ゆうこすがさまざまな分野のプロフェッショナルからノウハウやスキルなどを学んでいくこの連載。今回は、仮想ライブ空間SHOWROOM(ショールーム)を運営するSHOWROOMの代表前田裕二氏に、SHOWROOMとはどんなサービスなのか、人気の配信者やこれまでの面白いタイアップ案件などについて聞いた。
(編集部)
自らInstagramやLINEなどでライブを配信しているゆうこす。ライブ配信者(ライバー)の育成も手掛ける彼女が、ライブ配信事業を展開しているSHOWROOMに注目した。さまざまなライブ配信アプリ・サービスがある中で、SHOWROOMはほかのサービスと何が違うのか、その特色や人気配信者の特徴、タイアップ企業とのユニークな取り組みについて教えてもらった。
ゆうこす 本日はSHOWROOMやライブ配信について教えていただければと思います。SHOWROOMは、2018年あたりから女性の視聴者が増加しましたよね? 最初、登録している配信者は女性アイドル色が強かったと思うのですが、最近は19年2月にジャニーズ事務所から初の「バーチャルアイドル」が誕生したり、カラオケ機能が追加されたり、ライブコマースが始まったり、今は幅広い人が配信者や視聴者になっている印象があります。
前田裕二氏(以下、前田) 男女比がもともとの8対2から7対3や6対4に向かっていて、視聴者も40~50代が多かったけど、年齢は若くなりました。最近は25~34歳がメインですね。登録配信者もやはり女性が多い。でも、最近は雑誌ジュノンの男性モデルや吉本興業の男性配信者など、男性の配信者も増えてきています。
SHOWROOMは「夢」をかなえる場所
ゆうこす 私はさまざまなアプリやサービスでライブを配信していますが、SHOWROOMはほかのアプリやサービスとどこが違うのか教えてください!
前田 SHOWROOMのようなギフティング型のライブ配信は、「経済的な対価をモチベーションとするか」「自身の夢の追求をモチベーションとするか」の2つに分かれると思います。芸能界で人気者・スターになりたい人にとっては、SHOWROOMは最適な場所。芸能界とのつながりもあるし、そもそも芸能界へ押し上げてあげたいと思っている視聴者がたくさんいるから、本気で夢をかなえたいと思っている人が応援されやすい。
ゆうこす 確かにSHOWROOMさんはイベントや雑誌のモデルオーディションなどがすごいですよね。
前田 今、我々が番組を持つなど、SHOWROOM自体がメディアになる動きもあるので、そこに出演するだけで夢が1つかなうような流れをつくっていければと思っています。
ゆうこす いろんな配信者がいると思うのですが、どんなライブコンテンツが人気ですか?
前田 本気で夢を追っている配信者を応援するサービスの性質上、そういった優しい視聴者が多く、夢や目標を持って頑張っている人が人気です。トップ配信者になるにはさまざまな工夫や努力が必要ですが、大きく分けて、「熱量が凄い」「客観的視点とセルフプロデュース」「ストーリー性」という3つの要素が重要で、特に熱量が差別化要因になっていると感じます。例えば「なつみかん(東菜摘)」という、SHOWROOM発で最近地上波テレビにも出始めている配信者がいるのですが、彼女は本当に凄まじい熱量をもっていて、それが視聴者にも乗り移って熱いコミュニティーを形作っています。
ゆうこす 私も知っています! すごくいい子で……。
前田 もう本当に心がピュアなんですよね。他にも、シンガーの「ゆきこhr」は、少し前はライブを開催しても見に来てくれるファンが最高で5人くらいだったそう。今では250人のワンマンライブとかも開催していて、SHOWROOMでの人気もすごくて。ゆきこhrは純粋に歌で生きていきたいって思っていて、それにファンが共鳴しています。
それからAbemaTVの「オオカミちゃんには騙されない」に出ていた「宮瀬いと」ちゃんも、SHOWROOMで「『JELLY』のモデルになりたい!」って本気で思っていて、「JELLY」の雑誌モデルオーディションに参加したら、一気に人気になりました。SHOWROOMでもものすごく応援されているから、ディレクターの目にも留まってそのまま本当に専属モデルになってしまい、勢いそのまま、「オオカミちゃん」にも出演していました。
ゆうこす ええ、すごーい! スターだ!
前田 ライブ配信ってものすごく素が出てしまうから、うそはすぐバレます。彼女たちのように、ピュアでモチベーションを高く持っている人、夢にうそがない人が人気になりやすい。
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ストーリーづくりが難しいなら、キャラを立てる!
ゆうこす 私はライバーを育成していますが、「モチベーション」と「自己プロデュース」は事務所として支援できると思うんですけど、ライバー個人でストーリーをつくるのって結構難しいですよね。事務所がストーリーをつくって、「あなたはこういう設定で」というわけにもいかないですし……。
前田 確かに、難しいです。これはもはやプロデュースの領域。もし、自分自身がストーリーをあまり持っていないと感じる場合は、ある種虚構の「キャラクター」をしっかり立たせることでも十分に代替できます。有名な歌手でも、本当にその人の人間性をそのまんま反映した人と、全く別のキャラを演じるケースに分かれますよね? 後者を演じきるというのも、一つの手です。
ゆうこす 確かに!
前田 こうやって誰もが異口同音に同じことを言ったりイメージしたりできる状態にもっていくのが、「キャラ立ち」するということかなと。誰かと同じキャラにしても埋もれてしまうので、「ほかの人と比べてどうキャラが違うのか」という俯瞰(ふかん)目線がとても重要です。だから、「あなたはこんな“唯一無二”を持っている」ということに気づかせてあげるのが、今後、ライバー事務所にも求められてくると思います。誰もがストーリーを持っているというわけではないし、必ずしもその必要はない。
ただ、ちょっと難しいのが、「虚構」がキャラづくりにおいて大事なキーワードであることです。先ほどあったように、ライブ配信はうそをつけない。つまり、一定の虚構性が必要なキャラづくりと、ライブ配信自体の相性が、必ずしも良いわけではない。キャラとは、本人の素の性格とそっくりそのまま一致するものでもない。
キャラ立ちという虚構性と、うそがないライブ配信の両立は、結構難しいものです。ライブ配信も虚構のまま、演じたままのキャラでやらないといけないとなると、かなりの器用さが求められるからです。だから、動画じゃなくて声だけの配信も増えていたりするのかなと。顔を出さずにいれば、「別の星から来ました、宇宙人です」っていう設定でやろうと思ったら、それで頑張れる。
一流のアーティストやスターは、ファンと合意の上で、ステージ上で徹底的に虚構を演じられます。多くのライバーは、限られた人数の濃いファンにとっての身近な存在として人気者になりますが、ファンが多くて偶像性の高いいわゆる一流のスターにはなかなかなりづらい。ここが難しいところ。ライブ配信者が一流のスターになるには、どこかで虚構性や偶像性――エンタメで言えば、例えば歌唱力や演技力という実力を磨くこともその一環――を引き上げないといけません。ネット発の歌い手でマス化したスターは何人もいますが、全て、卓越した音楽性が前提となっています。このあたりは次回詳しく話します。
バーチャルジャニーズのタイアップ事例
ゆうこす なるほど。今ライブ配信って、企業PRとかイベントとか、企業とコラボすることが増えていると思うのですが、SHOWROOMが今まで行った面白いタイアップ事例はありますか?
前田 バーチャルジャニーズプロジェクトと実施した「KATE」(カネボウ化粧品のブランド)とのタイアップで、面白い現象が起きました。これも虚構の話とつながりますが、化粧下地の商品を広めたいと思ったときに、ライブ配信で演者に商品の説明をさせても、言わせられている感があってうそっぽくなってしまうリスクがある。そこで、「虚構のストーリーの中に商品を入れ込もう」と考えました。
ジャニーズのバーチャルキャラクター2人をマネジメントしている「前田くん」というキャラがいて、ツイッターで指令を出す。前田くんは、高校2年生なのに2人のプロデュースを行いながら、マネジャーも兼ねています。そんな前田くんが、
「今回のテーマは、『伝える力』。世界一のアイドルを目指すにあたって、物事の本質を見抜いて魅力的に伝える能力を養っていきたい。今回、KATE様から初めてアルバイトのお仕事をいただきました! ある『モノ』の良さを2人なりに伝えてもらおうと思う」ってツイートして、
「KATEの商品の良さをファンと一緒に調べて、1週間後にプレゼンしてね」
という指令を出しました。
2人は化粧下地どころか、化粧をどうやるかも知らないから、「ファンの私たちが先に買って、何がいいかを調べて2人に伝えるね」と、ファンの皆さんがまず買って調べてくださった。ファンは商品を購入して使っているうちに、この商品に愛着を持って、その結果この商品が擬人化されていって、商品を旅行に持って行って写真を撮る人が現れたりとか、夏に商品に水着を着させて「一緒に海に来ました!」ってつぶやく人が現れたりとか(笑)。認知だけではなくて、一気に「大好き」というところまで持っていく。「愛着マーケティング」と呼んでもいいかもしれませんね。
ゆうこす すごい! きっと相当売れたでしょうね。
前田 喜んでいただけたと思います。マーケティング的には、普通プロダクトプレイスメント(映画やテレビドラマなどの中で、実在の商品や企業名を表示させること)ってユーザーとのエンゲージメントをそこまでしっかりつくれない。ゆうこすと僕が商品を週1で配信して、そこにタイアップを付けて「この商品いいよね」と言っても、ファンの皆さんはきっと共感しない。商品の濃いファンをつくるという意味で、「愛着マーケ」は新しい手法として広がっていくかもしれませんね。
ゆうこす 愛着マーケにライバーを使うのはすごく有効ってことですか?
前田 相性はとてもよいと思います。基本的にファンは、ライバーが好きなものが好きだし、ライバーの夢の応援につながるならと思ってくれるから。だから、その商品が好きでもないのに、「好きです」と言うのではなく、そこにうそがないように、ストーリーの中にプロモーションを組み込む、ということです。
ゆうこす そのアイデアに脱帽です……。今回はありがとうございました! 次回は、前田さんが考えるライブ配信やライブ配信者の今、そして、未来、どんな配信者が台頭してくるのか、などについて聞いていきます!
(写真/稲垣純也、写真提供/SHOWROOM)