ゆうこすがさまざまな分野のプロフェッショナルに会い、ノウハウやスキルなどを学んでいくこの連載。ライブ配信者(ライバー)の育成にも力を入れているゆうこすが、ゲーム実況サービスMirrativを運営するミラティブのCEO(最高経営責任者)赤川隼一氏にサービス内容や人気のライバーなどについて聞いた。
(編集部)
ライブ配信者の育成やマネジメントを行う会社321を立ち上げたゆうこす。経営者でもある彼女が目を付けたのが、スマホゲームの実況に特化したMirrativだ。ゲーム実況の配信は、ゆうこすにとってはまったく新しいジャンル。彼女がアイドルやタレントなどを生み出すために利用しているライブ配信サービスとは何が違うのか、共通点はあるのかなど、さまざまな疑問をぶつけてみた。
コンセプトは「友達の家でドラクエやってる感じ」
ゆうこす 私はライブ配信がとても好きで、さまざまなアプリで視聴したり、実際に自分でも配信をしたりしているのですが、ゲーム実況は分からない領域なのでいろいろと教えていただきたいです。よろしくお願いします! まず、Mirrativがどんなアプリなのかを教えていただけますか?
赤川隼一氏(以下、赤川) Mirrativは、スマホゲームの実況に特化したライブ配信アプリです。ゆうこすさん世代には、ゲーム実況はメジャーな存在として知られていますが、40代以降の人の中には「オタクっぽいもの」という印象があるかもしれませんね。しかし、YouTube(日本)で再生されているコンテンツの10~15%はゲーム実況だと言われているほど、メジャーコンテンツになっています。
また、今までゲーム実況をするにはパソコンや専用の機材をそろえて、難しい設定をしなければなりませんでしたが、Mirrativでは、2、3回タップするだけですぐゲーム実況ができるようになりました。現時点でMirrativを利用してライブ配信をしている人は約160万人に上り、今日本でスマホゲームの実況者が最も多いアプリになりました。ゆうこすさんが取り組まれているライバーのようなビジネスモデルとは異なるので、少し性格が違うかもしれませんが、私たちはライブ配信をTwitterの次を担うコミュニケーションコンテンツとしてとらえています。ゆうこすさんは普段スマホゲームはプレーしますか?
ゆうこす 結構しています!
赤川 ガチャを引いて、いいキャラやアイテムが出たらスクリーンショットを撮ってTwitterに投稿したりしませんか?
ゆうこす します! モンスト(モンスターストライク)とかでもやっていました。
赤川 まさにその動きがライブ配信でも日常的に起きてくると考えていて、これから5Gが実装されるようになり、通信が高速化していくと、当たり前のようにライブ配信する時代が来ると思っています。
Mirrativのコンセプトは「友達の家でドラクエやってる感じ」です。私たちの世代では、ドラクエは1人用のRPGゲームでしたが、なぜか友だちの家で一緒にしゃべりながらやっていました。これがゲーム実況の源流だと思っていて、それをちょっと前はTwitterを通じて今の状況をシェアしていたのが、今はオンラインのライブ配信でしゃべりながら友だちの家でやっている状況を再現できるようになっていて、今後もこの動きは加速していくと思っています。
Mirrativは「誰でも配信できる」ことを大事にしていて、スマホがあればすぐにゲーム実況ができてしまうというのが最大の強み。なので、いわゆる「ライバー」と言う肩肘を張ったものというよりは、普通にゲームをしているときに、ついでに起動して、誰かとしゃべりながらプレーするという感覚のアプリだと理解してもらえればと思います。
ゲーム実況業界では珍しく女性のユーザーが多い
ゆうこす 男女比で言うと配信者側はどんな感じなのでしょうか?
赤川 ライブ配信者の男女比は6:4なので、ゲーム実況の割にはとても女性が多いですね。今世の中ではeスポーツが話題になってすごく大きなトレンドになっているとは思うのですが、eスポーツはどちらかというとゲームがうまい人の実況を見ようという考え方。つまり、プロ野球に近い感覚ですね。対してMirrativはというと、誰でも配信できるので部活や草野球に近い。そういう層の人がライブ配信をしやすくなるような環境を整えていますから、普通にゲームをしている女性も参加しやすいのだと思います。
ゆうこす なるほど。では、視聴している側も同じような比率になるのでしょうか?
赤川 全体のユーザーの男女比も6:4なので、視聴者もおおむねこの割合でしょう。いわゆるeスポーツのようなプロのゲーマーが試合をする「ゲーム実況特化」のサービスでは、男女比が世界的にも8:2くらいの割合だと思うので、Mirrativは日本独自のかなり変わったアプリになっていると思いますね。
コミュニケーションが「価値」になる
ゆうこす 少し疑問に思ったことがあります。私はYouTubeでメイク動画を配信しているのですが、YouTubeではメイクが下手だったら見てもらえません。つまり何を配信するにしてもどこかに実力がないと再生回数は伸びません。しかし、Mirrativではプロのゲーマーではない人が配信しても見てもらえるものなのですか?
赤川 まず、モチベーションが違うと思っています。世の中にはプロゲーマーのプレー動画や、ゆうこすさんのようなメイクのノウハウ動画なども絶対必要な「情報」です。「動画」が視聴者に提供している価値としてはあくまで「情報」なのです。「情報」はたくさん見られることで高い価値を生み出します。
Mirrativのライブ配信は、視聴者に与える価値として「コミュニケーション」を大切にしています。「コミュニケーション」という観点で考えると、「たくさん見られること=価値が高い」ではありません。Mirrativの世界では、「別に1万人に見られなくてもこの瞬間誰か1人にでも見てもらえればいい」という人のほうが多い。人は「情報」と同じくらい「コミュニケーション」を求めていているのだと思います。
ゆうこす そっか~。自分はもう数字、数字で、いかに見られるかの世界で生きてきたので、最初は全然分からなかったのですが。なるほど、理解できました。
赤川 もちろん、数字がついてきているライブ配信者も当然います。コミュニケーションがうまい人はもちろんですが、最近は複数人のプレーヤーで協力して戦ったり遊んだりする「マルチプレー」ができるゲームが増えてきているので、入れ代わり立ち代わり皆に遊び場を提供して、上手にコミュニケーションが取れる人にも視聴者がついています。
Mirrativでは、ゲームをしながらしゃべっているだけでゲームの10連ガチャ代相当のギフトを手にする人が大量にいますが、中には月に数百万円相当に達する人もいます。
ゆうこす えっ、スマホゲームの実況で数百万円ってすごくないですか。稼げる人と稼げない人の違いは、コミュニケーション能力によるのでしょうか?
赤川 その通りです。いわゆる(17 Liveなどの)ライブ配信アプリに近いところがあって、コミュニケーション能力はとても大切な要素です。
ゆうこす ただゲームをプレーしているだけじゃ駄目なんですね。しかも、いわゆるライブ配信アプリでは顔など見た目が重要な要素ですが、Mirrativでは見た目はあまり関係ないですものね。
赤川 ゲーム実況では特に顔出しをする必要はありません。顔を出して人気になれる人は出したほうがいいですが、顔を出したくないという人も世の中にはたくさんいます。でもそういう人たちの中には、実はゲームがすごくうまかったり、歌がすごくうまかったり、いろんな才能を持っていますよね。自分の顔を映さずにライブ配信ができれば、そういう人と一緒に遊んで楽しむ(=コミュニケーション)という価値を生むことができるのです(※アバターを使ったライブ配信は後編で詳しく紹介します)。
ゆうこす 私はゲーム実況を見るといつも愕然(がくぜん)としてしまいます。私たちはテロップを入れて一生懸命編集して、かわいくして顔を出して、やっと再生回数を稼いでいるのに、ゲーム配信者はトークセンスが半端なくて、全然勝てる気がしません。脳をフル回転してゲームをしながらずっとしゃべっているのは本当にすごい。
赤川 ゲームをやりながらしゃべっているという感覚と、インスタライブでカメラを前にひたすら視聴者とコミュニケーションを取っている感覚は違います。ゲーム実況の場合、コンテンツの主役はゲームですから、しばらく無言でも自然と場が持ち、コミュニケーションが継続していく、という大きな違いがあります。
ゆうこす ありがとうございます。やはりライブ配信ではたとえゲーム実況であってもコミュニケーション能力が求められるものなのですね。後編では、これまでどのような形で企業とタイアップをしてきたのか、さらにMirrativの今後のサービス展開などについてお聞きします!
(写真/稲垣純也)