入念な準備をして“主観”で撮るのが名カメラマン

藤田 でも、こんなことを言ったらカメラマン失格かもしれないけど、あれだけ苦労して照明とかカメラ位置のセッティングをしても、撮影が始まると「その人がいかにいい表情で、いい内容を話すか」ということだけに集中しています。自分の中ではハッキリとした優先順位があるんです。最優先は、ディレクターと取材相手の2人がちゃんと話ができる状況を作ること。それが何より大切ですね。

佐々木 たまに、「よくあんな状況で取材相手が普通に話しているね」とも言われるんですよ(笑)。被写体の正面にカメラがあって、強い照明をナナメ方向から当てていたりするので、そんな異様な空間で普通に話ができるのか、当初は心配もありました。でも、やり始めてみると杞憂(きゆう)でしたね。ああいう撮影スタイルでも、エモーショナルなインタビューになる場面を何度も経験してきた。

インタビューを受ける満屋裕明医師(『Dr.MITSUYA 世界初のエイズ治療薬を発見した男』より)(C)NHK
インタビューを受ける満屋裕明医師(『Dr.MITSUYA 世界初のエイズ治療薬を発見した男』より)(C)NHK

藤田 『ブレイブ 勇敢なる者』第2弾「えん罪弁護士」(2016年)のロケの最後に撮った、今村核弁護士のインタビューも印象深いですね。

佐々木 あのインタビューは勝負をかけましたね。いいロケができている確信はあったけど、最後にもう1回、今村先生の内面にグイグイと迫って、それまで秘めてきた心情を語って一筋の涙を流すシーンになった。あのときの現場の空気とか、スタッフの一体感はすごかったですね。今、思い出しても。

秘めた思いをカメラの前で吐露する今村核弁護士(『ブレイブ 勇敢なる者』「えん罪弁護士」より)(C)NHK
秘めた思いをカメラの前で吐露する今村核弁護士(『ブレイブ 勇敢なる者』「えん罪弁護士」より)(C)NHK

佐々木 あのとき、僕が覚えているのは、帰りのロケ車で一人、撮影したばかりのインタビュー映像をプレビューしている藤田さんの姿です。

藤田 本当によく見ているね(笑)。

佐々木 自分のカメラでプレビューして確認していました。気持ちが入り込みすぎて冷静ではなかったんだろうな、と。でも、すごく納得した顔をしていた。

藤田 何か気になったんでしょう(笑)。よく、頭が真っ白になっちゃうから。

佐々木 頭真っ白カメラマン(笑)。確かに、一般的には「カメラマンは冷静じゃなきゃいけない」と言うけど、僕は必ずしもそれが正しいとは思わない。ふと撮影している藤田さんを見ると、涙が頬をつたっていることがあって、主観的に感情を込めて撮る人だから気持ちのこもった映像が撮れると思うので。

藤田 さっきまで、あんなに撮影までの準備が大事だって言っていたのに、「何だったんだ、お前」みたいになっちゃいますね(笑)。

一人何役もこなす“自主映画制作”のような「チーム力」

佐々木 でも、そういうインタビューを毎回、場所や空間も違うところで、撮影の藤田さん、音声さん、ディレクターの僕のほぼ3人で搬入からセッティングまでやって撮っている。普通は専門職の照明さんをつけるものですが、予算も限られているので、僕の番組では藤田さんに照明も兼ねてもらっています。

藤田 そうですね。照明さんもすごい人がいっぱいいますから、本当は専門の人に来てもらうほうがいいんでしょうけど、番組ごとにいろいろ条件もありますからね。

米シアトル・タコマ国際空港に立つ藤田岳夫カメラマン(『ブレイブ 勇敢なる者』「Mr.トルネード」撮影時)
米シアトル・タコマ国際空港に立つ藤田岳夫カメラマン(『ブレイブ 勇敢なる者』「Mr.トルネード」撮影時)

佐々木 照明は下積み時代に勉強したんですか?

藤田 そうですね。僕は下積みが長かったので、そのときに撮影や照明についていろいろ教えてもらいました。

佐々木 下積みの期間はどのくらい?

藤田 もう10年間ぐらい。撮影の助手として。ドラマの助手をしたり、ドキュメンタリー番組の『驚きももの木20世紀』とか、いろいろ。バラエティーの『どうぶつ奇想天外!』もやっていましたよ。

佐々木 ジャンルを問わず、何でもやっていますよね。だから、引き出しが多い。

藤田 呼んでもらえるうちは、いろいろやりたいです。僕は普通の、ただの町場のカメラマンなので。

佐々木 藤田さんのように撮影と照明の両方を兼務する「一人二役」って、僕の番組のスタッフは皆、そうなんですよね。音声の中山寛史さん(インフ)も現場ではVE(ビデオエンジニア)を兼ねているし、編集の宮田耕嗣さんも通常の編集からテロップ、合成・加工、カラーグレーディング(色補正)まで全て1人で行う。

撮影された映像の仕上げ作業は、編集マンの宮田耕嗣氏が担う
撮影された映像の仕上げ作業は、編集マンの宮田耕嗣氏が担う

藤田 CG制作の津田晃暢さん(SANTY)とイラストレーターの羽毛田信一郎さんのコンビもすごいですね。ほぼ2人で、あの『ブレイブ 勇敢なる者』シリーズのCGアニメを作っている。撮影担当としてはいつも「CGに負けないように」と思って頑張っています。

CGアニメは、津田晃暢氏と羽毛田信一郎氏のほぼ2人で制作している(『ブレイブ 勇敢なる者』「Mr.トルネード」より)(C)NHK
CGアニメは、津田晃暢氏と羽毛田信一郎氏のほぼ2人で制作している(『ブレイブ 勇敢なる者』「Mr.トルネード」より)(C)NHK

佐々木 僕自身も、基本的にAD(アシスタント・ディレクター)はつけずに演出以外のスケジュール管理や細かな雑事もやり、CGの絵コンテも自分で描き……という感じですからね。テレビ番組の制作って、潤沢な予算で作られているようなイメージがあると思いますが、少なくとも僕らに関してはいつもギリギリですね(笑)。

藤田 ロケ期間もそんなに長くないですからね。10日から2週間で撮りきらないといけないこともあるし。

佐々木 地方ロケで1カ月とか撮影期間を設けられないですからね。予算がなくなっちゃうので。でも、厳しい条件の中でもある程度、勝負ができないとプロじゃないし、放送日という締め切りもあるので、だからこそ入念に準備を怠らないという。で、会社や所属もバラバラな総勢10人に満たないチームが知恵を出し合って、まるで自主映画制作のように毎回、どうにかこうにか乗り越えていますね。

※第2回につづく(全2回)。

(構成/佐々木 健一、人物写真/中村宏)