実は難易度が高い「被写体を真正面から捉える構図」

佐々木 インタビューで「被写体を真正面から捉える構図」についてもよく聞かれるんですよ。海外のドキュメンタリーでは割とポピュラーで、『Dr.MITSUYA』を制作するときにこの構図を採用しようと思って藤田さんに相談して。以後、あのスタイルが『ブレイブ 勇敢なる者』シリーズでの一つのスタイルになりました。「インタビューの背景に色をのせる」手法と合わせて、最近やたらとマネされています(笑)。

被写体を真正面から捉えるインタビューの構図(『ブレイブ 勇敢なる者』「硬骨エンジニア」より)(C)NHK
被写体を真正面から捉えるインタビューの構図(『ブレイブ 勇敢なる者』「硬骨エンジニア」より)(C)NHK

藤田 あの構図は紙一重ですよね。下手にやるとニュースキャスターがしゃべっているような画に見えたり、ビデオレターみたいになっちゃうし。

佐々木 真正面から捉える構図は、背景や照明、レンズのボケ足などをうまく整えないと全然スタイリッシュには見えない。

藤田 画がのっぺりしちゃうから、そうならないように気を付けています。真正面に置くカメラ以外にも2~3台の固定カメラを設置して、自分はENG(業務用カメラ)で撮影する。カメラマンは1人だけどマルチカメラ体制で撮影して、照明も普通のインタビューより多いですね。

インタビューは複数台のマルチカメラで撮影する(BS1スペシャル『ボクの自学ノート~7年間の小さな大冒険~』より)(C)NHK
インタビューは複数台のマルチカメラで撮影する(BS1スペシャル『ボクの自学ノート~7年間の小さな大冒険~』より)(C)NHK

佐々木 一般の人はパッと映像を見てなんとなく「キレイだな」と感じても、「どうしてこの映像がキレイなのか?」という理由までは考えない。でも、現場に立つプロからすると、キレイに撮れているのには全部、理由がある。毎回、照明のセッティングが本当に大変ですよね?

藤田 現場ではまず、被写体の真正面に置く固定カメラの位置を決めるところから始めます。でも、なるべく広くて奥行きのある構図にすると、照明が入る場所がほとんどなくなってしまうんです。その上、佐々木さんからは「ナナメ方向からアップで撮るカメラもいい位置から狙って」と言われ(笑)、さらに別の固定カメラも置こうとすると……。

佐々木 どんどん、照明が入る場所がなくなっていく(笑)。

藤田 それで「じゃあ、どうするんだ」と毎回、頭を悩ませて。スタジオじゃなくてあくまでロケ先ですから、限られた空間の中でひたすらカメラと照明の位置のせめぎ合いをしている感じ。例えば、窓とかベランダがある部屋だったら、「もう、外から照明を当てるしかないね」と死角を利用して……。

インタビューの撮影風景。ベランダからもカーテン越しに照明が当てられている(BS1スペシャル『ボクの自学ノート~7年間の小さな大冒険~』撮影時)
インタビューの撮影風景。ベランダからもカーテン越しに照明が当てられている(BS1スペシャル『ボクの自学ノート~7年間の小さな大冒険~』撮影時)

佐々木 現場の状況を見て、即興のアイデアで撮影プランをガラッと変えることもありますよね。

藤田 でも、この構図で撮影するスタイルは、インタビューするほうも大変だと思うんですよ。

佐々木 はい、撮影中はずっと違和感があります。だって、インタビュアーの僕のアゴの下に固定カメラがあるので(笑)。

被写体側から見たインタビュー時の風景。(左)音声・中山寛史氏、(中央)ディレクター・佐々木健一氏、(右)撮影・藤田岳夫氏(BS1スペシャル『ボクの自学ノート~7年間の小さな大冒険~』撮影時)
被写体側から見たインタビュー時の風景。(左)音声・中山寛史氏、(中央)ディレクター・佐々木健一氏、(右)撮影・藤田岳夫氏(BS1スペシャル『ボクの自学ノート~7年間の小さな大冒険~』撮影時)

佐々木 「真正面から捉える構図」はマネしようと思えばできるんですけど、ちゃんと成立させるには準備や調整が大変ですし、この状況でもディレクターがしっかりと話を聞けなければ本末転倒ですからね。

撮影準備中にひそかに行われる取材相手への「演出」

藤田 ディレクターは「現場で○○をこう撮りたい」という希望やイメージを伝えてきますけど、佐々木さんはそれを撮るための“準備”をちゃんとされていますね。事前取材で相手と関係を作って、ロケハンでインタビュー場所も決めてきて、いい撮影をするための時間と場所を精いっぱい用意してくれていると感じます。

佐々木 インタビュー場所は、まず奥行きがある空間じゃないといい画が撮れないから、そういう場所を探してこなきゃいけない。しかも、なるべくシンメトリー(左右対称)で撮れる空間がいいとか、場所選びの条件もあります。

インタビュー場所は奥行きがあり、シンメトリー(左右対称)になる空間を選ぶ(『ブレイブ 勇敢なる者』「硬骨エンジニア」より)(C)NHK
インタビュー場所は奥行きがあり、シンメトリー(左右対称)になる空間を選ぶ(『ブレイブ 勇敢なる者』「硬骨エンジニア」より)(C)NHK

佐々木 だから、撮影前の準備は怠らないつもりでいますけど、毎回、自分の中では“藤田さんとの勝負”みたいな気持ちがあるんです。事前に下見をして「この場所でシンメトリーの画を撮るなら、この方向だな」と考えて、藤田さんにそのプランを伝えても現場であっさり覆されることがあるので。「いや、こっちの角度の方がいいですよ」と提案されて、「あ、確かにそうだな」と(笑)。藤田さんのアイデアのほうが的確なんです。それに毎回、驚かされる。

藤田 いやいや、普通ですよ。長年の勘です。

佐々木 で、カメラと照明のセッティングに入るんですが、普通の番組のインタビューならパッと撮って終わりですけど、僕らはセッティングだけで1時間半ぐらいはかかる。その準備の時間も重要で、藤田さんたちが準備している間に、僕が取材相手の方と話して気持ちを高めてもらう、その演出もあります。

藤田 そうそう、そういうところも大変ですよね。

佐々木 そのとき、藤田さんが一生懸命に準備している姿を取材相手の方に見てもらうことも重要な演出の一つなんです。その様子を見て「ああ、ここまでやってくれるんだ」とご本人の気持ちも高ぶる。だから、そうした準備も含めて演出(状況設定)ですね。単純に背景に色をのせるとか、真正面から撮ればいいという話じゃない。

藤田 そうですね。

佐々木 インタビューの直前に、藤田さんは取材相手の方に「すみません、ちょっとメガネを貸してください」と言って、カメラのレンズを拭くレンズクリーナーでメガネを拭いてあげますよね? 細かなことですけど、「ああ、いい演出をしてくれているなぁ」と思っています。

藤田 僕は「目」をキレイに撮るのが好きなので。目にその人の表情が宿るから。

佐々木 そうそう、照明がちょうど目に差し込んでキラキラする角度にこだわりますよね。

藤田岳夫カメラマンは被写体の「目」の撮影(照明)にこだわる(BS1スペシャル『ボクの自学ノート~7年間の小さな大冒険~』より)(C)NHK
藤田岳夫カメラマンは被写体の「目」の撮影(照明)にこだわる(BS1スペシャル『ボクの自学ノート~7年間の小さな大冒険~』より)(C)NHK

藤田 でも、照明の角度がちょっとズレるだけでメガネのフレームの影が出る。

佐々木 それで「ああ、チキショー! うまくいかねぇ」とか、よく言っていますね(笑)。またそこから照明の微調整をして……。他にも、藤田さんはインタビューを始める前に、取材相手の方にひと言、声を掛けてくれますよね? 「今日は、お話が聞けるのを楽しみにしてきました」とか。

藤田 ああ、なるべく自分の気持ちを伝えようと思って……。

佐々木 よく「どうして、あんなに被写体が自然体のインタビューを撮れるのか?」と聞かれるんですけど、ディレクターの僕だけの問題じゃないんですよ。藤田さんや音声さんを含めて、撮影現場全体の雰囲気があるから撮れるんです。そこも含めて「演出」(状況設定)だし「撮影」なんだと思います。