ゆうこすがさまざまな分野のプロフェッショナルにインタビューし、ノウハウやスキルなどを学んでいくこの連載。後編では、スマートフォンのゲーム実況配信業界をけん引するミラティブのCEO(最高経営責任者)の赤川隼一氏に、企業との取り組みやサービスの今後の展望について聞いた。

(編集部)
 スマホゲームの実況配信アプリの「Mirrativ(ミラティブ)」は、特別な機材をそろえる必要がなく、スマホさえあればスマホゲームの実況ができてしまう手軽さが魅力。そんなMirrativはアバター機能を搭載しており、企業との面白い取り組みも行っている。ゆうこすはアバター機能にものすごく感心した様子だった。

ミラティブの創業者でCEOの赤川隼一氏(左)
ミラティブの創業者でCEOの赤川隼一氏(左)
プロフェッショナルの紹介
今回お話を伺ったのは、ミラティブのCEO赤川隼一氏。Mirrativは、スマホにダウンロードするだけで誰でも簡単にスマホゲームの実況をライブで配信ができるアプリ。コアゲーマーに特化したゲーム実況のプラットフォームであるTwitchやOPENREC.tvとは違い、配信者と視聴者のコミュニケーションを重要視し「スマホゲームのおともに」というキャッチフレーズを打ち出している。Mirrativにも課金アイテムのギフティング機能があり、視聴者がライブ配信者を直接支援することもできる。

実は世界最大のバーチャル配信のコミュニティー

ゆうこす 前回のインタビューでMirrativの機能や人気のライバーになるにはコミュニケーション能力が必要ということが分かりました。Mirrativでは「エモモ」というアバターを使って配信ができるんですよね? なぜ「エモモ」という名前なのでしょうか?

赤川隼一氏(以下、赤川) エモモは「emotional modeling(エモーショナルモデリング)」の略です。当初、「エモい会社」を作りたいという思いから「株式会社エモモ」を設立したのですが、そこから名前をとっています。ライブ配信は、感情が伝わりやすい「エモい」コンテンツだと思いますが、これまでは容姿を気にして始められない人も多くいたはずです。エモモがあればより手軽にライブ配信に取り組めるようになります。

Mirrativによるゲーム実況。右下のアバターがエモモ
Mirrativによるゲーム実況。右下のアバターがエモモ

ゆうこす 確かに。今、エモモを使った配信はどのくらい行われていますか?

赤川 かなり使われていまして、約100万人以上がアバター配信をしています。だから、配信者はほぼみんなアバターを持っている状態ですね。

 Mirrativのユーザーは、自分がバーチャルライバーだと思っていませんが、当たり前のようにアバターを着用して、音声やフェイストラッキングなどでアバターと連動して動きながら視聴者とコミュニケーションを取っています。実はMirrativは、世界最大のバーチャル配信のコミュニティーでもあるんです。ちなみにバーチャルYouTuberは、今かなり増えていますが、それでも日本に9000人くらいしかいないといわれています。

企業×デジタルアイテムの可能性は無限大

ゆうこす 今、ライブ配信が盛り上がってきていて、私自身ライブ配信でのPR案件の依頼をたくさん受けるようになりました。これはライブ配信を取り入れようと考えている企業さんが増えているということだと思うのですが、これからも参入する企業は増えてくるのではないかと考えています。

 17 LiveさんやMixChannelさん、SHOWROOMさんなど、ライブ配信アプリを提供する事業社では、一般の企業さんとコラボレーションをしてモデルのオーディションをしたり、配信やイベントで商品のPRをしたりしていますが、ミラティブさんでは企業さんとコラボすることはあるのでしょうか?

赤川 もちろんです。現在はゲーム会社さんにPRとして使っていただいているケースが多いですね。例えば、アバターのタイアップ。ゲームのキャラクターのコスチュームを着用できたり、ゲーム内のキャラクターがアバターの身体の周りを動いたりします。例えば、「WAR OF THE VISIONS ファイナルファンタジー ブレイブエクスヴィアス 幻影戦争」とタイアップしていて、「モーグリ」がエモモの周りに登場したり、アバターの着ぐるみとして登場したりしています。

エモモの着ぐるみがモーグリになっていたり、エモモの周囲にモーグリが登場する©2019 SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved. Co-Developed by gumi Inc.
エモモの着ぐるみがモーグリになっていたり、エモモの周囲にモーグリが登場する©2019 SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved. Co-Developed by gumi Inc.

 今はゲーム会社とのタイアップが多いのですが、「デジタルアイテムを配る」という観点でタイアップを展開できるので、ゲーム業界に限らず、さまざまな業界ともコラボできると考えています。例えば、可能性としてはアバターが着ている服がユニクロのようなブランドだったり、アバターがコカ・コーラを飲んだりしてもいいわけです。

ゆうこす 確かに! 配信中にアバターが急にコーラ飲むって面白いですね。そもそも、アバターを作るのってわくわくしますよね。私は絶対に自分に似せませんけど(笑)。

赤川 違う自分になれる感がいいですよね。アバター配信って、アバターに人格が引きずられるのが面白い。例えば、私がかわいいアバターを使うと、声色がかわいくなったりします。現実世界でも、子供と話すときに赤ちゃん言葉になってしまうという人もいると思うのですが、人は意外とTPOに合わせて人格を使い分けています。アバター配信をやっていると、そのことを実感しますね。

ゆうこす 私は今25歳なのですが、私たちの世代がアバター全盛期だった気がします。モバゲーとかアメーバピグとか。アバターってだけでテンションが上がりますね。

赤川 Mirrativはまさに、モバゲーやアメーバピグの次というのりが強い。メディアのような立ち位置のライブ配信アプリが多いですが、私たちは完全にSNSという感覚。ずっとゲームをプレーしているときに友達を見つけて、みんなで一緒に暇をつぶして楽しさを分かち合うSNSという感じなんです。

今後は、配信者に「武器」を持たせていく

ゆうこす 今後、Mirrativで強化する機能や、新しく追加する機能などはあるのでしょうか?

赤川 実は今、カラオケ配信もできるようになっています。「エモカラ」という機能で、こちらもマイクなど特別な機材を用意する必要がなく、曲を選ぶとカラオケのように演奏が流れて、配信者の歌に合わせてアバターが動くという仕組みになっています。歌がうまいけど顔出しをしたくない人ってたくさんいると思うのですが、それを解消したのが「エモカラ」です。

 このような「アバター×○○」という広がりはまだまだあると思っていて、積極的に仕掛けていこうと思っています。我々がやりたいことは、「誰でも配信できる」とか「誰でもゲーム実況ができる」こと。それって、配信者さんに「武器」を与えているという感覚に近い。

 例えば、「カメラの前で1人でしゃべり倒してくれ」とお願いしたとしましょう。それが得意な人もいますが、ほとんどの人が苦手だと思います。でも、ゲームだったらコンテンツが主体なのでたとえ無言に近い状態でも場をつなげられる。それが誰でもライブ配信ができる良い言い訳になっているわけです。

 カラオケも歌っていたら場が持つと思うんですよね。つまり、配信者のライブ配信のハードルを下げるゲームやカラオケなどの「武器」を提供することを大事にしようと思っています。そして、Mirrativがあると誰でも誰とでも気軽にコミュニケーションを取ることができる。同じ趣味の人とつながって、自分の毎日の生活が幸せになり、お小遣いを稼げて、やる気のある人はそれだけでご飯が食べていける――、そういう世界観を追求したいですね。

数年後には「配信」という単語すらなくなる!?

ゆうこす ありがとうございます。来年、再来年あたりからライブ配信がすごく盛り上がるのではないかと言われていますが、そこについてはどう思われますか?

赤川 5Gが実装されて通信が速くなり、パケットが使い放題の世界が来たら、皆どこでもライブ配信するようになると思っています。なので、ライブ配信業界全体が盛り上がると思うのですが、私たちはこれまで話してきたように、ちょっと性格が違うアプリなので、「配信」という単語が世の中からなくなるだろうと見ています。位置情報共有アプリの「Zenly(ゼンリー)」も、「常に自分は位置情報を共有し続けている!」と気合を入れて使っているわけではありませんよね?

ゆうこす 確かに、そんな感覚はないと思います。

赤川 要するに位置情報を自然と共有し続けている、つまり「垂れ流し」ですよね。Mirrativを使ってゲームをしている時間が当たり前のように垂れ流されて、同じように暇な人がいたら画面を見たりしゃべったりしながら一緒にプレーする。そういう世界になっていく大きな流れが来ています。

 また、それによってちょっとしたお小遣いを稼げる人が大量に増えていくのではないかとも考えています。毎日ゲームをしている人もいると思いますが、その時間を配信するだけで毎月10連ガチャ代くらいになるって、結構幸せな世界ですよね。10連ガチャ代くらいのお小遣いも稼げるし、友達もできるし、ゲームも教えてもらってうまくなるし……。マイナスなことって1つもないんですよ。

 「ゲーム実況やったことありますか?」と聞いてみると、特に私たちの世代とかだと「ない」と答えます。でも、「昔友達の家でしゃべりながらゲームやったことありますか?」と聞くと100%「YES」です。それが、5Gでネットワークが速くなり、同時に遅延がなくなると、友達の家でゲームしているのとほぼ同じ感覚になっていきます。

ゆうこす 今までインタビューをしてきたライブ配信アプリとはまた違うお話でしたが、「ゆるくていいな!」って思いました。エモカラとか、ぜひ私もやってみたいです! 今回はありがとうございました。

(写真/稲垣純也)

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