個人の資金流動性が諸先進国と比較して低いとされる日本では、「貯蓄から投資へ」の実現が課題。そんな中、人々に経済合理性以外の投資動機を与えるお金のシェアリングがこの課題を解決し、より豊かな社会をつくる原動力になることが期待される。
最終回を迎える今回は、シェアリング・ビジネスによって社会がどう変わるのか、そのヒントを「お金のシェアリング」の観点からひもときたい。
お金はそもそも、ある一定の価値を表す指標として、他人と価値をシェアし合うために生まれた。では、天下の回りものであるお金のシェアリングとはどういうことか。
我々の研究では、シェアリング・ビジネスは「遊休資産の利活用を目的としたインターネットを介した個人間取引(P2P)における仲介サービス」と定義している。この定義に基づくと、お金における遊休資産は、例えばタンス預金のような「利用用途が不明確な預貯金(退蔵資金)」として存在している。この資金を、自身の銀行口座に眠らせるのではなく、資金需要のある事業へ投資し、社会全体を成長させる原動力とすることを国は推奨している。
しかしバブル崩壊以降、日本は諸先進国と比較して預貯金が多く、家計における現預金比率は欧米のおよそ倍である。そこで退蔵資金を動かし、経済活動に向けることができる新たなサービスの1つとして注目されているのがクラウドファンディングだ。内閣府の調査によると、クラウドファンディングによって生まれる新たな市場はおよそ700億~800億円だと言われている。
共感のマッチングをデジタル化する
では、なぜ従来の投資では動かすことができなかった資金を、クラウドファンディングなら動かせるのだろうか。
結論から言うと、クラウドファンディングは従来の経済合理性に基づく投資とは異なる、共感や応援というモチベーションでお金を動かすことができるからだ。
応援や共感というモチベーションで個人が他者にお金を支援するケースは、クラウドファンディング以前より存在していた。ストリートミュージシャンへの「投げ銭」がその一例だろう。
経済合理性とは必ずしも一致しない理由で投資を行う場合、相手と出会って人となりを知り、思いに賛同する必要がある。しかしながらこれまで、一般人の限られた人脈や行動範囲では、出資をする側とされる側が出会うことすらまれだった。
クラウドファンディングでは、相手に出会い、思いを知り、マッチングするプロセスをデジタル化した。出資者とデジタルプラットフォーム上で出会えるようになったことで、マッチングにおける時間や場所の制約を緩和し、出資を受ける側のチャンスを大きく広げることに成功した。
不特定多数のマッチング先から少額ずつお金を集めるスキームを組むことができることから、出資側としては退蔵資金の中からお金を出しやすくなった点も見逃せない。案件によっては、1円単位でも投資に参加できる。
クラウドファンディングは、応援や共感に基づく資金需給のマッチング成立を容易にし、さらにサービス拡大にも大きな役割を担いつつある。これにより、従来の経済合理的な投資判断だけでは動かなかった資金が動きつつある。
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