ゆうこすがさまざまな分野のプロフェッショナルから学ぶこの連載。今回は、1度就職してからインフルエンサーに転身した「元美容部員 和田さん。」との対談で盛り上がった。
(編集部)
最近のSNSは絶大な発信力を備え、企業のイメージアップやブランド力を高めるのにうってつけ。そのため企業もこぞってアカウントを持ち、情報発信をするようになったが、うまく運用できずに悩んでいるケースも多い。そんな中、ゆうこすは元大手化粧品メーカーの美容部員でC Channel(東京・港)の社員から美容クリエイターに転身した元美容部員 和田さん。に注目。YouTubeに出演することになったいきさつや、ファンとのコミュニケーションの取り方、「いい動画」を作るためのこだわりなどを聞いた。
動画のテーマは「お客さまの悩み」
ゆうこす 和田さん。は、C Channelという企業の社員から、インフルエンサーになった非常に稀有(けう)な存在だと思っています。とても興味深いのですが、なぜインフルエンサーになったのか経緯を教えていただけますか?
和田さん。 もともと大手化粧品メーカーの美容部員として6年ほど接客をしていました。基本的に美容部員は1対1でお客さまに対応するのですが、あるときからより多くの人のニーズに応えたいという思いが芽生え、最後に属していたブランドが日本から撤退したことをきっかけにC Channelに入社しました。
当初は裏方として、主にコスメ動画の企画などをしていましたが、ひょんなことから自分がYouTubeに出演することになって、今に至っています。入社する前はインスタグラムで発信することも考えましたが、C Channelに入っていなかったら、どんな機材をそろえたらよいのかということも知らなかったのでYouTubeも始められなかったと思います。いろんなきっかけが重なって社員からインフルエンサーになれたのは、今考えると非常に感慨深いものがあります。
ゆうこす 社員の視点だけでなく、接客や制作など、動画を作るうえで大切なすべての視点があることが本当にうらやましいです。
私はPR案件のお仕事をいただく機会があります。効果的なPR方法を代理店やクライアントに提案するのですが、会社に所属したことがない私は(クライアントの考えなどに配慮ができず)苦労することもありました。最初の頃はどういうことが求められているのか、どんな風に対応すればよいのかが分からず、無意識のうちに自分に有利な条件を出すなど、全然クライアントのことを考えられていなかったのです。
その点、和田さん。はさまざまな視点があるので、PR案件だけでなく、自分でコンテンツを作り出すときにも、今までの経験が生きると思います。これまで、インフルエンサーとして社員であることや接客の経験が動画やPR案件などに生かされたケースはありますか?
和田さん。 美容部員として接客していた現場がとても長かったのですが、当時は一社員だったので、なかなか上の経営層に自分の意見が伝わらないというもどかしさを感じていました。同時に、自分で動いて何かを回すという立場に行けなかったからこそ現場のお客さまの課題点などを見つけることができたと思います。そのときの課題はいまだに生きていて、「お客さまの悩みはこれ」ということが動画を作る際のテーマ選定にもなっています。
ゆうこす では、動画のテーマとかは会社からの指示ではなく、自分で決めているのですね。
和田さん。 はい。最初に動画配信を始めたときは、YouTubeを熱心に見ていた同期の知人に「和田ちゃんは美容分野でいったら伸びるよ!」という一言をいただいて、そこから自分は何をやろうかなと考えて続けて今があります。チャンネルを作りたての頃はファンとコミュニケーションが取れるツールがまだ確立されていなかったので、昔働いていた現場で困っていたお客さまのニーズを引き出してきて、そこからリアルな悩みに落とし込んでいきました。「自分が一番お客さまのことを知っている!」という自負があったので、常に自分でテーマを決めていました。
ところが、YouTubeの発信ばかりしているとどんどんネタが切れてしまい、お客さまのリアルな肌感が何も分からなくなります。そこで、現在はインスタライブを週に1、2回行い、企画会議という形で視聴者のリアルな悩みをヒアリングして、次回のテーマを決めています。
ゆうこす では、そのインスタライブが視聴者やユーザーとのコミュニケーションの場にもなっているのですね。
和田さん。 そうですね。私が求められているニーズ、つまり他のYouTuberやインフルエンサーとの違いは、情報性だと思っています。私自身も視聴した人に有益な何かを提供したいというプライドがあるので、基本的に視聴者の質問に答えられるよう準備しておくことを大切にしています。皆さん、「美容部員はいつでも答えてくれる」というイメージがあると思うので、それに答えられないとすごく悔しい。なので、視聴者が何に困っているのか、季節のことなども考えながらある程度予想をして、それに対する知識をたまった状態になったときにライブをします。そのためコミュニケーションの回数は少なめといえるかもしれません。
インフルエンサーには多角的な視点が必要
ゆうこす 実は、和田さん。の動画を見たときに、「いい意味で全然YouTuberじゃない人が来た!」って思ったんです。テンポ感などはYouTuberっぽいと思ったのですが、「やってみた」系の内容ではなく、YouTubeの肌感はありつつも、どこか世間一般のYouTuberではないというのがすごいなと思って。まず「元美容部員 和田さん。」という名前も珍しくて。「○○ぴょん」みたいな名前が多い中で、「和田さん。」という文字は目を引きますよね。極め付きは、大体みんながゴシック体のテロップを使っている中で、明朝(笑)。
和田さん。 確かに(笑)。動画を作ったのはC Channelの編集マンです。当時私はただ、よい情報を伝えて盛り上がるのを見てみたいけれどもYouTubeは何もわからないという状況でした。出来上がりも最初配信されたときも正直知らなかったですし、お任せで1本目2本目も全部編集してくれたのですが、自分で全部やるのではなく、他の人にプロデュースしてもらうこともとても大事だなと感じました。他人から客観的に見てもらい、明朝にしようとか、名前は「和田さん。」にしようとか……私に知識がなかったからこそ実現した部分が多いですね。
ゆうこす 名前も決めてもらったんですか?
和田さん。 「美容部員のとき何て呼ばれていたの?」と聞かれて、「和田さん」と答えたのですが、昔、「モーニング娘。」がすごく好きだったという話もしていて、「じゃあ『。』も付けとく?」という流れで、特に大きな戦略的な意図はなく決まったんです。
ゆうこす とはいえ、他の方との違いになっていますよね。和田さん。が「○○ぴょん」とかだったら……と想像すると全然合わないし、「和田さん」は「和田さん。」だなあと思います。自分の一番よいところや、アピールすべきところって、自分ではなかなか分からない部分でもあるので、そこをプロデュースしてもらえたというのは、会社に所属しながらYouTubeをやるメリットなのかなと感じました。
そういえば、一時期動画編集者さんが辞められたときがありましたよね。見ていて大丈夫かな? と心配になりましたが、あのときはどうやって動画編集者の募集や選定をしたのですか?
和田さん。 あのときは本当に焦りました。素材を撮っても自分で編集をするのは無理なので「配信ができない!」と絶望しました。実は、先任者が今まで作ってきた動画のフォーマットを残してくれていて、引き継ぎ材料があったというのが大きいのですが、C Channelで新しい編集マンを募集してもらいました。最終的には2、3人に絞ってもらい、私が直接面談をして決めました。復帰は結構早かったのかなと思っています。
ゆうこす 会社で手配をしてくれるというのは強いですね。私はまだ動画編集者を探せていないので、頑張りたいなと思いました。
また、和田さん。とお話をしていて、YouTuberやインフルエンサーには、一般常識や社会人としての多角的な視点が必要だと感じました。社会人を経験したことのないYouTuberやインフルエンサーに、企業側がいろいろ教えてほしいなと思います。
和田さん。 本当ですね。より視野が広い、社会人やっている人は、今後強くなると思います。
ゆうこす 豊富な視点を持てるYouTuberやインフルエンサーが強くなるということは、一般企業からインフルエンサーが生まれる可能性もあります。企業から社員のインフルエンサーを創出することは難しい気がしますが、後編は社内にいる「SNSで発信したい」という若者をどうサポートすればよいのかをテーマに、和田さん。と議論をします!
(写真/稲垣純也)