なぜか期待されてしまう「テレビの闇」

佐々木 でも、上映会の後に何が話し合われたかを見ていくと、『さよならテレビ』という番組が持つ特異性や、なぜこんなにも業界内で話題騒然となっているのか、その理由が見えてくると思うんです。

土方 批判に関しては本当にいろんな理由がありますけど、「“テレビの闇”を本当に暴いているのか?」と言う方もいらっしゃいます。番組の最後でメインの登場人物の一人である澤村慎太郎記者が「テレビの闇はもっと深いんじゃないですか?」と言うシーンがあるんです。

佐々木 その「テレビの闇」という言葉。私自身はかなり引っ掛かるんですが……。

土方 そうですね、僕も。

佐々木 そもそも、言われるような“闇”があるのかと。テレビの闇って何?(笑)。

土方 1つは「無いものを出せ」と言われている気がします。澤村さんが「もっと闇があるんじゃないですか?」と言って、おそらく見ている方も「そうだ、そうだ!」となって、「どうしてお前らは闇を暴かなかったのか?」という怒りが込み上げてくるのかもしれません。でも、少なくとも僕らが取材している中では一部の人が想像しているような“テレビの闇”というものは……。

佐々木 ……ない(笑)。

土方 例えば、大きな世論の誘導が行われているとか、政権への忖度(そんたく)が行われているとか、ちょっと陰謀論に近いかもしれないですね。それが存在するという前提に立って、それを暴くような番組を期待していた人が一部にはいるのかもしれません。

“合わせ鏡”のような『さよならテレビ』

佐々木 僕は、『さよならテレビ』って“鏡”のような番組だと思ったんです。“合わせ鏡”のような番組。

土方 ああ、それは僕もすごく思います。

佐々木 見る人によって、自分がテレビやメディアに対してどう考えているかが逆照射されて、バレてしまう……。

土方 バレちゃいます。だから、番組を見て「面白くなかった」と怒った人は、なぜ自分が怒ったのかをいま一度、自問してみてほしいんです。そこにメディアとの向き合い方とか、「こうあってほしい」という願望だとか、ある種の思い込みがあるのかもしれない。上映会では感情的な意見をぶつけてこられる方が多くて、そういう声を耳にすると逆に「この人にはどんな背景があるんだろう?」とすごく気になりました。

佐々木 そう、そう。どんな感想を抱くかによって、その人がこれまで何を考え、どんなふうに生きてきたかがバレてしまうんですよ(笑)。僕自身は、番組内でまるで“ジャーナリストのかがみ”のように描かれる記者の澤村慎太郎さんに一番、イラつきました(笑)。最後に、彼が土方さんに「テレビの闇はもっと深いんじゃないですか? こんなぬるい結末でいいんですか?」と問いただすシーンがありますけど、ものすごいアレルギー反応が……(笑)。いわゆるドキュメンタリーかいわいでよく見るタイプで、「ドキュメンタリー」というジャンルに対する先入観が強く、保守的な人の代表格みたいですごく苦手。

澤村 慎太郎 記者(中央)(『さよならテレビ』より) (C)東海テレビ
澤村 慎太郎 記者(中央)(『さよならテレビ』より) (C)東海テレビ

土方 それは今までの感想の中で1人だけです。佐々木さんだけ(笑)。

佐々木 僕だけなんですね(笑)。一般的には「澤村さん、いいこと言うわぁ~」という感じなんですか。たぶん、そうなんでしょうね。でも、もし自分がディレクターだったら、最後、徹底的に彼と戦うぐらいのことを……。

土方 徹底的に(笑)。

佐々木 でも、そうやって番組を見た人がザワつくことがまさに“鏡”なわけで、本当によくできていると思います。

土方 とんでもないです。佐々木さんの“合わせ鏡”が見られてよかったです(笑)。

佐々木 いや~、この番組を見ると、思わず自分が出ちゃうんですよ。自分が日ごろ、何にイラついているのか……。

土方 そうなんです。見ると、必ずイラつくんですよ。何かに対してイラつく番組。僕は『さよならテレビ』を“三方一両損番組”と捉えていて、「作った人」「見た人」「取材対象者」、全員が「マイナス1」になる。つまり、全員がちょっとだけ嫌な気持ちになり、誰も手放しで喜べない番組だと思っているんです。そうじゃないと、この企画は失敗だという覚悟で作りました。

“模範解答”まで作り手に求める風潮

佐々木 番組の最後に、私が苦手な澤村さん(笑)が「この番組のテーマって何?」と土方さんに問うシーンがありますよね? まさに“テーマ主義”の権化のように……。

土方 そうです。それこそ上映会が終わった後の意見交換会でも、よく「何が言いたかったんですか?」とか聞かれて困ったりします。

佐々木 「番組を見た人がどう受け取るか」という自由度よりも、「作り手が何を訴えたかったか」を視聴者が求めて、それを模範解答のように捉えてしまう。

土方 しかも、それが割と言語化されていないといけないというか……。「言葉ではうまく表現できないけど、衝撃を受けた」とか、「モヤモヤしたけど、決して悪いモヤモヤではない」といった感想ではダメで、ちゃんとそれが文章で表現できていないとよろしくないという風潮はあるように思います。

佐々木 “テーマ主義の呪縛”みたいなものは根強く存在しますよね。これは、核心を突く話かもしれませんが、番組の最後の最後に巧みなエピローグがあって、それを見て「なるほど、この番組は『伝えるって何?』とか、『報道するってどういうこと?』ということをテーマ(問題提起)にしていたんだ」というのが分かる構成になっていると思いました。もちろん、これは私の勝手な感想ですが、それが一番、土方さんがこだわった部分なんじゃないかと。

土方 そうかもしれないです。

佐々木 だから、そもそも『さよならテレビ』はテレビ業界批判を展開することが目的の番組ではない。あえてテーマを言うとしたら、「“伝える”とはどういうことか?」みたいな感じですよね?

土方 そうです。「何かを“表現する”ってどういうこと?」と。だから、僕の中では自分の気持ちが最もストレートに表れたシーンは、登場人物の一人である福島智之キャスターに「リスクを負わずに表現するのは無理だと思う」と話をした場面。あれが自分の思いに近いと思います。「万事、誰からも批判がないように表現する」のは無理なんじゃないかと。それと、「ドキュメンタリーにも当然、演出はある」ということ。それがいいとか、悪いとかじゃなくて、「そういうものなんだ」と。なぜかドキュメンタリーって一番、そういうものと縁遠い世界だと思われがちじゃないですか。

(『さよならテレビ』より) (C)東海テレビ
(『さよならテレビ』より) (C)東海テレビ

佐々木 「ドキュメンタリーにも演出は存在する」という前提に立って、いかに効果的に伝えるか、知恵を絞り、技術を凝らすのがプロのテレビ屋の仕事ですよね。

土方 そう、「そういうものなんだ」という。それを別にいいも悪いも言ってなくて、ただその現実を提示したというのが、あのラストシーンなんです。

※第2回につづく(全4回)。

(構成/佐々木 健一、人物写真/中村宏)

佐々木 健一 氏が企画・制作したBS1スペシャル「ボクの自学ノート~7年間の小さな大冒険~」は5月1日(水・祝)20:00~20:49(NHK BS1)放送。再放送は5月6日(月・祝)19:00~19:49(NHK BS1)