ゆうこすがさまざまな分野のプロフェッショナルからノウハウやスキルなどを学んでいくこの連載。後編の今回は、仮想ライブ空間 SHOWROOM(ショールーム)を運営するSHOWROOMの代表前田裕二氏に、ビジネスモデルとしてマネタイズができるライブ配信者(ライバー)はどんな人物なのか、今後活躍するライバー像などについて聞いた。

(編集部)
 ライブ配信を仕事にしたいと思っている人を、プロのライブ配信者(ライバー)として育成する事務所を設立したゆうこす。そんな彼女が、「どのようにマネタイズすればよいのか」「どうやって配信者を大スターに押し上げればよいのか」など、日ごろ考えている疑問をSHOWROOMの前田裕二氏にぶつけた。

プロフェッショナルの紹介
今回インタビューしたのは、仮想ライブ空間SHOWROOMを運営する同社の代表・前田裕二氏。SHOWROOMは現役のアイドルやアーティストに加えて、アイドルになりたいといった夢を持つ一般人もライブ配信者になれる。視聴者は課金アイテムを自分が応援する配信者にギフティングすることで、その配信者を応援する。そして配信者はその課金アイテムから報酬を得る仕組みだ。中には月1000万円の売り上げを誇る配信者もいるという。「ルーム」と呼ばれる配信者の空間を訪れると、視聴者はアバターを通じてコメントでやり取りができる。

ライバー事務所は視聴者からの収入が期待できる

ゆうこす 実は、1年くらい前からライバーの卵を集めて、「ライバー事務所」をつくりました。今後は、YouTuberの某有名事務所のような形で配信者をサポートして、ライブ配信事業を成功させていきたいと思っています。

前田裕二氏(以下、前田) 素晴らしい! YouTuber事務所の「直接課金版」みたいな形態ってことですよね。

 YouTuber事務所の多くは、一部のトップユーチューバーが大きな企業タイアップなどで事業を支えるビジネスモデル。人気上位のユーチューバーは、「対クライアント(toB)」の広告ビジネスを柱に一定額は稼げていますが、人気下位のユーチューバーも事務所にたくさん登録している中で、それらは、広告によるマネタイズがなかなか見え難いケースも多い。まだ駆け出しで、タイアップ(案件)も満足につかず、主に再生数によるアフィリエイト収入がベースになっているようなユーチューバーは、よほどの再生回数を超えれば別だが、収益は安定しづらい。再生回数あたりの単価、つまり、「何回再生で何円お金をもらえる」というものさしにも価格調整が入ることもある。たとえものすごく頑張って100万回再生されたとしても、それ単体で大きな見返りが期待できないことも多い。

今後はタイアップやアフィリエイトに加えて、視聴者から直接収入が得られる
今後はタイアップやアフィリエイトに加えて、視聴者から直接収入が得られる

 下位のYouTuberのマネタイズを模索する中、ここをtoBではなくて、「対コンシューマー(toC)」のビジネスに変えていこうという動きもある。「MCN(マルチチャンネルネットワーク)」(※)が、いわゆるライバー事務所的性質も同時に備える流れ、ですね。

※ YouTuberなど動画クリエイターのマネジメントを業務とする事務所のこと

 僕が今MCNを立ち上げるとしたら、MCNとライバー事務所を合体させたような会社にして、toCとtoBを両方取り込むと思う。登録しているライバーで人気上位の人がtoBすなわち対クライアントでタイアップを取る一方、下位のライバーでも視聴者(対コンシューマー)からtoCのギフティングで直接収入が得られるようにしていく。人気が下位のライバーでも視聴者からの直接収入で食べていけるようにちゃんとサポートする、すなわち、「YouTuber事務所の直接課金版事務所」を立ち上げる、というのは業界にとって有意義なことで、素晴らしいと思います。

ゆうこす はい、そうなんです! 私はYouTubeだけでなく、テレビなどのマスメディアに出演したり、ほぼ毎日ライブも配信したりしています。だからイベントに来てくれたり、密にコミュニケーションを取ってくれたりするコアなファンがつくれるし、新規のライトなファンもつくれるようになってきたのですが、ライブ配信からスタートすると、「人気ピラミッド」の上位には入りにくい構造になっていると思ったんです。

前田 その通りだと思います。インフルエンサーやタレントの分類について、よく、横軸をファンの数、縦軸をファンとの距離(身近か偶像か)にして考えます(下図)。ファンとの距離が遠く、コミュニケーションもあまり取らない、コンテンツをあまり更新しないというタレントが上で、逆に、ファンからの距離が身近でたくさんファンとの双方向なやり取りもしてコンテンツを頻繁に更新する人が下、だとしますよね。この図で上から下に、つまり、本来「偶像」だったアイドルを毎日会いに行けるほど「身近」に寄せていくと、結果、ファンの数が増えた。これがAKB48の本質かなと思います。

タレントの属性をファンの数と距離で4象限に分類
タレントの属性をファンの数と距離で4象限に分類

タレントは人気も偶像性も高い大スターを目指す

前田 芸能事務所に所属しているけどファンはまだ少ない。でも、事務所のルールもあってTwitterやSNSなどをふんだんに使ってファンを増やす活動ができない人は、意外とたくさんいる。そういった人たちにサポートを提供するのが、ゆうこすの事務所の役割なのだと思います。ライブ配信やTwitter、InstagramというSNS領域でしっかり頑張ってもらって、この身近側の位置(B)に持っていって、濃いコミュニティーをつくる。そしていずれ、マネタイズにもつなげていく。

ゆうこす まさにその通りです。ファンの少ない子たちを身近な存在に寄せるのは私の事務所でできるようになったのですが、偶像性が高くてファンが多い、Cの位置に持っていくのが難しくて……。

前田 確かに、それが一番難しいですよね。そこはもう、「プロデュース」が必要になってくる段階だから、一筋縄ではいかない。ここも含めてサポートしてあげられるようになると、さらに事務所として価値が上がりますね。ここは僕も最近一番考えているところです。でも、必ずしもそこ(C)まで持っていかなくても、Bまで連れていくだけでもすごい価値がある。ファンが全くついていない状態から、少なくとも一生懸命頑張ってさえいれば一定のファンがついて、そのコミュニティーの力で、何らか好きなことで生きていけるようになる。これだけでも、エンタメ界においてはもうひとつの大きな革命だと思います。

 Bの位置のライバーは、Cの位置に行ける可能性があると思う。例えば最近の人気YouTuberの一部は、ファンが多くて偶像性もあるCの上のほうにどんどん近づいている。ドラマに出演したり、地上波TVにもどんどん出るようになるなど、さらに右上の「大スター領域」に向かっていっている印象を受けますよね。

人気のYouTuberは、偶像性が高く、人気も高い大スター領域に近づいている
人気のYouTuberは、偶像性が高く、人気も高い大スター領域に近づいている

 もちろん、良いことばかりではない。偶像性が高くてファンが多いという大スター領域にいると、身近に感じてくれていたファンの熱が下がって、今度はファンへの影響力が下がる現象が起きるケースもある。その意味でも、今自分はどういった立ち位置なのか、ファンとどの程度やり取りをすべきなのか、ということを戦略的に考えたりして、自分を常に客観視せねばならない時代ですね。

 客観視は、B象限にいるライバーにとっても極めて重要な習慣です。ライバーがBからC象限に向けて成長する上で大切なのは、今までやっていた「毎日配信」や「毎日Twitter更新」などのファンとの距離を身近にする行動を抑えて、今度は、何らか偶像性を高めるためのアクションに切り替えていく、ということ。ある意味、ファンを遠ざけるようなアクションを取らねばならないこともある。これを戦略的にできる人は少ないなと思っています。

 例えば、ゆうこすや幻冬舎の箕輪厚介さんなど、時代のインフルエンサーと呼ばれる人たちは、この「遠・近」の距離感の取り方がうまいと思う。例えば、箕輪さん。普段はSNSでファンとゆるいコミュニケーションを楽しんでいるんだけど、いざ講演会に出ると、ここぞとばかりにキレッキレな発言をする。箕輪さんが編集の話をすると「やっぱ箕輪さんって圧倒的にプロなんだな、遠い存在なんだな」って思うわけです。普段はゆるっと身近にコミュニケーションが取れてしまうので、「友人(=近い)」という感覚も同時に持つ。二面性を戦略的に使い分けることで、ファンの熱量をつくっているわけですね。

SNSなどで人気を得たYouTuber、ライバーが大スター領域に向かうには、あえてファンを遠ざける活動が必要
SNSなどで人気を得たYouTuber、ライバーが大スター領域に向かうには、あえてファンを遠ざける活動が必要

 一般的なタレントの成長を「人気と実力」の2軸で考えると、今までの世界なら、実力もなく人気もないところからスタートした後、まずは実力を上げた。役者でもアーティストでも、スクールに通ったり練習したりして地肩を伸ばそうと頑張って、その中からオーディションを受けるなりして認められた一部のタレントが、一躍人気者になる、という流れが主流だった。当たり前ですが、実力を上げてもオーディションに受からずに、埋もれてしまう場合もたくさんある。ところがSNSが登場して、「人気スタート」という道が出てきた。つまり、実力にかかわらず、まずはSNSで人気を上げてしまって、その後から、実力を考えればよい、といったケース。

タレントが成長する道筋。現在は実力よりも人気先行で成長するケースが多い
タレントが成長する道筋。現在は実力よりも人気先行で成長するケースが多い

 直近の問題意識の1つが、「地肩」問題。つまり、SNS領域における努力によって身近な存在として「人気」を上げた人が、ある一定のところまで来たら、今度は人気ではなくて、「実力」を上げるための努力に移行せねばならないのですが、それが見えていないケースが多い。自分のファンコミュニティーという守られた宇宙船の中にいると、「船内だから空気を吸えているのかもしれない」という現実を忘れ、船からたまに、宇宙服すら着ずに飛び出していく人がいる。

 宇宙服こそ、地肩であり、自分に備わった戦闘力、実力です。芸能界という宇宙で息をするためには、各分野における、卓越した実力が必要です。例えば俳優なら芝居の力がすさまじいし、アーティストだったら当たり前ですが、とても歌がうまい。かつ、声質や見せ方の差別化も効いている。このあたりの地肩がちゃんと備わ っていないと、到底、マス化・一般化はし得ないし、大スター領域に到達することは断じてできない。

 ライブ配信の一般化、ということを考えたときに、おそらく今一番の課題はそこなのかもしれません。身近を突き詰めて、努力して人気を獲得するフェーズから、次の「本当の実力」の世界に踏み出すところで足踏みしている。100人を対象にエンターテイメントを提供していく、ということなら、全く問題ありませんが、より大きな聴衆を幸せにしたい、と思うのなら、本当は、「自分はこの分野で勝っていく」と決め、徹底的に自分を客観プロデュースし、YouTubeやInstagramなど既存SNSを使いつつも、戦略的にマス露出をしたり、作品を出したりするなどの偶像側のアクションを戦略的に取らねばならない。

動画制作はチーム制の時代に

ゆうこす なるほど……。実は私、動画編集の会社も設立しようと考えています。今のYouTuberは、「自分で撮影もして編集するのがかっこいい!」みたいな風潮があって、確かにすべてを自分でできるのはすごいことだと思うのですが、そこまで一人で頑張る必要はないのでは? と感じます。そこで、ライブ配信でファンと日常のコミュニケーションを取れる体制を支援して、YouTubeはチームを組んでサポートをしようと考えているのですが……。

前田 確かに、それは僕も思っていたことで、YouTuberという仕事には、企画→出演→撮影→編集→拡散という要素がありますが、今、そのすべてをやるのがYouTuberだという風潮がある。でも、これからは、企画や撮影・編集まで必ずしも一気通貫、自分1人でこなさなくていい時代がくると感じています。それぞれが得意なことに特化して、「チーム」で良質なコンテンツを作っていく、チームの時代の到来です。

動画制作の工程。これからはチームで分担するようになる
動画制作の工程。これからはチームで分担するようになる

ゆうこす 出演や拡散に特化するスタイルがかっこいいというか「すごい!」という流れになってほしいなと思います。今回はライバー論の講義を聞いているようで、とても分かりやすく、ためになる話を本当にありがとうございました。

(写真/稲垣純也)

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