人の心を動かすアイデアを生み出し、効果的に伝えるための技術とは? 現役テレビ制作者の技術論を丸裸にしていく本連載。今回のゲストは前回に続き、話題作『さよならテレビ』の東海テレビ・土方宏史ディレクター。土方氏が本作に取り入れたという「三幕構成」とは?
商品開発やマーケティング、新規事業立ち上げなど職種を問わず求められるのは、多くの人の心を動かすアイデアを生み出し、それを効果的に伝えるクリエイティブな技術だろう。老若男女問わず多くの視聴者の心を動かしてきたテレビ番組制作者たちはどのような方法で番組を作り上げているのか。
この連載では、NHK『ブレイブ 勇敢なる者』シリーズ「Mr.トルネード」「えん罪弁護士」などさまざまな番組を手掛け、「プロは技術論で語るべし」を持論とするNHKエデュケーショナルのディレクター・佐々木健一氏を聞き手に、現役テレビ制作者が番組をいかにち密に作っているか、その方法論や技術論を丸裸にしていきたい。
今回のゲストは前回(「業界騒然!『さよならテレビ』制作者が語る『表現』の本質とは?」に引き続き、2018年9月に東海テレビで放送されたドキュメンタリー番組『さよならテレビ』を制作した東海テレビの土方宏史(ひじかた・こうじ)ディレクター。
『さよならテレビ』はめちゃくちゃテクニカルな番組
佐々木 健一(以下、佐々木) 『さよならテレビ』って、よく内容の是非みたいなことばかり語られるんですが、番組制作のプロからすると、いい意味で“作為的に作り込まれた番組”だと言えると思うんですよ。実は、めちゃくちゃテクニカルな番組。
土方 宏史(以下、土方) 僕は今日、その話を佐々木さんとしたかったんです。まさにテクニカルな話。佐々木さんと話すなら、その話をしたいです(笑)。
佐々木 構成はもちろん、撮影とか編集とか、ものすごくよくできている番組だと思いました。ただ、ボケ~ッと見ていたら分からないかもしれませんが……。
土方 なぜ、『さよならテレビ』がそういう番組になったのかをひもといていくと、これはまあまあ、佐々木さんとつながってくるんですけど……(笑)。
佐々木 いやいや、僕は何もしていない。こちらにも批判の矛先が向いてくるのでやめてください(笑)。……でも、あれは、土方さんが『さよならテレビ』の制作を始めたころでしたっけ? 突然、連絡があって、わざわざ名古屋から東京まで来られたことがありましたよね?
土方 この番組を始めたころ、壁にぶつかったときです。佐々木さんに相談しに渋谷まで行きました(笑)。
佐々木 あれは確か2年前ぐらいですよね? 突然、土方さんが「東京に遊びに行っていいですか?」と連絡をくれて。
土方 あのときの話はすごく参考になりました。佐々木さんから教えてもらった本(「ドキュメンタリー・ストーリーテリング『クリエイティブ・ノンフィクション』の作り方」(シーラ・カーラン・バーナード著/島内哲朗訳/フィルムアート社)もすごく勉強になりました。あの本を教えてもらったのがすごく大きかったですね。
佐々木 僕もあの本を手にとって、10年以上も悶々(もんもん)と考え込んでいたことに、こんなにスパッと答えている人がいることに驚いたんですよ。すごく進歩的で合理的な考え方で、日本の古臭いテレビ・ドキュメンタリーの世界では、どうしてこういう考え方が否定されがちなのか、不思議に感じました。だから、僕らぐらいの世代で、これからの新しいドキュメンタリーの作り方を構築していきたいと思っています。
土方 あれから、いろんな脚本術の本も読むようになって。特に、「三幕構成」について知ったのが大きかった。そういう発想を持つこと自体、初めてだったので。
佐々木 そうなんですか?
土方 それまではただ感覚的にやっていたので。だから、佐々木さんが『さよならテレビ』をどう見るかがすごく気になって……、僕は今日、すごくビビりながら来ました(笑)。