君に対する世間のイメージって「のほほんとして、アイドル好きで……」みたいな印象で、決して神経質な人とは思っていないですよね。

稲垣 でも、実際にはすごく言葉に厳密。インタビュー中に僕がちょっと事実関係を間違えて、1週間ぐらい違う日付を言ったら、「そうでした? そうじゃないんじゃないですか?」と。

佐々木 「お前、分かってないな」みたいな?

稲垣 そう、その辺がすごく厳しい方でした。

意外と知られていないインタビューを“記録”する難しさ

佐々木 一般の人には「インタビューがどれほど難しいことか」って、ほとんど伝わっていないと思うんです。

稲垣 そうですね。

佐々木 テレビ業界でも、特にドキュメンタリーかいわいの人に多い印象なんですが、取材相手をイスに座らせて撮る、いわゆる“板付きインタビュー”はそれほど難しくない、と思われている節があるんです。被写体に密着してカメラをぶん回して撮るのがリアルで、セッティングして撮るインタビューはさほど難易度が高くない、と。

稲垣 質問も決まっているし、と。

佐々木 そうそう。でも、そんなわけない。板付きインタビューでも結局は“一発勝負”ですし。しかも、あれほどの大物になると時間や条件も限られているし。

元楽天監督・野村克也氏(『師弟物語~人生を変えた出会い~「田中将大×野村克也」』より)(C)NHK
元楽天監督・野村克也氏(『師弟物語~人生を変えた出会い~「田中将大×野村克也」』より)(C)NHK

稲垣 インタビューを自分で見直して「俺、何でこんなにくだらないことを聞いてるんだ?」と思うことってありません?

佐々木 ありますよ(笑)。自分のインタビュー素材を見られるのは1番嫌ですね。

稲垣 そうそう、インタビュー素材って絶対、人に見られたくない(笑)。

佐々木 スパッと短く質問できなくて、自分がめちゃくちゃしゃべっていることも。で、何が聞きたいのか、さっぱり分からないみたいな……。

稲垣 「徹子の部屋」の黒柳徹子さんのスタイルですね(笑)。「あのとき、○○で××で△△ですよね? じゃ、その話をして」という。

佐々木 「あの犬にかまれた話をしてください」とオチまで言っちゃう感じ(笑)。

稲垣 でも、ただ促すだけだと相手は「え、何が聞きたいんですか?」となっちゃうし。文字起こしすると僕が4行ぐらいしゃべっていたりもする。「○○で××で……。で、どうですか?」と(笑)。そしたら相手は「そうですね」と答えて終わり。「うわ~、何だこのインタビュー」って(笑)。

佐々木 新聞や雑誌などの活字メディアのインタビューと明らかに違うのは、まさにそこですよね。僕ら映像のプロの仕事は“記録”してこなきゃいけないから、自分がバーッと話して相手が「そうですね」と言ったら、「彼はそう答えた」と新聞や雑誌なら書くことがあるかもしれませんが、僕ら映像メディアの場合はそれはできない。