ミラノデザインウィークはブランディングの場であり、新規客を開拓する場でもある。参加企業の狙いによって展示内容も変わってくる。ニトムズやAGCが自社の商品、技術の可能性をアピールしたのに対し、セイコーウオッチは技術の裏にある情緒的な要素を伝えることに注力していた。
「ミラノデザインウィーク」ではこれまで、市内での展示を取りまとめていた雑誌『INTERNI』に加え、アートやデザインを発表する新たな場を提供する団体が増えてきたのが近年の傾向だ。日東電工のグループ会社で、粘着カーペットクリーナー「コロコロ」などを製造販売するニトムズ(東京・品川)が、2019年に参加した展示スペース「ALCOVA」もそのひとつ。
ミラノの伝統菓子パネットーネの工場跡地に20もの大小さまざまなスペースがあり、その中で最も広い800平方メートルの空間全体を使って、同社の空間装飾用テープブランド「HARU stuck-on design;」を実際に張りめぐらせる作品を創出させた。
建物の古い骨組みと部分的に残った屋根がむき出しの空間に、テープを重ねながら貼って幾何学模様の壁画に仕上げたり、柱と柱をつなぐように巻きつけたり……。人の気配が消えた廃虚に突然現れたかのような鮮やかな色彩は、強い印象を放っていた。
構成を手掛けたのは、商品のクリエイティブディレクションも担うSPREADの2人だ。全48色展開、貼って剝がせる特性を持つテープを訴求する目的意識は、過去3回の出展を通じてずっと一貫している。
ニトムズコンシューマ事業部門の小川隆久部長は、「一過性のお祭り的な要素ではなく、使用シーンの提案を念頭に置いている。例えば小売店舗でもこういった展開ができると伝えたいし、用途は自由だと思ってもらえるように工夫した」と話す。実際、18年の出展では、欧州の個人宅や公共の場向けに施工の受注を得た。空間インスタレーションに終始せず、従来のトレードショーとは全く異なるアプローチが生きる好機を、見事に捉えた。
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