さまざまな企業や自治体が、次世代モビリティーの概念として注目されているMaaSのサービス開発や実証実験に取り組んでいる。ところで、そもそもMaaSは企業が躍起になるほど“もうかる”市場なのだろうか? 収益を上げるためにどのように取り組むべきか。本稿では、MaaS市場におけるマネタイズのヒントを紹介したい。
MaaSがもうかるビジネスなのかどうか、まず次の数字を見てほしい。タクシー配車サービスのJapanTaxiは営業損失7億7700万円(18年5月期)、サイクルシェアサービスのドコモ・バイクシェアも営業損失6億300万円(19年3月期)を計上している。海外に目を向けても、世界初の本格的なマルチモーダルMaaSサービス「Whim」で知られるフィンランドのMaaSグローバルでさえ、実はいまだ黒字に至っていない。
そもそもモビリティー産業は、既存のビジネスを“アズ・ア・サービス”化するだけで簡単に収益を上げにくい。MaaSの進展とともにさまざまなモビリティーがより簡単に利用できるようになれば、利用者の幅は広がるだろうが、その効果は限定的だろう。
なぜなら、サービス展開にはプロモーション費用や設備投資が必要なのに対し、収入が爆発的な規模まで伸びることは考えにくいからだ。人々にとって移動とは、あくまで手段であり目的ではない。どんなに便利になろうとも、人々が移動に対して今以上に特別な対価を払うようなことは期待できないのである。
では、どうすればMaaSは「もうかる」市場になるのか。必要なのはモビリティー市場だけを見て将来を悲観せず、人々の消費の目的となる産業(小売り、観光、エンターテインメント、飲食など)とモビリティーを掛け合わせて、広い意味で市場をとらえることである。消費(目的)あってこそのモビリティー(手段)というわけだ。本稿ではこれを「目的型MaaS」と呼ぶことにする。
「目的型MaaS」の方が“刺さる”
目的型MaaSとは、例えば高齢者が免許を早期返納した場合にさまざまな交通手段が使い放題となるサービスや、徒歩などの移動時間が多かった場合に買い物に使えるポイントを付与するサービスなどだ。「事故を起こしたくない」「健康になりたい」など、移動に関する意向や目的を明確に打ち出したMaaSの形だと言える。
MaaS Tech Japanと三菱総合研究所が共同で行った調査では、こうしたサービスはモビリティー単体だけのMaaSよりも利用意向が高い。さらに、特定の層(性別や年代など)で反応が高くなることが分かっている。目的型MaaSの方がモビリティー単体のMaaSより付加価値が高く、一人ひとりに刺さるサービスになっているためだと解釈できる。
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